グレゴリーのリュックは、なぜ “ ロールス・ロイス ” と呼ばれるのか?|知っておくべきブランド

グレゴリーのリュックは、なぜ “ ロールス・ロイス ” と呼ばれるのか?|知っておくべきブランド

いくら直幸


リュックサックを購入する際、きっとアナタも<グレゴリー(GREGORY)>を検討したことがあるでしょう。絶大な支持と信頼を集め、“ バックパックのロールス・ロイス ” と讃えられる理由を、ブランドの歴史や名作をとおして解説します。

少年時代に覗かせた才能の片鱗

<グレゴリー>を語るうえで避けては通れないのが、現代バックパックの父とも称される創業者、ウェイン・グレゴリー氏の存在。1948年にアメリカ・コネチカット州で生まれ、カリフォルニア州サンディエゴで育った彼は、幼少期より父親にサバイバル術を習い、ボーイスカウトに入団。そのプログラムの一環として、弱冠14歳で人生初のバックパックを自作します。これが地元のアウトドアショップから高く評価され、店のオリジナルギアを製造する工場で本格的にパック作りを学ぶことに。

'69年にショップが閉鎖となると、彼は翌年、パック専業ブランド<サンバード>を設立。しかし、当時の主流であったエクスターナルフレームパック(本体の外側にフレームを備える背負子タイプのバックパック)自体のフィッティングに限界を感じ、わずか3年で解散。その後フリーランスのデザイナーとなり、複数の著名ブランドで寝袋やテント、テクニカルウェアなどを手掛けるように。ただ、パックへの情熱は潰えず、'77年に<グレゴリー・マウンテン・プロダクツ>(数年後に<グレゴリー>へ改称)をスタートさせたのです。

“ 背負う ” ではなく “ 着る ”

新たなブランドで彼が提唱したのは、“ 背負う ” ではなく “ 着る ” という概念。すなわち洋服のようにフィットする快適なパックの実現です。そこで活路を見出したのが、まだ各社が試験段階にあったインターナル(本体内にフレームを収める)構造でした。背中のカーブに沿って曲げられる内蔵フレームを開発し、さらに可動式のショルダーハーネスを採用することで、体格に応じて適正な背面長(背中の長さ)に調節できるファーストモデルを完成させます。これがバックパッカーのバイブルとなっていた名著『ザ・コンプリート・ウォーカー3』で絶賛され、飛躍的に知名度と支持を高めたのです。

以降も、理想の具現化へと邁進します。個々のユーザーが身体にフィットするパックを選べるよう、ウェアやシューズのように1つのモデルに対して複数のサイズを展開。さらには、世界で初めてショルダーハーネスとウエストベルトのサイズ交換を可能にします。ほかにも人間工学や解剖学に基づく設計、時代時代の先端技術とマテリアル、独創的なアイデアをもって、パック界に数々のイノベーションを起こしたのでした。そうした極地にも対応するテクニカルパックで培われたノウハウは、ハイキングやデイリー向けのアイテムにも存分に活かされ、フィールドにとどまらず街でのシェアも拡大させたのです。

すべてに品質・快適性・使い勝手を

日本上陸は'80年代半ば。その頃の他社製品と比べて2倍以上も値が張っていたにもかかわらず、すぐさまブレイクを果たします。目の肥えたアウトドアユーザーは優れたクオリティとタフな仕様、そして背負い心地に驚き、当時のアメカジの盛り上がりを追い風にファッションシーンでもファンを獲得。軒並み即完売となり、供給が追いつかないほどだったとか。さらにヴィンテージブームの'90年代には、旧タグを探し求める若者が続出したことも人気に拍車を掛けたのです。
タウンユース層に<グレゴリー>の名を知らしめたのは、定番モデルの「デイパック」でした。創業から間もない'79年に発売され、アップデートを重ねながら今日まで続くマスターピースです。現在デイパックと言えば、1日分の荷物が収まるバックパック全般を指す一般名称ですが、実はこちらの商品名が由来と言われています。また世のデイパックの典型である、底面に向かって幅広になるティアドロップ型のフォルムを提案した先駆けでもあり、さらには手袋のままでも扱いやすいレザーの大きなジッパープルも考案するなど、デイパックのスタンダードを築き上げた名作です。

無論、アイデンティティである品質と快適性の追求は健在。耐摩耗性に優れる420デニールナイロン。毎日酷使しても生地がホツれないよう、縁にはパイピングによるエッジバインディングが施され、しかも表側のみならず内装まで丁寧に処理されています。また、開閉しやすく壊れにくいYKK社の大型ジッパー。背中に沿うようセンターで屈曲するバックパネルと、腰回りを包み込む三日月型のボトム。人体構造に合わせてカーブさせることで高いフィットを叶え、肉厚パッドで肩回りへの負荷を軽減させたショルダーハーネス。背負い心地&運動性を大幅に向上させる、本体とショルダーハーネスを連結する三角形のウイングパーツ……などなど、機能に紐づくディテールが細部の細部にまでギュッと詰め込まれています。

これ以外にも、世界で最も多くコピーされたパックとの逸話も残る、1日半分の荷物が入る「デイアンドハーフパック」。今では定着した、ウエストポーチをタスキ掛けしてボディバッグとして使う源流となった「テールメイト」。こうしたロングセラーをはじめ、近年登場のモデル、ビジネスやトラベルシーンで親しまれているアイテムも、新旧すべてのプロダクトにブランドの哲学が息づいているのです。

実際に背負えば、バッグを “ 着る ” 感覚、そして世界中のVIPやセレブリティが身を委ねる極上の乗り心地と品質になぞらえた “ ロールス・ロイス ” と謳われる理由を体感できるはず。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在は『Begin』『OCEANS』をはじめとするメンズ雑誌とウェブマガジンに寄稿するほか、有名ブランドや大手セレクトショップの広告&オウンドメディアなどで活動。また、日本テレビの情報バラエティ番組『ヒルナンデス!』のコーディネート対決コーナーでは審査員も務める。

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