
ヒト
2019.07.18 THU.
年齢を重ねても大切にしたい日常着<LOEFF(ロエフ)>ディレクター鈴木里香の頭の中。
今季、ビューティ&ユース ユナイテッドアローズよりデビューした新ブランド<ロエフ>は、“年齢を重ねても大切にしたい日常着”をコンセプトにウィメンズを展開。ディレクター兼デザイナーを務める鈴木里香さんは、社会人になってからずっと、デザイナーとしてさまざまなブランドの服づくりに関わってきました。そんなデザインひと筋の彼女が描く、“今だから必要な服”とはどんなデザインなのか、<ロエフ>の世界、そして、彼女の頭の中をのぞいてみました。
photo_Hiroyo Kai(STUH)
text_Kozue Takenaka
―<ロエフ>を立ち上げることになった経緯を教えてください。
社会人になり約22年、デザイナーとして仕事をしてきましたが、ひとつの服が完成するまでにはたくさんの人たちの努力があってこそだと日々感じていました。だからこそ、わたしも次の世代、そのまた次の世代へとつながるような服づくりをするのが、デザイナーとしての使命ではないかなと思ったんです。そして、40代になったいま、“同世代の女性が着たいと思える服がまだまだあるのでは”と感じ、そんな服を今まで関わってきた工場さんたちとつくりたいなと思ったのがきっかけです。そういうことを2〜3年前から本格的に考えはじめ、1年かけて会社に打診し、いろいろとトレンドが変わりゆくなか、<ロエフ>を発表するなら今のタイミングなのかなと。
―<ロエフ>を立ち上げた際、最初に企画したアイテムはなんですか?
わたしはいつも物事を同時に考えてしまうので1番となると難しいのですが…。基本的にシャツとパンツさえあれば生きていけると思っているので、まずはその2アイテムを考えました。それからジャケットやTシャツで。これらのアイテムは今後もつくっていきたい<ロエフ>の定番です。
―鈴木さんがメンズのパターンにこだわる理由を教えてください。
単純にわたしが昔からメンズ服のパターンや色合いが好きだったという…。デザイナーとしても、当時の会社の先輩からメンズの方があっているのでは? と言われ、メンズ服に関わるようにもなりました。メンズ、レディース双方に良いところがあるのですが、メンズならではの“着ていて気持ちいい、ゆとりがあるパターン”をレディースにも生かしたいなと思ったのと、素材においても、レディースではあまり使われないけれど魅力的な素材を積極的に取り入れたいと考えていました。
―ご自身も普段からメンズ服を着ているのですか?
ほとんどが古着ですが、メンズ服も着ています。でも、若いときはメンズ服を着ていても“ダボッとしてかわいい”と思えたのが、年齢を重ねるといろいろと無理が出てくるし、なにかが違うと感じていました。だから、<ロエフ>では、メンズのパターンを取り入れるけれど、あくまで大人の女性が着ることを想定してつくりました。

―ご実家の家業の影響で作業着に馴染みがあったと伺いましたが、デザインをする際になにか影響はありましたか?
はい、ありました。実家が鉄工所だったのですが、いわゆる作業着って動いて作業するためにつくられているので、人が動くことに適したデザインになっているんですよね。<ロエフ>の服は、人から見たときはきちんとしているけれど着ている本人には楽なものをつくりたかったので、作業着からもヒントを得ることがありました。ヨーロッパのワークウェアが素敵で注目しているブランドが多いのですが、わたしは日本の作業着のよさを取り入れたかったんです。ニッカポッカに関しては、そのままだとシルエット的にやりすぎなので、鳶工のパンツとジョッパーズをミックスしたような、女性が穿いたときにスタイリッシュに見えるようにアレンジしました。
―鈴木さんがデザインをする際のインスピレーションソースはなんですか?
インスピレーションソースとは言えないのかもしれませんが、素材と骨格を見てイメージを膨らませます。行き交う人を見ても、日本人の女性の大半は平べったい骨格なのでメンズ服が合うのかなと確信が持てた部分もあります。
―今までの服づくりで影響を受けたデザインやアートなどがあれば教えてください。
影響を受けたのは、小学生のときにデザイナーになりたいと思ってからその時の担任の先生がよく見せてくれていた<ロバート・キャパ>の作品と<Yohji Yamamoto>。雑誌でいうと『装苑』や『Pen』ですかね。『装苑』は当時、後半のページに型紙がついていたのですが、小学生のときはそれを使って服をつくっていました。それと、3年前にニューヨークで開催されていた<ジョージア・オキーフ展>に行ったのですが、そこに並ぶ彼女の服を見て素晴らしさを再確認しました。書店巡りも好きなので、時間があるときや休日には神保町の本屋を巡って、ワークウェアや古着の本を探したりしています。
―休日の話が出たのでお聞きしますが、プライベートで大切にしている時間はどんなときですか?
一緒に暮らしている猫を抱いてお酒を飲むか、友達に会ってお酒を飲むか(笑)。あとは買い物にも行きます。仕事柄、自社の服を買ってしまいがちですが、できるだけいろいろなお店に行き、買い物をするようにしています。接客や服を買うまでの自分の思いなど、お客さまの気持ちになることが、デザイナーの仕事にとっても大切だと思うので。
―ファーストコレクションでは、白や紺、ベージュなど、定番色ながら絶妙な色合いが印象的でした!
純粋に色のなかで白・紺が好きで、この2色が<ロエフ>の定番色になるようにしたいと思いました。どのブランドも当たり前のように使っている色ですが、意外とこの2色をキーカラーにしたブランドはないような気がしましたし。ひねらずストレートに表現したいという思いで色出しにはこだわりました。
―特に気になったのが白なのですが、本当に真っ白ですね! 眩しいような白の服が並ぶと定番色ながらもなんだか特別感があります。
これは蛍光晒(けいこうざらし)といって、一般的に使用されている白と比べるとより真っ白な生地を使用しています。素材によって向き不向きがありますし、難しい点もあるのですが、これからもずっとつくり続ける予定です。
―今後<ロエフ>でつくってみたいアイテムはありますか?
ファーストコレクションは、自分が昔から変わらず好きだったものをつくりました。そのなかで<Barbour(バブアー)>とのコラボアイテムがあるのですが、ほかにも素晴らしいブランドの服がまだまだたくさんあるので、今後はそういったブランドとのコラボアイテムも積極的につくっていけたらいいなとも思っています。何パターンかはすでにイメージしています。
―ブランドにとってデザイナーはどんな存在だと思いますか?
企業デザイナーという立場からいうと“監督”ですね。この素材をどこに頼んで、誰にパターンを頼んで、どこの工場に出して…と。デザインしてからどう完成させていくかが大事だと思います。
―では、鈴木さん自身、どういうデザイナーでありたいですか?
昔からこの仕事をすると決めていましたが、デザイナーを目指す前までは服がなければいいと思っていた子どもだったんです。だけど、初めて母のおさがりのリーバイスをはいたときに、“服でこんなに気分が変わるんだ!”と感動しました。人が生きているうえでいかにその人らしくいるか、人が心地よく生きていくためには、どうしたらいいのだろうか、と日々考えてきたので、それを反映できるデザイナーでありたいと思っています。
―最後に、今後<ロエフ>をどんなブランドにしていきたいですか?
ブランドを継続することは大変ですが、初心を忘れずに続けること、工場やスタッフと一緒に服づくりを楽しむことを大切にしていきたいですね。50年、100年経ったときに、自分がこの世にいなくても、くたびれた<ロエフ>を着て喜んでもらえるようなブランドになってほしいと思っています。次のシーズンでは、メンズラインもスタートします。自分が着られないサイズだけに、理想に偏りがちで難しいことも多いですが…。それでも今、とても楽しくて“生きている”って感じがします(笑)。先ほど、お酒が好きと言いましたが、<ロエフ>ってどんなブランドですか? と聞かれると、「おしゃれなハーブティーより焼酎のソーダ割りみたいなブランドです」と答えると、社内の人はなるほど、と納得してしまうんです。皆、わたしがお酒好きだと知っているので(笑)。まずは、“着張らず、その人らしく楽しくいきましょう”というブランドの想いが伝われば嬉しいなと。実際に買っていただいて何度も着て、着るたびに喜んでもらえるようなブランドでありたいです。
INFORMATION

8月1日(木)よりユナイテッドアローズ 原宿店、8月2日(金)よりユナイテッドアローズ 六本木店、有楽町店、横浜店、ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 丸の内、エイチ ビューティ&ユースにて展開予定。
POP UPイベントも開催予定です。
PROFILE

鈴木里香
国内外のトラディショナルブランドやデザイナーズブランドでデザインを経験。その後、2007年にユナイテッドアローズ社へ入社し、ビューティ&ユース ユナイテッドアローズやスティーブン アラン、エイチ ビューティ&ユースのデザインを担当。2019年秋冬シーズンより<ロエフ>を立ち上げる。