
ヒト
2018.08.02 THU.
鴨志田康人が訪ねる、パリ最古のシャツ専門店〈シャルベ〉のアトリエ。
1838年に世界初のオーダーシャツ専門店をオープンさせた〈シャルベ〉。19世紀からヨーロッパ中に名声を博し、現在でも世界中のセレブリティから愛される最高品質のシャツやネクタイ、スカーフなどを展開しています。そんな〈シャルベ〉とのコラボレーションの仕掛け人であるユナイテッドアローズのクリエイティブ・アドヴァイザー、鴨志田康人がパリのヴァンドーム広場にある店舗兼アトリエを訪れ、新しいシャツをオーダー。さらに、経営者であるジャン=クロード・コルバン氏と対談をしました。
Photo : Shunya Arai
Text : Mami Okamoto
パリの老舗メーカーと長く協業するということ。
〈シャルベ〉の代名詞でもあるドレスシャツは、フランスらしいエスプリの効いたエレガンスが魅力。19世紀から王室にシャツを献上し、当時から変わらぬ品質へのこだわりを持ち続け、時代と共に進化しながら現在でもフランスでシャツやネクタイを作り続けています。ユナイテッドアローズでは、そんな老舗メーカーとコラボレーションもしながら、〈シャルべ〉のドレスシャツを展開し続けています。
−ユナイテッドアローズと〈シャルベ〉はいつから一緒に仕事をしているのですか?
鴨志田:15年くらいですかね、2002年から取り扱いをしています。若い頃から、ドレスシャツが好きで憧れていました。〈シャルベ〉は、言わずと知れたドレスシャツのトップブランドで、僕らの世代にとっては特に憧れの存在でした。オリジナルファブリックも多く、他にはない雰囲気のよさがにじみ出ている。言葉ではうまく言えない世界観があるんです。初めてヴァンドーム広場のショップのドアを開けた瞬間、その場を流れる時間、雰囲気が本当に素晴らしくて感激したのを覚えています。それで長年、客として通っていたんです。シャツのオーダーをするフロアは2階にあるんですが、自分にとっては特別な場所なので最初は特に緊張しましたね。
コルバン:そう、もう17年になりますね。彼がビジネスとして最初にここを訪れたときのことは、いまでもよく覚えています。アンリ・サルヴァドールのことや、その時代の話をしましたよね。ビジネス以外の話をするほうが、その人がどんな人かわかるんです。鴨志田さんは、初対面のときからクラフトマンシップのわかる、違いのわかる人だなと思いました。それから良好な関係を築いています。
カジュアルに提案できるシャツを別注。
鴨志田:フランスらしい魅力の詰まった〈シャルベ〉ですが、すぐに売れるようになったわけではありませんでした。ドレスシャツは狭い世界ですし、クオリティや魅力をいくら伝えようとしても、どうしても伝わりにくい。当時日本人にとってはドレスシャツといえば装飾的にハンドステッチを誇張したものが高級品というイメージがありました。それに比較して〈シャルベ〉の作りは控えめですが、それはもっとも美しい作りを求めてたどり着いたものです。生地の裁断はいまだに一枚一枚をハンドカットしているほどです。昔から今も世界中のシャツメーカーのお手本となっている最高峰のシャツなんです。そして〈シャルベ〉を扱うということにプライドを持っています。そうして扱い続ける中で、いまでは我々のお客様にもファンが多くいらっしゃいます。最近では新たにカジュアルにも提案できるシャツを別注させてもらっています。
この日は次なる別注シャツのための打ち合わせも行われた。実際にシャツを着せながら、ミリ単位でディテールを詰めていく。ユナイテッドアローズと〈シャルべ〉それぞれのこだわりが凝縮されていく瞬間だ。
−頑なに昔ながらのものづくりを続ける〈シャルベ〉のシャツをアレンジするというのは大変なことだと思います。具体的にどんなオーダーをしたのでしょうか。
鴨志田:生地の柔らかなドレープが出るようなボリューム感のあるフォルムのシャツを作りたいんです。タックアウトしてもおかしくない着丈にしたり、程よいルーズフィットにしたり。究極のドレスシャツを普段にさらっとカジュアルに着たらとてもクールですよね。そんなスタイルをイメージしながらコルバンさんに依頼しました。
コルバン:いつも両者せめぎあいの中で一枚のシャツを作り上げています。ときには譲れないこともありますが、彼は〈シャルベ〉というブランドを理解してくれていますから最終的には美しく仕上がっていますよ。デザインをアレンジするというのは私たちにとっては冒険ですが、世界観を崩さずにやってくれるから、ブランドにとっても新しい扉が開いたような感じです。ここ数年、世界中でよりカジュアルなシャツを求めている傾向があるようですし、エレガンスを保ちながら、着る人に寄り添っていくということは素晴らしいことだと思います。
話し合いを重ね、真剣に向き合う。人柄がつなぐ一枚のシャツ。
−コルバンさんに質問です。10年以上コラボレーションを続けているユナイテッドアローズについて、どのような印象をお持ちですか?
コルバン:日本の大きなセレクトショップだということは知っていますが、行ったことがないので、私にとってはユナイテッドアローズ=鴨志田さんなんです。ショップと取引しているというよりは、彼だから一緒に仕事をしているという感じですね。仕事と言っても、結局は人と人とのつながりですから。彼のことはすごく信頼しています。まずその価値観に共鳴します。ファッションの歴史やルーツもよく知っているし、芸術やカルチャーに関する知識も豊富ですから、共通の話題があり仕事がしやすいです。
鴨志田:そう言っていただいて光栄ですが、コルバンさんに会うときは、いまだに緊張しますよ。憧れのブランドですから。商談しているときは真剣にやってますが、その後はフランスの美術館やギャラリーの情報なんかを教えてもらったりしてます。
コルバン:鴨志田さんは、ユナイテッドアローズの偉い人なのだろうけど、私は親しみを持って接しています。大切なのは、どんなブランドかよりも、どんな人と仕事をするかです。人柄が重要です。〈シャルベ〉を愛し、理解してくれる鴨志田さんには感謝しています。
〈シャルベ〉の長い歴史の一部としてのコラボレーション。
−今後はどんなコラボレーション商品を展開する予定ですか。
鴨志田:パリの歴史あるブランドとの仕事であること、そして、ファッションがあふれているこの時代だからこそ、あえて変わったことはしません。ただ、理想的な一枚のシャツを丁寧に作ること、それを継続することが大切だと思っています。
コルバン:そう、そのとおりです。このコラボレーションは〈シャルベ〉の長い歴史の一部分です。今後もゆっくり続けていきましょう。
PROFILE

鴨志田康人
1957年生まれ。ユナイテッドアローズの創業に参画し、メンズクロージングの企画・バイイングなどを担当。2007年には自身のブランド〈Camoshita UNITED ARROWS〉を立ち上げる。現在、クリエイティブ・アドヴァイザーとして、ユナイテッドアローズのバイイング、商品企画など幅広く活動している。

Jean-Claude Colban
ジャン=クロード・コルバン。「エグゼクティブのための良い趣味」をコンセプトに180年の歴史をもつ〈シャルベ〉の経営者。ド・ゴール大統領をはじめとケネディ大統領、そしてハリウッドスターなど幅広い顧客をもつ〈シャルベ〉社を、兄妹であるアンヌ=マリー・コルバンとともに所有し、ブランドを支えている。