
ヒト
2015.10.08 THU.
マニュアルの先にある、真のコミュニケーション。
ユナイテッドアローズが唱える「ヒト(高度に完成された接客・サービス)」を体現するショップスタッフたち。全国津々浦々、多くの個性豊かなスタッフが在籍する中で、「ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館」に勤務する吉田剛郎さんは、多くの人が「いいよね」と声を揃える接客のスペシャリストの一人です。その“よさ”が示すものとは一体なんなのか? 吉田さんのコミュニケーションの秘密に迫りましょう。
Photo:Takeshi Wakabayashi
Text:Yuichiro Tsuji
Special Thanks:Kazutoshi Masuda、UNITED ARROWS HARAJUKU FOR MEN、UA BAR、UC
いちばんの根底にあるのは「お客様にご満足いただきたい」ということ。
-吉田さんが普段心掛けている接客とは、どういったものなのでしょうか?
吉田:お客様に商品を提案して「これが欲しい」と思っていただけたり、その気になってもらえるような接客です。心にグッとくる商品って人それぞれ違うと思うんですが、コミュニケーションを通してそれを掘り当てたり、アイテムやブランドに紐づけてこちらからご紹介するというか。
-お客様の気持ちをオンへ切り替える、ということですか?
吉田:そうですね。僕が勤務する「ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館」は、幅広い品揃えと共にコンセプトストア「ユナイテッドアローズ&サンズ」が入っていたりと、全国の「ユナイテッドアローズ」の中でもモードなアイテムが多いお店です。ご来店されるお客様も古くからの顧客様や、ファッション関係のお仕事をしている方など、服へのこだわりやスタイルのある方も多く、そんな方々も含めた色々なお客様に自分のお店の商品を紹介したい、気に入ってもらいたい、という気持ちが第一にあって。あとは単純にファッションの楽しさを共有したいという想いもあります。
-しかし、それが一方的なものであれば押し付けになってしまう。その線引きというか、バランスが難しいと思いますが。
吉田:僕は「売りたい」と思っているわけではないんです。いちばんの根底にあるのは「お客様にご満足いただきたい」ということ。もし自分のお店にお客様が欲しいと思うものがなかったら、お望みであれば近隣の系列ショップへ一緒に行って、そこで接客をします。そこにもなければ、他社のショップに足を運んで、お客様のお買い物をサポートしています。他社のショップに行くのはおかしいと思われるかもしれないけれど、お客様の視点で考えたらひとつの洋服を買うのに「絶対ユナイテッドアローズじゃなければいけない」というルールなんてないと思っています。
-自社の売上げとして還元されなくても、お客様が喜んでくれることがいちばんということですね。
吉田:はい。お客様にとって最善の方法を尽くすことが結果的に次につながると思っています。どんなお買い物でも、お客様にとって価値があることなら全力を尽くすことが大事だと、僕は考えています。
-いまお話いただいた接客をしていて、実際にお客様の反応はどうですか?
吉田:純粋に喜んでいただけていると思います。そして少しでも自分を信頼してくださったと感じたら、次はそれを裏切らないようにもっと頑張ろう、という気持ちになります。
-そうやってお客様との信頼関係を築いているのですね。
吉田:最初はプレッシャーを感じていました。自分にはなにができるんだろう? って。でも、できることからコツコツとやっていくうちに僕あてに来てくださる方が増えてきて、ちょっとずつ自分の接客に自信がでてきて、それによって気持ちに余裕が生まれ、視野も少しだけ広がった気がしています。
-なるほど。
吉田:それと、プライベートでお客様にサーフィンを教えてもらったことも、いまの自分を語る上で大切なことです。サーフィンってただ波に乗るだけじゃなくて、ヒトとヒトの関係性を重んじるスポーツで、ローカルのサーファーを敬う文化がそこにはあるんです。そんな中でいろんな人に怒られながら、技術、ルール、文化を学んでいくうちに、自然と謙虚な心を養うことができました。その精神がいま、お客様とのコミュニケーションにも活かされていると思います。
-自ら積み上げていったものがあれば、そこで生まれた自信にも深みや説得力が増しますね。
吉田:んー。どうかわかりませんが、最近はプレッシャーと自信のバランスがいい状態で保てるようになってきました。はじめはとにかく自分が一押しするアイテムをお客様におすすめしていましたが、いまはそうではなく、お客様の喜びを最優先するようになりました。すごくリラックスした状態でコミュニケーションが取れるようになったと感じています。
休憩時間はしっかりと休んで体調を整えるという吉田さん。他のスタッフと会話を楽しむこともリフレッシュ方法のひとつ。
お客様として“ヒト”としてコミュニケーションを取る。
-接客面で、他のスタッフの方々を意識したり、お互いに切瑳琢磨することはありますか?
吉田:“個性”という意味では、あまり他のスタッフのことを意識したことはないですね。人それぞれスタイルがありますし、それを伸ばして行くことが重要だと思うので。マニュアルはもちろん大事ですが、それを一歩越えた接客が大切なんじゃないかと。一人ひとり個性のあるスタッフがいるから、お店としての価値も高まるんだと思います。
-マニュアル通りを超えた、自分らしい接客のできるスタッフが多い店が良い店だということですね。
吉田:自分はそう思っています。「接客のロールプレイング」というトレーニングを様々な会社が取り入れていますが、あれは接客の基礎や最低限のマナーを取得する方法だと僕は思っています。それができるのは販売員として当たり前だと思うんです。そこから先の個性を養うのは、自分なりの方法で自分の力でやるしかないと思います。
-吉田さんご自身の個性はどんなところにあると思いますか?
吉田:“フラット”な接客でしょうか。
-というのは?
吉田:僕が高校生の頃、学校帰りに制服で「ユナイテッドアローズ」の店舗へ行っていたんですが、スタッフの方は僕がまだ幼い学生にも関わらず“ひとりのお客様”としてはもちろん、“ヒト”として接してくれました。それがすごく嬉しくて、この会社に入りたいと思ったんです。そういった経験をしているので、僕も同じようにお客様と接したいなと思います。
仕事が終わったあとに、お客様と食事をすることもしばしば。密なコミュニケーションを大切にしている吉田さんらしい一面だ。
-実は吉田さんとプライベートでもお付き合いのあるお客様に、吉田さんのことについてお話を伺っているんですが、その方もいまのお話と同じようなことを仰っていました。「吉田さんのコミュニケーションは『お客様とスタッフ』という関係を踏まえた上で『ヒトとヒト』のコミュニケーションを取ってくれる」と。
吉田:とてもありがたいお言葉です。自分は「仕事とプライベート」という線引きをあまり意識していないんです。だからお客様とサーフィンへ行ったり、プライベートでもお話ができて、それが自分のコミュニケーションにも好影響をあたえてくれているんだと思います。
-それは先程も話されていた“接客上での最低限のマナー”ができているからなんですよね、きっと。
吉田:そうなのかも知れません。そしてそれを持続する為に、体調をいい状態にキープするように心掛けています。朝と寝る前のストレッチや、休憩中はしっかり休みを取ることでフィジカル面でのコンディションを整える。そうすると脳がスッキリした状態でいられるので、いつでも万全な状態でお客さまと密なコミュニケーションが取れるんです。
-「仕事とプライベート」という境界がないからこそ、普段の努力も“仕事のため”にならないから苦にならないんですね。
吉田:せっかくお客様がいらしてくださったのに、いいパフォーマンスができなかったら申し訳ないし、自分自身もスッキリしないんです。そうならないために体調管理は重要です。
-最後に、ユナイテッドアローズが提唱する“ヒト”とは、どんな人のことを指すと思いますか?
吉田:丁寧な言葉遣い、お客様の目を見る、適切なところで相づちを打つ、質問に対してしっかりとした解答で答えるなど、基本的な所作をマスターしていて、さらに精神的にゆとりのある人のことだと思います。それができれば、コミュニケーションも充実したものになるし、そこから個性が育っていく。基本を怠らない人、これが僕が考えて目指しているユナイテッドアローズらしい“ヒト”です。
PROFILE

吉田剛郎