
オーラリーは服好きほど虜になる、贅沢なのに等身大のデイリーウェア
2023.05.01
知ってほしいブランドについてファッションライターが語る連載コラム

2026.07.23
日々の暮らしに溶け込むベーシックな洋服でありながら、細やかな気遣いに “らしさ”が宿る。どこまでもていねいな服づくりで人気を博すファッションブランドの<YAECA(ヤエカ)>。ディテールのひとつひとつに目を向ければ、時代や性別を問わずに愛され続ける理由が見えてきます。
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ユニセックスな人気を誇る<ヤエカ>は、デザイナーの服部哲弘氏と服部恭子氏の夫婦によって、2002年に立ち上げられました。ブランド名は「八重日」という造語から。“日々を重ねて着続けてもらえる服”をつくりたいという想いが込められているといいます。<ヤエカ>の服にベーシックなアイテムが多いのもそのため。スタート時のコレクションも、数型のメンズシャツとチノパン、デニムと、普遍的なアイテムに限られていました。
<ヤエカ>のモノづくりのキーワードに“必然的にシンプル”というものがあります。これはシンプルがカッコよいという単純な話ではなく、着心地のよさや使い勝手という道具としての本質を追求したとき、服は必然的にシンプルになるという真理を突いたものといえるでしょう。
そして<ヤエカ>の服は、シンプルであることが必ずしも無個性ではないことを教えてくれる存在でもある。アイコニックな「コンフォートシャツ」を例に解説しましょう。
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スナップボタン留めのアイコニックな「コンフォートシャツ」。こちらはゆったりシルエットが気分の「エクストラワイド」モデル。
「コンフォートシャツ」は、フレンチフロントと呼ばれる前立てにコバステッチを伏せた襟と、まさしくミニマルを極めたルックス。生地は洗いざらしがサマになる柔らかな風合いで、着る人を選ばず馴染んでくれます。加えて写真のモデルは、身頃にたっぷりしたゆとりを設けた「エクストラワイド」フィット。美しいドレープを描くとともに、空気を纏うように軽く、優しい着心地が楽しめます。
ディテールに目を向けると、ボタンが開閉しやすいスナップ式になっていることがわかります。薄手のシャツにして、どこかコーチジャケットを彷彿とさせるのはこのため。裾のゆるいカーブや袖口の形状もブルゾン的ですね。そして極めつけが、サイドシームに隠れるように設けられたポケットの存在!シャツの胸ポケットは往々にして飾りになりがちですが、サイドに設けることで、俄然使いやすくなります。これらが相まって<ヤエカ>の「コンフォートシャツ」は、インナーとしてもアウターとしても重宝する、唯一無二の一着に仕上がっているのです。
ちなみに<ヤエカ>は服づくりにあたり素材の開発から行っていて、さらに毎年細かなブラッシュアップを重ねているといいます。“使う人にとっても、環境にも優しい”ものづくりを心掛けているという姿勢にも、<ヤエカ>らしさが滲みます。
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タックによって腰回りにゆとりを設けた、定番チノパン。クセのないストレートシルエットは、スタイルを選ばず。
2アウトタックの入った定番チノもシンプルなデザインですが、随所に<ヤエカ>節を感じることができます。
フロント、前開き部のトップをご覧ください。トップはホック留めになっているのですが、そのすぐ下にスラッシュホールが設けられ、そこからボタンが顔を出す構造になっています。内側に持ち出しを作ってそこをボタンで留めるのは一般的ですが、本作ではボタンを外に覗かせることで、ちゃっかり視覚的なアクセントにしているんですね。
素材は一般的な単糸ではなく双糸を高密度に織り上げた、オリジナルのチノクロスを使用。ウエポンとは対極をなすしなやかな風合いと腰回りのゆとりが相まって、至ってコンフォータブルな穿き心地を享受できます。
裾処理もカジュアルなたたき仕上げではなく、表地に縫い目の出ないルイス仕上げ(まつり縫い)になっている。ミリタリー由来のチノパンでありながら、ドレススラックスの品のよさを兼ね備えているのも、ならではの魅力といえましょう。
清涼感のあるコットンヘンプ生地を用いた、夏対応デニム。バギーシルエットながら、クリーンなテイストが楽しめます。
バギーデニムも、わたりから裾へ掛けてテーパードするフォルムに“らしさ”が光ります。やや小ぶりなヒップポケットを上寄りに付けているのもポイントで、これによりヒップがシュッとして見える。存在感のあるバギーデニムとはいえ、ストリートっぽく腰に落として穿くのではなく、ジャストめにキレイに穿くのがサマになる一本といえるでしょう。
この生地は綿とヘンプを組み合わせた糸で作った、ライトオンス(10.5oz)のデニムです。<ヤエカ>のデニムは、生地を扱いやすくするための加工をせず、キバタに生じる縮みや捻れを精密に計算しながら作り上げられています。
全て旧式の織機を使用しており、生地の表面に残された毛羽立ちのようなやわらかな風合いは、生地からの国内生産にこだわってこそ実現できるものです。
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ここで余談を。<ヤエカ>には都内に4店舗の直営店もありそれぞれに個性的なのですが、とりわけ白金の「YAECA HOME STORE」は、世界観を体現する存在といえます。静かな住宅街の中に佇むそのショップは、以前フランス人が暮らしていたという木造の一軒家を改築したもの。年季の入った剥き出しの梁(はり)を見上げる店内には、洋服のほかアクセサリーやうつわ、オブジェ、アンティーク家具といった、暮らしにまつわるさまざまなアイテムが置かれています。
そしてショップには、カフェとともに故・坂本龍一氏の愛した図書を閲覧・購入できるスペース「坂本ヤエカ」を併設。外の庭には坂本氏が幼少期から使用していたアップライトピアノが置かれていて、雨風にさらされ徐々に朽ちていく様子を見ることができます。坂本氏が生前、ニューヨークの自宅の庭で行っていた“ピアノを自然に還す”実験をYAECA HOME STOREでも行っています。野晒しになったピアノからは、朽ちていくものの儚さや美しさが感じられます。
ファッションには着込むことで生まれる味を“エイジング”として愛する文化がありますが、考えてみると、着心地がよく流行に左右されない<ヤエカ>の洋服は、エイジングを楽しむベースとして理想の存在といえます。繰り返し袖を通すことで生地の柔らかさが増し、愛着も増していく。そんなところもまた、<ヤエカ>の洋服が愛されてやまない理由かもしれません。
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定番のリブソックスは、日常使いしやすいナチュラル、ミディアムグレー、ネイビーを展開。柔らかな履き心地も、人気の所以です。
<ヤエカ>は、その服づくりにおいて「暮らしの中で何気なく使われる日用品のような存在」を目指しているといいます。そして洋服にはデザイナー自身が実際に袖を通し、暮らしの中での気づきを基にブラッシュアップを重ねていく。流行を追うのではない、本質を突き詰め終わりなく磨く創作の姿勢も、<ヤエカ>というブランドの核といえるでしょう。
最後に。これはライターの偏見ですが、<ヤエカ>を好む人のスタイルからは、「ステキ」という言葉が想起されます。シンプルで上質な服を気取らずに着るものだから、自ずと内面のよさが滲み出ている。純粋に、ステキだなぁと思うんですね。きっと部屋もおしゃれなんだろう、とか、おいしい料理つくるんだろう、とか、いつも勝手ながら思っています(笑)。
( Writer Profile )
ファッションライター
秦 大輔
学生時代からライター業を始め、20代半ばでモノ&ファッション誌『Begin』編集部へ。再びフリーランスライターとなり、さまざまな雑誌やブランドのオウンドメディア等に寄稿している。ドレスファッションを得意とするほか、著名人へのインタビュー、コーヒーやバードウォッチングなど趣味分野の記事執筆も手がける。
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( Item Lineup )