ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

どんな文脈で“らしさ”を伝え続けるか。『POPEYE』編集長と考える、メディアとファッションの現在地。

ヒト

2026.06.25

どんな文脈で“らしさ”を伝え続けるか。『POPEYE』編集長と考える、メディアとファッションの現在地。

マガジンハウス発行の雑誌『POPEYE』は、今年で創刊50周年を迎えました。1976年の創刊以来、ファッションやカルチャーを見つめ続けてきた同誌は、いま何を考えているのか。編集長の町田雄二さんと、〈ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ〉メンズブランドディレクターの藤橋享平さんによる対談を通して、時代とともに変化するメディアとファッションの関係性について、両者の視点から語っていただきました。

Photo:Takehiro Sakashita
Text:Eto Katagiri
Edit:Takahiro Kawata

トレンドを追うのではなく、個性を表現する時代へ

ーまず、お二人の経歴から教えてください。

町田:僕は最初に『anan』編集部へ配属され、その後10年ほど『BRUTUS』に在籍。副編集長を経て、2019年に編集長として『POPEYE』に異動しました。

藤橋:販売スタッフやバイヤーを経て、2018年に〈ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ〉(以下、BY)のメンズブランドディレクターに就任しました。〈エイチ ビューティー&ユース〉のバイヤーも兼任しています。

画像 『POPEYE』編集長の町田雄二さん

藤橋:『POPEYE』では最初から編集長だったんですね。

町田:そうなんです。『BRUTUS』では『珍奇植物』や『危険な読書』など、少し癖のあるニッチなテーマを担当していました。ファッションに関していえば、たった2〜3年ですがファッションチームにいたこともあります。特に2011年に〈ユナイテッドアローズ〉と取り組んだ企画は印象に残っています。
ーどんな企画だったのでしょうか?

町田:ファッション特集の付録として、〈ユナイテッドアローズ〉とコラボした別冊『THE COLOR OF UNITED ARROWS』を制作しました。粟野さん(栗野宏文氏/現ユナイテッドアローズ上級顧問)とパリコレを回ったり、UAスタッフの私物を集めて、ブルックリンのフリーマーケットで販売してみる、という企画をやりしましたね。とても面白かったです。

藤橋:誌面企画と連動して、「買えるブルータス ユナイテッドアローズ店」というECサイトも立ち上げましたよね。

町田:そうそう。人とモノを実際に動かす、大掛かりな企画でした。

画像 〈ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ〉メンズディレクターの藤橋享平さん

ーお二人は現在のファッションシーンにどんな印象をお持ちですか?

藤橋:僕が20代の頃は“おしゃれを意識的にやっている人”が多かったですが、今は価値観が細分化されていて、それぞれが自分らしい装いを楽しんでいる印象です。

町田:ファッションを自己表現のツールとして上手に扱える人が増えていますよね。昨年『POPEYE』でも「PLAYFUL FASHION」というテーマの特集を組みましたが、まさにその言葉通り。色や柄、素材の組み合わせも、以前よりずっと自由になっているように感じます。

藤橋:一方で〈オーラリー〉のように、時代のムードはしっかりと纏いながらも、装飾性を排したシンプルで上質なブランドが支持されているのも面白いところです。ロゴなどのわかりやすい記号性ではなく、服そのものの価値に目が向いている。トレンドが一方向に揃う時代ではなくなりましたね。

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受け継ぎ、問い直し、前へと進んでいく

ー『POPEYE』と〈BY〉がここまで続いてきた理由は何だと思いますか?

藤橋:単に服を売るのではなく、その先の「上質な生活のお手伝いをする」という考え方を大切にしてきたからだと思います。〈BY〉の服を着ることでその人の印象がよくなるとか、日々のコミュニケーションが円滑になるとか。ライフスタイルに寄り添うブランドを目指し続けてきたことが、長く支持されている理由の一つなのではないでしょうか。

町田:僕は常々、雑誌はもっと読者に身近な存在であって欲しいと思っています。『POPEYE』も「これ、なんかいいよね」と、友だちにシェアするような感覚で情報を届けているつもりです。それともう一つ、僕は“らしさ”の継承も重要だと思っていて、例えば、今の『POPEYE』が描くシティボーイ像というのは、76年創刊時の”ヘルシー”で”スポーティ”な人物像と重なります。お金も時間も人手も必要な雑誌づくりは、長く続けていくのが難しい。それが50年続いているということは、歴代の編集長やスタッフが『POPEYE』というカルチャーのバトンを繋いできた証なのかなと。

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藤橋:おっしゃる通りだと思います。〈BY〉には「品のいいカジュアル」というコンセプトがありますが、これも僕一人が決めたことではなく、先代のディレクターたちから受け継いできた価値観の集合体。時代に合わせてアウトプットは変えているものの、ブランドの核となる精神性は20年間変わっていません。


町田:『POPEYE』は「Magazine for City Boys」をサブタイトルに創刊しました。当初はアメリカ西海岸のライフスタイルをはじめとする海外の情報を紹介していましたが、80年代中頃からヨーロッパや国内のブランドに軸足が移り、90年代のアメカジ、ストリートを経て、2000年代にはモード誌寄りに。そこで2012年に原点回帰し、改めて“シティボーイ”というキーワードを打ち出しました。すると長年の読者だけでなく、新しい世代にも届くようになったんです。それぞれの時代にそれぞれの『POPEYE』があり、ときにはまったく別の雑誌にもなるのが50年という歴史の長さです。その中に時間を超えるような強度を持つ遺産がいくつかあり、それを再び掘り起こさせようとする何か、例えば価値観やセンスのようなものが会社や編集部に引き継がれているからなのだと思います。メディアもファッションも、時折立ち止まって精神性を問い直すことが大切なのだと思います。

画像 『POPEYE』創刊号(左)と、50周年記念号(右)


それぞれが語る、僕にとっての「POPEYE」と〈BY〉

ー本日は、『POPEYE』と〈BY〉それぞれを象徴する私物をお持ちいただきました。そちらの本は何でしょうか?

町田: 創刊編集長・木滑良久さんの言葉をまとめた冊子です。2023年に亡くなられた際、お別れの会で関係者に配られました。僕も編集委員として言葉選びに携わったのですが、雑誌づくりの楽しさを教えてくれるような、読むと元気をもらえる冊子なんです。

  • 木滑さんは、町田さんが“雑誌の神様”と仰ぐ存在。冊子にある「会議のために義務感で適当な企画を出している時間は本当に無駄。」という言葉にならい、『POPEYE』編集部では企画会議をしなくなったとか。

  • 木滑さんは、町田さんが“雑誌の神様”と仰ぐ存在。冊子にある「会議のために義務感で適当な企画を出している時間は本当に無駄。」という言葉にならい、『POPEYE』編集部では企画会議をしなくなったとか。

  • 木滑さんは、町田さんが“雑誌の神様”と仰ぐ存在。冊子にある「会議のために義務感で適当な企画を出している時間は本当に無駄。」という言葉にならい、『POPEYE』編集部では企画会議をしなくなったとか。
ーそちらはワインストッパーですか?

町田:そうです。これは『POPEYE』創刊時代のチーフデザイナー・新谷雅弘さんに初めてお会いした時にいただいたもの。嬉しくて、ずっとデスクに置いています。今回、50周年記念号を作った際にたくさんのOBに会いに行って話を聞きましたが、みなさん雑誌を作る楽しさを語ってくれて、とても共感することができました。このポパイは僕にとってはお守りのようなものです。

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ーこちらの2冊は?

町田:これまで手がけた『POPEYE』の中で、自分らしく作れたなと思う号です。1冊は「料理」をテーマにしたもの。食に関心を持つことは、すごくシティボーイ的なことだと思うんです。睡眠と同じで食事は1日の中で避けて通れないものです。ひとつ、ふたつ気の利いた料理を覚えるだけで、日々をグッと豊かにしてくれるはずです。僕はそういう雑誌が好きなんです。 そしてもう1冊はスケート特集。『POPEYE』はスケーターをモデルによく撮影したりするのですが、編集部員でやったことのある人がほとんどいなかったので、編集部にスケートマインドを注入するために作りました。中身はもちろん、僕の中では映画『KIDS』みたいな表紙だなと思っていて、とても気に入っています。男の子の視線の先にどこかドラマを感じませんか?

画像 理特集(左)ではタマネギを酢に漬けるだけのピクルスなど、手軽ながら少し気の利いたレシピを紹介。スケート特集(右)では表紙の写真決めに苦心。「表紙を飾れる写真って毎回1、2枚しか見つからないんです。この時はどれもしっくりこず、候補外のカットを掘り起こすとイメージにぴったりの1枚が」

ー藤橋さんのアイテムは?

藤橋:まず〈ヘインズ〉の別注パックTです。1枚で着ても透けにくいよう、オリジナルよりも細い糸を使い、ネックを詰めて大人っぽい印象にしました。10年前から続けてきた別注ですが、少しずつ細部を調整していき、やっと理想の形ができあがったと思っています。〈BY〉のマスターピースですね。

画像 ネック部分のバインダーは、生地を縦使いすることで伸びにくくしている。

ーそちらのTシャツは?

藤橋:〈BY〉の大切な一部といえるブランドが〈C.E〉。取り扱いブランドという枠組みを超えて、深い関係性を築いてきました。これは2015年に1か月限定のオンリーショップをオープンした際、記念に販売したTシャツ。ブランドデビュー時のグラフィックを使ったデザインで、大きな反響がありました。今振り返っても象徴的なプロジェクトでしたね。

画像 バックにはイベント会期などがプリントされている。

ーこちらは〈ラコステ〉のポロシャツですね。

藤橋:〈ラコステ〉との別注も長く続けてきました。特に思い入れがあるのは、一番肉厚な鹿の子生地を使ったロングスリーブ。定番のポロシャツを、スウェットのように暖かく着られたら面白いと考えたんです。予想以上に好評で、後にニットバージョンも制作しました。

画像 「〈ラコステ〉別注は“緑ワニ”でやるのが僕のポリシーです」


誌面だけで完結しない体験づくりを

ー6月9日に発売された『POPEYE』の50周年記念号には、別冊付録として〈BY〉とコラボした『WHOLE BEAUTY&YOUTH CATALOG』も封入されていますね。

町田:冒頭でもお話しした通り、〈ユナイテッドアローズ〉にはお店としてはもちろん、スタッフのみなさんにも個人的な思い入れが深いので、自分が編集長を務める雑誌でこうした取り組みができてほんとうに嬉しかったです。

藤橋:『POPEYE』はカジュアルファッションを扱う媒体として、〈BY〉が最も信頼を置いている存在です。常に本質を捉えながらも、抜け感やユーモアのセンスが抜群。僕たちもどこかクスッと笑えるような愛着を大切にしているので、自然と価値観を共有できるんですよね。今回コラボできたことはとても光栄でした。

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―今回は50周年記念グッズと、〈BY〉とのコラボアイテムも制作されたそうですね。

町田:先程もお話ししたデザイナーの新谷さんに『POPEYE』のロゴ以外のアルファベットと数字を作っていただき、さまざまなアイテムに落とし込みました。もともとこのロゴはグラフィックデザイナーの堀内誠一さんが生み出したもの。新谷さんはその右腕として活躍されていた方で、快く制作を引き受けてくださいました。本来、ロゴは特定の文字の組み合わせを前提として成立しているので、AからZまで展開しても組み合わせによってはうまくいかない場合があるのですが、とてもチャーミングに仕上げてくださいました。

画像 ポパイの50周年記念グッズ。「P」「O」「E」「Y」以外の文字からも『POPEYE』感が伝わる。

藤橋:今回、別冊の誌面だけでタイアップが完結するのは違うなと感じていました。せっかく大好きな『POPEYE』とご一緒できるのだから、売り場や体験にも繋がる“モノ”を作りたいなと。そこで町田さんに相談して、ロゴフォントを使用したコラボアイテムを制作させていただきました。ベースになっているのは〈BY〉で長年展開している定番Tシャツです。

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画像 「BEAUTY&」「&YOUTH」の両面プリントと、ワンポイントの「P」が効いた2型。価格:各8,800円(税込)、カラー:ホワイト、ブラック、ネイビー、サイズ:S、M、L、XL

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メディアとの親和性を見極め、ブランドの背景まで伝える

ー昨年から発行されている『POPEYE』の英語版も好評だそうですが、どういった点が海外で評価されているのでしょうか?

町田:大前提として日本のファッションやカルチャーそのものが注目されているということがあると思います。その上で、雑誌で言えばレイアウトの楽しさでしょうね。海外の雑誌は写真1枚で済ませちゃうことも多いですが、日本の雑誌は誌面作りが細かいですよね。切り抜きがあって、イラストがあって、書き文字を入れてみたり。それと日本独特の表現。例えば、プロじゃないモデルを使ったり、10代前半のモデルを使ってみたりだとか。うちだとモデルの片手にコーヒーを持たせたり、ドーナツをかじらせたりさせますが、ああいうのは海外だと品がよくないので、しないと聞いたことがあります。日常の延長線上、地続きにファッションがある。そういうのが面白いのかもしれませんね。最近は海外からファッション関係の人が編集部に遊びにくることが結構ありますが、よく聞くのは日本の印刷技術ですね。僕たちの表紙はハジキニスという加工を使っているのですが、表紙を手で撫でながら感動して帰る人も多いです。

画像 7年分のファッションスナップを収めた英語版。世界各地で販売。

ー情報量が多く、読み応えがあるのも魅力だと思います。

町田:1か月では読みきれない情報量が入っているとよく言われます。読み物として、ワンテーマを長い文章で紹介していく海外のファッション誌のスタイルとはまったく違うので、どう受け止められるのかはとても興味深いですね。日本の雑誌カルチャーが世界でどこまで通用するのか、気になりますよね。
ーファッションを取り巻くメディア環境は大きく変化しています。その関係性について、お二人はどう感じていますか?

藤橋:今はSNSやインフルエンサーの存在が欠かせませんが、誰とどう取り組むかはとても重要です。たとえ大きな数字が取れたとしても、それがブランドの精神性と合っていなければ、長期的にはマイナスになることもある。お客様は商品だけでなく、どんな文脈で発信されているかまで見ています。ブランドとメディアの親和性は、常に意識していきたい部分ですね。

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町田: ファッションに限らず情報の主戦場は随分前からウェブなんでしょうけど、そのほとんどはスマホの画面で見られているわけです。それで十分なものもありますが、雑誌ならばもう少し豊かな表現ができます。見開きの中で自由にデザインを組み、1冊の中で起承転結のようなリズムを設計できます。そのブランド”らしさ”のようなものを表現するには紙媒体はいまでも十分に魅力的だと思っています。
ーでは最後に、私たちは今後どうメディアと付き合っていけばいいでしょうか?町田さんのご意見をお聞かせください。

町田:大変ありがたいことに『POPEYE』は保存性が高い雑誌だと、よく言って頂くのですが、僕はもっとカジュアルに雑誌とつきあって欲しいんですね。そういう意味では読み終わったら人にあげたり、古本屋に売ってもらって構わない。気になる特集テーマだけを選んで買うのではなく、とりあえず読んでみるぐらいの気軽さ。思ってもみなかったものに偶然に出会うのが雑誌の面白さなんだから。情報に翻弄されがちだからこそ、自分に必要なモノやコトだけじゃなく、カジュアルに雑誌を手にとり、余分や余白を楽しんでもらえるといいなと思います。

PROFILE

町田雄二

町田雄二

マガジンハウス入社後『anan』編集部へ配属され、その後10年ほど『BRUTUS』に在籍。副編集長を経て、2019年に『POPEYE』編集長に就任。
POPEYE WEB

藤橋享平

藤橋享平

2002年入社。販売スタッフを経て、2010年より商品部に異動。アシスタントバイヤー、バイヤーを経験した後、2018年より〈ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ〉のメンズブランドディレクターを務める。

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