
ヒト
2025.10.16
「UA CURATED」、スタイリストTEPPEI氏と描く新しいファッション体験。
昨年10月よりユナイテッドアローズ社がスタートさせた次世代向けのコミュニケーション施策。第3弾の新プロジェクト「UA CURATED」は、同社が展開する全ブランドの多彩なプロダクトを横断的に編集し、新たな切り口で発信していくキュレーションストアプロジェクト。外部のクリエイターやカルチャーリーダーをパートナーに迎え、それぞれの嗜好や感性に沿ったテーマでストアを展開します。10月から始まったのは、スタイリストのTEPPEIさんのタブロイド。2025年10月から2026年3月にかけて、半年間で2冊のタブロイドを制作。10月の誌面には、スタイリング写真とQRコードのみを掲載し、QRコードを読み込むことで、掲載されたアイテムを確認できる仕組みになっています。誌面・配布店舗・イベント・TEPPEIさん自身の発信を通じて、紙とデジタルの両方から購買体験を促進。既存のブランドイメージにとらわれず、多様なファッションテイストや世代へのアプローチを目指す、ユナイテッドアローズ社の新しいブランディング施策について、スタイリストのTEPPEIさんに伺いました。
Photography:Kousuke Matsuki
Text & Edit:Shoko Matsumoto
読み手や何かを探している人にとって、噛み締めてもらえる表現を
「今年の夏前くらいに声をかけてもらって企画の趣旨を伺い、前向きな気持ちで返事をして、そこからクリエーションの内容について話し合いを重ねていきました。ユナイテッドアローズさんは、僕が関わる以前から様々な表現をされてきたと思うのですが、その切り口や伝え方を通じて、まだ届いていないお客様にどう伝えるか──そこが大きなテーマだったと思います。並行して進んでいる企画もある中で、今回のタブロイド企画は、とてもダイナミックだと感じました。これまで届かなかった層へ、全く新しい角度で挑戦していく。そのスケール感に重みを覚えましたし、何より面白そうだと感じました。自分の普段の表現とは異なる、新しい感触のもので、読み手や何かを探している人にとって噛みしめてもらえるものになればという衝動もありました。ユナイテッドアローズさんとこうしたファッション表現で関わるのは初めてなんです。リースでのやりとりが多かったので、消費者視点を含めて、ユナイテッドアローズという大きな屋号に対して、他のセレクトショップとの競合の中での強みは何か、それをお客様が求めてここに流れてくる理由は何か──そうした仮説を立てずには進められない企画でした。細分化されたいろんな表現を積み重ねてきたブランドだからこそ、何を以て“新鮮”とするかは、とても難しいと感じましたね」
–企画を進めるうえで印象的だったやりとりはありますか。
「UAさんとじっくり対面でお話したことが最も印象に残っています。正直、最初は何をどう表現するかすぐには答えが出ませんでした。ただ、“最近はこうだよね”とか、ファッションマーケティングや時代背景のことなどを深く語り合う中で、言葉の輪郭が少しずつ見えてきたんです。また、このプロジェクトを一番近くで見てくださったUA社のクリエイティブディレクターさんが、“わかりやすく、見たことがないもの”“面白さがあればいい”と、具体的な指示を出すのではなく、大きなテーマだけを示してくださいました。船に乗るのはとてもワクワクするけれど、いざ舵を取るのは自分なんだと思うと、強く責任を感じました」
「最初に各ブランドのサンプルを見て、特徴を把握し、そこから企画を組み立てていきました。スピード感がものすごくて、確認がギリギリになることもありましたが、クオリティを落とさずに完成できたのは、モデル、写真家、ヘアメイク、デザイン部門、編集など、関わってくれたみなさんがコンセプトを理解して表現してくれたからです。恐縮ながら“TEPPEIディレクション”と銘打っていただいていますが、僕ひとりではなく、熱量を持って向き合ってくれたチームがいたからこそ、成し遂げられたと思います」
タブロイドのスローガンとなった「品性の種。」とは
「言葉自体は、感覚的なものを造語的にまとめたものです。日本人同士なら共有できる感覚だと思います。フォトディレクションを議論する中でも、“品が香るかどうか”を判断基準にしていました。ユナイテッドアローズ全体を一つのタブロイドにまとめる上で、圧倒的な共通言語はこれだと感じ、シェアワードとして言い続けていたんです。服を見て自分が嗅ぎ分けた大きな美徳というか、ユナイテッドアローズの魅力に串を通す仮説でもありました。品というのはとても感覚的で目に見えないけれど、誰の中にも必ずある。どんな服を着ても、その人なりの“品”はにじみ出る。だから、それをどう引き出すかを大切にしていました」
「“品”というものは、感覚的に分かってはいるけれど可視化が難しいですよね。その“品”という概念を、人が潜在的に理解しやすい色のパレットである、黒と白の無彩色で表現することで、情報として伝わりやすくなる可能性があると考えました。ただし、黒と白がトレンドだとか、そうしなければ品が漂わないということではなく、もちろん、現実には茶やグレーもあるけれど、今回はより鋭く伝えるために、エディトリアル上のビジュアルの統一性という意味で設定しました。およそ街を見ると、人が自然にワードローブとして取り入れている日常的な色は、やはりモノトーンが多いと思います」
「モデル選びについては、極端に言えば誰でもいいと思っていたんです。投げやりな意味ではなく。重要なのは、撮影したときに本当に似合っているか、本人が着て気に入っているかということ。撮影後に“5年後の自分に出会った気がする”と言ってくれたモデルさんがいて、それはすごく嬉しかったですね。また、全体の中で一番アグレッシブで、凸凹感が強いキャラクターのモデルさんが、不思議とタブロイドの中に自然になじんでいたことも印象に残っています。いろんな人が点在していて、一つになって、みんなの“品”が引き出されて、並列的に表現できたのではないかというのが、このタブロイドの一番の醍醐味です」
「賛同しました。人は名前、肩書き、年齢、ブランド名、値段などを情報として見ることで、いろんな判断を無意識的にしてしまいます。勝手な刷り込みとイメージ変換が、SNSを中心にあまりに流布されているんですよね。情報をブラインド状態にすることで、本来は目に見えていないけれど漂うものや香るものを嗅ぎ分けてもらうには、本質的な価値を先入観なしに感じてもらう必要があると考えました。情報を削いでいくことで「これは誰なんだろう?」「自分はこれをどう感じるんだろう?」と読者が自分自身に問いかけられているような感覚になってくれたらいいなと考えていました」
服を主人公に置きながら、多くの人が楽しめるように
「写真を選んでいる時から、とても気に入っています。でも、皆さんがどういうふうな思いで手に取って眺めてくれるかということの方が興味ありますね。QRコードから商品ページに飛ぶ導線はあるけれど、まずは単純に“この人かっこいいな”“こういう個性っていいな”と思ってもらいたいです。購買より先に、心が動く体験をしてほしい。そうやって、何度もページをめくってもらえるものになったらいいなと思っています。セレブリティやアーティスト以外の対象で、そういう感情が最近は起こっていない気がするんですよね。また「このスタイリングが好き」というのが、人によってバラバラだといい。さらに後から「これってユナイテッドアローズなんだ」と気づいてもらえると、興味深いと思います。提唱しようとしていることを何も明かしていないからこそ、後発的な現象がポジティブに発生したら良いと思います」
「嬉しく思います。現代のファッションは、停滞していると慢性的に思っていた昨今で、ユナイテッドアローズという大きな組織が、主体的な気持ちで、まだチャレンジングな姿勢で“もっと面白くなったらいいな”と考えていることに感銘を受けました。ファッションは単に流行を追うものではなく、服が本人のライフスタイルやアイデンティティとどう結びつくかが重要だと感じています。だからこそ、服を主人公に置きながら、どうすればより多くの人が楽しめるかを考えていることが伝わってきて。そのようなプロジェクトに選んでいただけたことを光栄に思います」
INFORMATION
PROFILE

TEPPEI
1983年滋賀県生まれ。高校卒業後に上京し、専門学校でスタイリングを学ぶ。古着店勤務を経て独立。ファッション誌や広告、ブランドのルック撮影など幅広く手がけ、ビジュアルディレクションにも携わる。ルーツを重んじながらも固定概念にとらわれないスタイルで、ファッションの“今”を軽やかに表現する。近年は自主制作本『#Daysnap』を発表。またUA社が展開する、全ブランドを横断的に編集し、新たな切り口で発信していくキュレーションストアプロジェクト「UA CURATED」にて、9つのブランドを軸にTEPPEI氏の考える「品のかたち」を9名のポートレイトとして表現したタブロイド『品性の種。』のクリエイティブディレクターをつとめる。