連載コラム【音楽のある風景】 Vol.156

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2025.04.30 

グリーンレーベル リラクシングの店舗BGMを選曲されている、選曲家の橋本徹さんより、コラム【音楽のある風景】が届きました。
どうぞお楽しみください!

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4月の選曲は、優雅な粋が香る思い出の音楽に“音のフレグランス”を感じて。
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新緑香り陽光あふれる美しい季節、気候的にもすごしやすい待ちに待ったGWですが、皆さんいかがおすごしでしょうか?
僕は5/15に迫った、早稲田大学で環境民俗学の授業の一環として開く講演会「渋谷文化漂流史」(学生以外の一般の方も無料で受講していただけます)のために、(レジャーを楽しくという気持ちもありつつ)しっかり準備したいなという思いも強く、気を引き締めている今日この頃。

そして遂に、僕の2025年ファースト・コンピとなる『Incense Music for Dining Room』も、5/16にリリースが近づいてきましたので、今回のこのコラムではもちろん、そのコンピレイションについて紹介させていただきたいと思います。
このコンピのために素晴らしい新録カヴァーを制作してもらったオープニングに連なる3曲、YAKENOHARA「Peace Piece」(ビル・エヴァンスのカヴァー)〜Nitsua「Love Theme From Spartacus」(ユセフ・ラティーフのカヴァー)〜中島ノブユキ「Flamenco Sketches」(マイルス・デイヴィスのカヴァー)のDJ Mitsu the Beatsによるリミックスには、先月先々月のコラムで詳しく触れていますので、今月は僕が選曲した珠玉の名作群の中でも、今回のセレクションを象徴するような逸品について。

それは1990年にリリースされたムーヴメント・98・フィーチャリング・キャロル・トンプソンの「Joy And Heartbreak」。
当時24歳だった僕に、新しい音楽の扉を開いてくれたエポックメイキングな存在としても大切で、繰り返し聴いた12インチ・シングルを、その年の暮れに作った「Suburbia Suite」の最初のフリーペーパーのトップ・ページで紹介したことも、懐かしく思いだしたりします。
というのもこの作品は、「家具の音楽」という概念を提唱した近代フランス(印象派以降)のクラシック作曲家、エリック・サティの不朽の名曲「ジムノペディ」の旋律を、エレガントなグラウンド・ビートにのせているのですね。
「ジムノペディ」は自分にとって心を鎮めてくれるピアノ曲としてビル・エヴァンス「Peace Piece」と双璧で、僕がいまだに選曲の際に最も重用しているクラシック曲でもあります。

ムーヴメント・98はセカンド・サマー・オブ・ラヴで一世を風靡したイギリスのDJ/プロデューサー、ポール・オークンフォルドを中心とするユニットですが、可憐で瑞々しくたおやかな、クール&メロウな歌声が素敵なラヴァーズ・ロックの歌姫、フィーチャリング・ヴォーカリストのキャロル・トンプソンに強く惹かれるきっかけになったのもこの曲でした。
同じ頃リリースされたコートニー・パインによるダイアナ・ロス「I'm Still Waiting」のグラウンド・ビート・カヴァーでの伸びやかな歌唱にも魅せられ、すぐにさかのぼって手に入れた彼女の1981年のデビュー・アルバム『Hopelessly In Love』も、一生レヴェルの愛聴盤になりましたね。
彼女はその後、僕が愛してやまないFree Soulのメロウ・サイド屈指の人気曲、デニース・ウィリアムスの「Free」をマッド・プロフェッサー主宰のUKラヴァーズ名門アリワで吹きこんだり、1994年にフィーチャーされたGota & The Heart Of Goldの「Someday」は、僕が「Joy And Heartbreak」「I'm Still Waiting」と共にコンピ・シリーズ『Free Soul 90s』に収録して、30年以上にわたってDJプレイし続けているマイ・クラシックになっています。

ちょっと説明が長くなりましたが、本当に「Joy And Heartbreak」は1990年前後のUKソウルの優雅な結晶のような名品で、“音楽の粋が香るような音楽”だと思います。
思えばそれは、僕にとって音楽に香りを感じた最初のリスニング体験で、だからこそ“香りと音楽のマリアージュ”をテーマにした『Incense Music for Dining Room』への収録を思いついたのでしょう。
24歳の僕が初めて“音のフレグランス”を感じたクラブ・ミュージックでありポップ・ミュージックを、ぜひ“音のアロマセラピー”としてお楽しみください。

追記:
GW明けからUNITED ARROWS green label relaxingのショップBGMに加わる日本語詞の曲は、大好きな「Eureka」に続いて完全にFree Soulテイストで嬉しくなってしまった星野源の新曲「Star」を始めとする、以下の4作です。
①星野源「Star」
②HIMI「Summervibez」
③オレンジ・ペコー「LOVE LIFE」
④松任谷由実「緑の町に舞い降りて」
“香りと音楽のマリアージュ”をテーマに、心安らげるアンビエント〜ジャズ〜チルアウト〜バレアリカ〜ポスト・クラシカル〜ジャジー&メロウ・ビーツの珠玉の名作群が80分間にわたって紡がれ、美しいアートワークと素晴らしいマスタリングにより、生活の中で心地よくリラックスできる“音のアロマセラピー”のように繰り返し聴きたくなる至福のコンピ・シリーズ、その第3弾となる橋本徹さん選曲の素敵なコンピレイション『Incense Music for Dining Room』
今春リリースされる“香りと音楽のマリアージュ”をテーマにした橋本徹さん選曲の新作コンピ『Incense Music for Dining Room』からのサード・シングル・カットとなる7インチ・レコード、YAKENOHARAによるビル・エヴァンスの名作カヴァー「Peace Piece」
今春リリースされる“香りと音楽のマリアージュ”をテーマにした橋本徹さん選曲の新作コンピ『Incense Music for Dining Room』からのセカンド・シングル・カットとなる7インチ・レコード、Nitsuaによるユセフ・ラティーフの名作カヴァー「Love Theme From Spartacus」
今春リリースされる“香りと音楽のマリアージュ”をテーマにした橋本徹さん選曲の新作コンピ『Incense Music for Dining Room』からのファースト・シングル・カットとなる7インチ・レコード、中島ノブユキによるマイルス・デイヴィスの名作カヴァーのナイス・リミックス「Flamenco Sketches (DJ Mitsu the Beats Remix)」

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橋本徹(SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。最近はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズや、香りと音楽のマリアージュをテーマにした『Incense Music』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/
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