

スタンダードサプライ|ミニマルに見えて使い勝手マキシマル!なリュック|知っておくべきブランド
いくら直幸
2024年でデビュー10周年を迎えた東京発のバッグブランド<スタンダードサプライ(STANDARD SUPPLY)>。人気No.1のデイパックを筆頭に、その印象はどれも “ 普通 ”。ではなぜ多くの目利きに絶賛され、愛用者を増やし続けているのか? これまでの歩みや主要モデルの特長とともに解説します。
バッグ一筋40年のマイスターが指揮
ブランドを率いるのは、大手バッグメーカーでチーフデザイナーを務めるなど、この道一筋40年近いベテランである藤本孝夫氏。米軍基地の街・長崎県の佐世保で1965年に生まれた氏は、幼少期よりミリタリーアイテムやジーンズに触れて育ち、中学生になると雑誌『ポパイ』を愛読してアメリカンカルチャーへの憧憬を抱きます。その後、高校卒業を機に上京し、桑沢デザイン研究所へ入学。20歳のときに『ポパイ』の記事からバッグデザイナーという職業を知り、それが現在の道を志すキッカケになったのだとか。
当時は大きなカバンと言えばダッフルバッグやボストンバッグが主流の時代。しかし、かねてキャンプやアウトドアを趣味とする氏は、都内のアウトドア用品店を回ってバックパックを物色していたそう。なかでも強く感銘を受けたのがグレゴリー。代表作のデイパックをはじめ、バックパック&ブリーフケースとして使えるミッションバッグ、ブランドが提唱する “ 背負うのではなく着る ” という概念、そして “ バックパックのロールス・ロイス ” と称えられる異名も衝撃的だったと語っています。

看板シリーズであるシンプリシティの「デイリーデイパック」は、ブランドのファーストシーズンより10年続くベストセラー。このモデルからファンになるユーザーも多数。
そして20年にわたるメーカー勤務からフリーでの活動を経て、2006年に起業してエバーグリーンワークスを設立。同時に自社ブランドのアーツ&クラフツをスタートさせ、男クサい無骨なトートバッグや革小物でファンを獲得します。早くから好調を続けるなか、古きよきマウンテンパーカに使われる60/40クロスを用いたデイパックを発売。これをアーツ&クラフツから独立させ、より使いやすく、よりクリーンでカラフルにブラッシュアップし、新たな派生ブランド<スタンダードサプライ>のシンプリシティシリーズとして改めてリリースしたのが2014年のこと。2サイズのデイパックを中心とする7型から始まったコレクションは、今や100型を超えるまでに拡大しています。
シンプルなデザインに叡智を凝縮
ボディの生地は一部の限定モデルや別注品などを除いて、先に挙げた60/40クロスが定番です。コットン約60%×ナイロン約40%の比率から通称・ロクヨンと呼ばれるそれは、前者のナチュラルな風合いと後者の光沢が織りなす独特の表情が持ち味。双方の特性を併せもつため蒸れにくくタフなうえ、濡れるとコットンが水分を吸収・膨張して密度が詰まり、ナイロン本来の耐水性と相まって雨の浸入をブロックします。そもそもは1960年代に開発されたクラシックアウトドア屈指の機能ファブリックです。<スタンダードサプライ>では当初、アウター用のものが使われていましたが、現在はバッグ専用に改良したオリジナルの60/40クロスへと変更されています。
メインコンパートメント及びフロントポケットのファスナーには、信頼のYKKのなかでも最高峰となるエクセラを選定。引き手とスライダー、細かな噛み合わせパーツの1粒1粒まで入念に磨き上げられたメタルジッパーは、美しい輝きと滑らかな手触りを楽しめ、開け閉めもとてもスムーズ。カジュアルなリュックにさりげなくも品のよさや高級感を添えています。しかも左右両方から開閉できるWファスナーなのも非常に実用的です。

同シンプリシティシリーズの「2ウェイサブトート」。A4ファイルやノートPCを想定したサイズで、内側に2つのポケットを配備。ショルダーストラップは着脱可能。
また上部のトップハンドルには、野球グローブなどに用いられるグローブレザーのグリップカバーが。耐久性に優れながらも柔軟で弾力に富むため、手に柔らかく馴染んで握り心地がよく、電車内などで手持ちする際も手が痛くなりにくい嬉しい心遣いです。
さらに本体の左右には2つのポケットをレイアウト。片側は折りたたみ傘やドリンクボトルに適したスリットタイプ。反対側は入口をマジックテープで留められるので、スマートフォンやIC定期券などを収納しても落とす不安がありません。またマジックテープは指1本分の隙間を開けて縫い付けられているため、開閉しやすいのも気が利いています。

シンプリシティシリーズの人気定番であり、1泊2日程度の荷物が収まる「2デイショルダー」。こちらは品のよい光沢ナイロンと旧ロゴのレザーパッチを採用した別注品。
いたってシンプルに見えるデイパックには、このように数々の機能と創意工夫がギュッと詰め込まれ、なかなか気が付かないような隅々にまで細かな配慮が行き届いているのです。
ずっと一軍になる究極のスタンダード
愛用すれば必ずや魅力を実感できるので、ぜひアナタも自身の身をもって人気の理由を確かめてください。

ファッションライター いくら直幸
人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。