バトナーのニットは1枚でサマになる。理由はクラフツマンシップにあり|知っておくべきブランド

バトナーのニットは1枚でサマになる。理由はクラフツマンシップにあり|知っておくべきブランド

いくら直幸


デビューから10年、一時の人気に終わらず定番的な存在となったニット専業ブランド<バトナー(BATONER)>。今の時代にフィットするだけでなく長く着られ、シンプルにして主役となる個性もある。モノ作りの背景を知ると、その魅力がもっとわかるはず。

伝統と最新が交差する山形ニット

「メイド イン ジャパン」。それは最高峰のクオリティを担保する信頼の証でもあります。ファッションの分野では岡山県のデニム、福井県のメガネを筆頭に、国内外に名を馳せる産地が全国に点在しており、ニットにおいては山形県が有数です。

県の内陸部、ほぼ中央に位置する村山地方。この一帯は戦前から軍手や靴下の製造が盛んであり、戦時中には軍服用のウールを自給するため国から羊の飼育を奨励されたことで繊維業が定着。これを礎に、戦後の復興と高度経済成長のなかでニット産業が急速に発展しました。最盛期の1980~1990年代初期には、約450社もの企業が県ニット工業組合に加盟する一大産地となります。

しかし、ほかの製造業と同様、多くのアパレルが安さと早さに重きを置いて諸外国へと生産拠点を移したことで、地域の産業は衰退。現在は20社ほどに激減してしまいました。ただ視点を変えれば、逆境を乗り越えて存続している数社には、相応の理由がある。海外に負けない、マネのできない確固たる強みをもち、コストや効率だけでは計れない価値あるモノ作りを追求してきたのです。

また、国内のほかの産地と比べて新幹線の開通が遅くアクセスが不便だったため、大手の商社やアパレルが参入しづらく、昔ながらの丁寧なモノ作りが残ったことも特色になりました。こだわりの強いブランドが時間を要してでも現地まで足を運び、ここでしか作ることのできないニットを求めたのです。

産地内一貫生産と磨き抜かれた感性

その代表格が寒河江(さがえ)市のニット専業メーカー、奥山メリヤスです。1951年創業の同社は、長きにわたって築き上げてきた伝統とクラフツマンシップを受け継がながらも、決して安住することなく時代の変化にも対応し、今も技術と感性を向上させています。ラグジュアリーメゾンや個性的なデザイナーズ、著名なアパレルメーカーなど、そうそうたるブランドの製品を請け負ってきた歴史が実力を物語っており、ユナイテッドアローズのオリジナルニットも多く手掛けています。
そうして培われた高度かつ多様なノウハウと、磨き上げてきたセンスを遺憾なく発揮すべく、2013年に設立された自社ブランドが<バトナー>です。OEM、すなわち他社の意向に沿ってモノ作りをするだけでは活かす場のない古きよき技術や新たな技術、独自の表現、エキスパートの叡智とプライドがここに凝縮されています。また一般的にサンプル制作に充てられる期間は1シーズンに1~2か月のところ、<バトナー>では6か月~それ以上を費やし、納得がいくまで幾度となくサンプルを制作。企画から生産まで自社で行っているため制約が少なく、すべての工程にじっくりと時間を掛けることができるのです。

しかも編み立てや縫製を行う自社工場の周囲には、紡績、染色、仕上げ、2次加工といった製造インフラがすべて揃っており、いずれもクルマで15分圏内という距離。生産に必要な工場がここまで集中しているニットの産地は国内に類を見ず、世界的にも稀だとか。この産地内一貫生産は、大きなアドバンテージです。各工程での流通コストと時間のカット以外にも、デザイナー自身が1日に何度も現場に赴き、それぞれの職人と密なコミュニケーションを図り、直に確認しながら作業を進められるため、微妙な色合いや風合いの調整が可能になる。仕様書だけでは伝えきれない細かなニュアンスの共有によって、いっそう精度の高い商品を実現しています。

ただし工場は生産のプロであって、デザインは本業ではありません。ゆえに素晴らしい技術力や品質を誇るものの、ファッションとしては垢抜けないファクトリーブランドが多いのも事実。その点<バトナー>は、時代の空気感を捉えてカタチにするクリエイティビティに長け、タイムレスに着られるベーシックさと今の気分で着られる洒脱さを兼ね備えている。そこは名だたるブランドとの仕事で磨かれた美的感覚の賜物でしょう。

なかでもブランドの名刺代わりと言える定番の「シグネチャー」シリーズは、そうした魅力を存分に味わえるアイテム。ふんわり膨らみがあり、キレイにウネが立った畔(あぜ)編み。部位ごとに編み立てたパーツを熟練職人の手作業で1針ずつ緻密に繋ぎ合わせ、スッキリとした継ぎ目と豊かな伸縮性を叶えたリンキング処理。厳選素材や絶妙なシルエット、これらが結実した上質感あふれる佇まいと気持ちのいい着心地。さらに、これほどのクオリティにして抑えられた価格も、産地のファクトリーブランドだからこそ。こうしたひとつひとつの優れた技術と高い品質の集積によって、シンプルでありながら1枚で着てもサマになるニットが形作られているのです。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在は『Begin』『OCEANS』をはじめとするメンズ雑誌とウェブマガジンに寄稿するほか、有名ブランドや大手セレクトショップの広告&オウンドメディアなどで活動。また、日本テレビの情報バラエティ番組『ヒルナンデス!』のコーディネート対決コーナーでは審査員も務める。

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