ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

書籍「ユナイテッドアローズの売る力、育てるしくみ」で再認識した、AI時代だからこそヒトの力の重要性。「感動提供」の裏にある販売員たちの物語

ヒト

2026.09.26

書籍「ユナイテッドアローズの売る力、育てるしくみ」で再認識した、AI時代だからこそヒトの力の重要性。「感動提供」の裏にある販売員たちの物語

ユナイテッドアローズには約3000人の販売員が働いています。創業以来、使命の一つに掲げてきたのが、「販売員の社会的地位向上」です。そして、このサイトのタイトルでもある、「ヒトとモノとウツワ」を磨き続けてきました。今回、そのヒト・販売員の魅力を紹介する書籍「ユナイテッドアローズの売る力、育てるしくみ」が9月26日に発売されました。フォーカスしたのはトップ販売員だけではありません。模範となる販売員の証である称号を持つ「セールスマスター」や、ロープレ大会優勝者、お客様からの感謝の言葉「ARIGATOレポート」をいただいたメンバー、自衛官やタカラジェンヌなどから新たな夢を追って仲間になった転職者、カムバック者、そして、父の背中を追ってユナイテッドアローズ社に入社し親子で働くUAファミリーの体現者など、30人以上の販売員が登場します。今回その中から一部のスタッフをご紹介します。

Photo:Kousuke Matsuki
Text:Kumi Matsushita

AI全盛時代だからこそ、「誰から買うか」がより重要な時代に

ECや生成AIが急速に進化し、「人が店で買う」から「ネットで買う」「AIにオススメを聞く」、さらには、「AIが代わりに買うAgentic Commerce(エージェンティック・コマース)」まで、買い方も買う場所も購入の意思決定も大きく変わっています。ただし、AI全盛時代に向かう中でも、私たちの多くはわざわざ店舗へ足を運び、販売員から接客を受けてアドバイスを聞いたり、服やモノを購入したりすることを好んでいます。それは、「人と人との温かな交流」や「五感を揺さぶる感動体験」を求めているからにほかなりません。モノがあふれる現代において、最後に人の心を動かすのは「何を買うか」ではなく、「誰から買うか」。AIに仕事を奪われるのではなく、むしろヒト・販売員の重要性はますます高まっています。

この本は、人材育成の仕組みやカルチャー醸成、接客販売の流儀などたくさんのヒントもちりばめられていますが、経営本でもノウハウ本でもありません。現場の最前線で「ヒトの力」を体現し、お客様の明日を切り拓く販売員たちの想いやエピソードを編んだノンフィクションの物語です。

顧客様の未来を創造する「ライフスタイリスト」──藤田裕貴(セールスマスター プラチナ)

トップバターは、3,000人の販売員の頂点に位置する最高峰の称号「セールスマスター」のプラチナを有し、ユナイテッドアローズ六本木で販売を続けながら、第一事業本部に所属しパーソナルスタイリングサービスを統括する藤田裕貴さんです。年間に数百万円から数千万円の買い物を託されるエグゼクティブ顧客を数多く担当しています。
藤田さんの接客スタイルは、「お客様が今欲しい服」を提案することにとどまりません。「お客様の人生の中で、まだ顕在化していない場面や出来事、時間軸まで先読みし、高い解像度でそのシーンを想像し、妄想する。そして、その方とのお付き合いの中で体得した役割や人柄、立ち居振る舞いまでを加味して商品やスタイルを提案する。それが私の接客の極意です」

ある時、藤田さんの顧客様が2,000人規模の大型イベントに登壇することになり、スタイリングを託されました。その場に招かれた藤田さんは、スポットライトを浴びてステージに立つ顧客様の素晴らしく輝く姿を見て、「きちんとこのシーンを妄想できていた」と胸を熱くしたといいます。

画像 第一事業本部 パーソナルサービス担当 / エグゼクティブマネジャー 藤田裕貴さん

また、藤田さんは、若い頃から「前仕事」「前準備」を重視し、顧客の方々の要望に応えられるだけの自己研鑽を続けてきました。若くして出会い、ともに成長し経営者になった方や、六本木に異動してから新たに出会ったエグゼクティブの方々など、お客様の懐に入り 長く深く付き合うのが藤田さんの流儀です。

多忙を極める経営者や富裕層にとって時間は宝であり、ショートタイムショッピングでいかに効率良く本当に必要なものを手に入れられるかも重要な要素です。歴史あるファクトリーでのビスポーク(オーダーメイド)を好まれるお客様も多くいらっしゃいます。藤田さんは毎シーズン3000近い生地見本(スワッチ)をすべてチェックします。そして、アイテムをそろえ、コーディネートを組み、わずか15分の接客で最適解を導き出すための提案を行えるように準備をします。信頼され、深く懐に飛び込んだお客様に尽くすためには、「準備が9割」だと藤田さん。
パーソナルブランディングのサポートに加え、レストランやホテルのアドバイスや手配をするなど、お客様の成功に向けた黒子として生活に寄り添い続けています。その姿は、スタイリストやコンシェルジュの枠を超え、ライフスタイリストと呼べる存在ではないかと感じました。

トッププレーヤーとして走り続ける一方で、グロービス経営大学院で学び、2026年2月には「パーソナルスタイリングサービス」を立ち上げた藤田さん。自らの経験と論理的思考を融合させ、個人のスキルを「会社の仕組み」へと昇華させながら、販売員の新しい可能性を押し広げています。

売る、創る、育てる──出川明子(女性初のセールスマスター プラチナ)

ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店の出川明子さんは、この書籍の企画が進む中で2026年4月、女性初となる「セールスマスター」のプラチナに認定されました。彼女はトップ販売員であると同時に、店舗限定ライン「HILLS SPECIAL(ヒルズスペシャル)」の企画ディレクターとしても活躍しています。

テレビのドキュメンタリー番組を観て、10歳でスタイリストを志し、新卒でユナイテッドアローズに入社。販売スタッフや本社VMDとして勤めた後、ライフステージの変化などもあり、一度退職。ラグジュアリーブランドやアートの販売なども経験した後、ユナイテッドアローズへ復職したカムバック社員でもあります。外の世界を知ることで、「人に対して誠実で、温かく真面目な組織」である古巣の価値を再認識したといいます。

画像 ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 出川明子さん

販売の現場の最前線でお客様と接しながら、商品開発にも携わるようになったのは、「年齢を重ねて自分に似合う服が見つからなくなった」という違和感を解決したいと思ったことがきっかけでした。自ら商品企画部へ直談判し、六本木ヒルズのお客様が求める「女性がより美しく見え、知性に、ひとさじのモード感を加えた服」の開発に着手。顧客ニーズと販売員の知見から生まれた「ヒルズスペシャル」は、今や10年続く大ヒットラインへと成長しています。インバウンドや海外在住日本人などからの評価も高く、海外での販売にも注力していくところです。

出川さんが接客で大切にしているのは「豊かであること」、そして「心に艶玉(つやたま)を抱くこと」。です。「自分の心や考え方が豊かでなければ、お客様を豊かにすることはできません。髪や肌、ネイルなどの身だしなみも含めて、自分自身を整えることが大切。心に艶玉を抱きながら前向きでいることが、お客様に豊かさを届ける第一歩だと思っています」
「宝探し」のような意外性のある提案でお客様の心を踊らせ、社内セミナー「サロン・ド・デガワ」を通じて後進育成にも情熱を注ぐ出川さん。商品を売ること・つくること・人を育てることのすべてを高次元で体現する挑戦は続いています。

画像 UA社のセールスマスター プラチナの称号をもつ2人


「自己開示」と「本気の妄想力」が引き出す感動──寺尾円香(SC接客ロープレコンテスト全国優勝)

2024年度の「SC接客ロールプレイングコンテスト全国大会」ファッション・物販部門で、全国の頂点に立ったのが、オデット エ オディール 渋谷ヒカリエ内シンクス店の寺尾円香さんです。2児の母であり、時短勤務を続けながら全国一の接客力を証明したスペシャリストです。

寺尾さんの接客の真骨頂は、徹底した寄り添い力であり「自己開示」にあります。自身も高身長で足のサイズが大きく、甲浅というフィッティングの悩みを抱えてきたからこそ、「私も25cmで靴選びには苦労して…」と率直にお客様へ伝えるとのこと。その共感と安心感が、お客様の緊張を解きほぐし、言葉にならない「潜在ニーズ」を引き出しています。

画像 オデット エ オディール 渋谷ヒカリエ内シンクス店 寺尾円香さん

店頭ではドラマチックなエピソードも生まれています。彼氏募集中の女性客と和気あいあいと街コン、ドライブなどデート用の靴を選び続けていきました。1年後には「結婚します」と報告を受け、数年後にはお腹に新しい命を宿したお客様が会いに来てくださいました。また、入社式用の靴を提案した若い女性から、半年後に「ユナイテッドアローズに入社しました」とInstagramのDMが届き、お客様から仲間になったことを知り喜んだこともありました。

取材させていただいた中で、寺尾さんからあふれ出る「魅力的なフレーズ」や「言葉の力」は圧倒的でした。聞くと、実は人見知りで不登校の経験もあったとのこと。そのときから力をもらっていたという読書の世界で培った「言語力・想像力・妄想力」が今の接客の糧になっているようでした。「人見知りは決して悪いことでも弱みでもありません。ツラかった私だからこそ、悩みや緊張を抱えるお客様に寄り添える。『こんな私でも変われるんだ』という勇気を伝えていくことが、私の使命だと思っています」 と寺尾さん。

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ロープレ大会でも、お客様にカチっとハマるワードを用意していたとのこと。また、緊張をほぐすために、挑戦者ではなく、「自分はこのロープレ大会に見本を見せにきた講師」という設定で臨んで高いパフォーマンスを発揮することができたエピソードなど、創意工夫やユーモア力なども抜群です。

時短勤務なので、限られた時間の中で最大の価値を生み出すため、開店前の1時間でSNS撮影を完了させ、チャット接客でもリピーターを増やす寺尾さん。不器用だった過去も時間の制約もすべて強みに変え、人と人との温度感がある接客の尊さを伝え続けています。

洋服は幸福産業。装いの先にある喜びを──加地牧恵(セールスマスター シルバー)

画像 ドゥロワー 梅田店 加地牧恵さん

デザイナーズブランドなどでの販売やVMDの経験を経て、「DRAWER(ドゥロワー)」愛が高じて転職してきたドゥロワー 梅田店の加地牧恵さん。ブランドのトップセールスでもあり、2026年にセールスマスター(シルバー)に認定されました。
接客販売の仕事で一番大切にしているのは、創業者の重松理名誉会長から聞き感銘を受けたという、「洋服は幸福産業」との言葉でした。

「私の仕事は、大好きなお洋服を売ることが目的ではありません。お客様にとっての本番は、ご購入いただいたその後にあります。洋服を通じて気持ちが弾み、自分らしさを見つけ、前向きになれる時間を提供することこそが販売員の役割です」

ドゥロワーの服は「人が着てこそ完成する服」。実際に袖を通してもらい、細やかな所作やフィッティング調整でその人の魅力を引き出します。「おしゃれ更年期」や「おしゃれ迷子」に悩む大人女性に対しても、「まずは着てみましょう!」と背中を押します。好みの服を着ることの楽しさや、インナーの差し色や口紅などで顔映えを良くして、「好き」と「似合う」の両方をかなえるサポートをしています。

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お客様との忘れられないエピソードも多くあります。その一つが10年以上担当するVIP顧客様とのやりとりでした。コロナ禍になり、「LINEで相談しながら買い物をしたい」と依頼があり、それに応えてきました。数年後、久しぶりに来店されたお客様から、実は外出できないつらい毎日を過ごし、「加地さんのオンライン接客が唯一の楽しみでした。服が届くたびに自宅でファッションショーをして、心の支えになっていました」と明かされたことがありました。

加地さんにとっては普段通りの接客姿勢を貫いただけのことでしたが、それがお客様の人生を強く支えることにつながり、服が持つ「人の心を前向きにする力」と「販売員という仕事の重み」を再認識する機会になったとのこと。これからも、AIには決してできない、人間味あふれる接客文化を次世代へと引き継いでいくことに尽力したいと柔らかく話す姿が印象的でした。

受け継がれる「接客の哲学」と「真善美」──川添恵介・川添星(UAファミリー 父と息子)

画像 左:ユナイテッドアローズ 福岡店 川添恵介さん  右:グリーンレーベルリラクシング アミュプラザ博多店 川添星さん

書籍の中で異彩を放つのが、親子でユナイテッドアローズの販売員として働く「川添ファミリー」のインタビューでした。父・川添恵介さん(ユナイテッドアローズ 福岡店)は、クロムハーツ担当やメンズドレス担当を経てセールスマスターを獲得した販売のスペシャリスト。お客様の「半歩先」を照らし、生活を豊かにする提案を追求してきた生粋のプロフェッショナルです。

一方、息子・川添星さん(グリーンレーベルリラクシング アミュプラザ博多店)は、グラフィックデザイナーや他の小売業を経て、2025年12月に中途入社を果たしました。幼い頃から父がプライドと熱量を持って働く姿、そして家の中に溢れていたセンスの良いファッション&カルチャーの中で育った星さん。父の七光りではなく自力で内定を勝ち取り、「完全な事後報告」で父を驚かせ、喜ばせました。

恵介さんが大切にしてきた宝物があります。それは、星さんが生まれた2000年に購入したクロムハーツの「スターバンドリング」。「いつか星が一人前になったときに渡したい」と大切にしていた指輪は、星さんがユナイテッドアローズへの入社した日に受け継がれました。

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実は星さんを授かったのは、父・恵介さんが21歳という若さだったとのこと。「星が生まれたとき、この子を育てるために必死で働こうとアパレル業界へ飛び込みました。『一生働けるやりがいのある会社に転じたい』と、理念に共感したユナイテッドアローズに中途入社しました。自分が全身全霊を賭けてきた生き方や会社の価値観に共感し、同じ道を選んでくれたことが本当に誇らしいです」と恵介さんは涙ぐみます。

星さんも尊敬の念、感謝の念を父に伝えるとともに、「近くに最強の相談相手がいて心強いです。これからもいろいろ教えてください」と頭を下げ、さらに恵介さんを感涙させました。

実は今回、「この本をつくって本当に良かった」と一番強く感じた瞬間でした。川添親子が同席して取材を受け、日頃は恥ずかしくてなかなか口に出せない思いを、言葉にして伝え合うシチュエーションを生み出せたことを本当に嬉しく思いました。

「服を売る会社」から、「感動提供する企業」へ

ユナイテッドアローズは、10月1日には持ち株会社制に移行し、「TABAYAホールディングス」を発足します。高感度・高付加価値グループとして、売上高3000億円構想に向けて、事業領域の拡大や、人的資本投資の強化なども行っていきます。時代や経営体制が変わろうとも、ユナイテッドアローズの競争力の源泉は、創業以来一貫して磨き続けてきた「ヒト(人材・接客力)」「モノ(商品力)」「ウツワ(店舗・EC)」の相乗効果にあります。本書「ユナイテッドアローズの売る力、育てるしくみ」を通じて、その信念や、お客様との感動エピソードなどを通じて、ヒトの力をあらためて感じたり、販売員の仕事の尊さを知ったり、「会いに行きたい」販売員と出会うきっかけにしていただけたら幸いです。

PROFILE

松下久美

松下久美

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、トータル30年にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆を手がける。現在はフリーのファッションビジネスジャーナリスト。人材育成やESG、メディア戦略のアドバイザーも。
日経BPより9月に発刊された「ユナイテッドアローズの売る力、育てるしくみ」の著者。

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