ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2019.10.31 THU.

〈Carton(カルトン)〉島津冬樹さんと、リサイクルと包材マークについて考える。

「不要なものから大切なものへ」――こんなコンセプトを掲げる〈Carton(カルトン)〉というブランド名を冠した段ボール製の財布で、近年にわかに注目を集めているのは、自称「段ボールピッカー」の島津冬樹さん。段ボールを拾うために訪れた国は、これまで35カ国にも及びます。捨てられるはずのものに息吹を与える、いわゆるアップサイクル的な側面からも話題となり、彼を追った『旅するダンボール』というドキュメンタリー映画も撮影されたほど。そこで、段ボールを通して島津さんの目から見た、世界のリサイクル事情やマークのデザインについて話を聞きました。

Photo_Shinji Serizawa
Text_Masashi Takamura
Illustration_Fuyuki Shimazu

段ボールで財布を作る理由とは?

―「段ボールを財布にする」とは、独特な発想だと感じました。なぜ、財布だったのですか?

島津:学生時代にたまたま洒落たデザインの段ボールが捨ててあるのを発見して、そのときは目的もなく2、3個拾って帰ったんです。その後、財布の買い替えを検討していたときに試しに財布を作ってみたところ、意外にも長持ちしたので、結構イケるなと(笑)。それを学園祭のフリーマーケットで500円で販売したのが、商品としてのスタートです。その時、たくさんの人が面白がってくれたので、かなりの手応えを感じましたね。

―大学卒業後、広告代理店に就職されていますが、独立して段ボールを生業にしていこう、というきっかけは。

島津:アートディレクターになりたくて多摩美術大学に進学しましたが、大学2年生のときに段ボールと出会い、アーティストになりたい想いが芽生え始めました。大学の先生や先輩など、多くの人のアドバイスで一度就職して社会勉強をすることに。ただし期間は3年間と決めていました。実際は、会社も仕事も楽しく、続けてもいいかな、とも感じていたんですが、やはり初志貫徹。会社のそばに築地があって、そこで拾い続けていた結果、段ボールへの愛もいっそう深まってしまい(笑)。この先、やめにくくなっていくのもこわいなとも思い、段ボールの道に進む決心をしました。

―現在、〈Carton〉と名付けてブランドとしています。最近は、アップサイクルの観点でも語られることが多いですが、ご自身ではどのように受け止めていますか?

島津:「カルトン」と読むのですが、これはフランス語で段ボールの意味です。なんとなくお洒落かなと(笑)。それに「カルトン」も、英語読みの「カートン」も、世界の多くで「段ボール」だと通じますしね。段ボール自体がリサイクル素材である点は、創作を開始したときから気づいてはいたんですが、正直言って、特段エコロジカルな意識を持っていたわけではないんですよ。むしろ、リサイクルという循環の邪魔をしているんじゃないかって(笑)。だって僕が財布を作らなければ、そのまま再生されるかもしれないですからね(笑)。ただ最近、アップサイクルという言葉を知って、「これだ!」と思いました。不要なものに価値を与える。言語化されたことで、ようやく自己肯定ができるようになりました。

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2_MG_4163さまざまな絵柄の段ボールから作られた、財布やカードケース。(写真上)
ファイル、カードケース、ペンケース、ライターケースなど、島津さんが普段から愛用するグッズは、すべて段ボール製。(写真下)

―『旅するダンボール』という映画化もされるなど、日増しに認知されていると思いますが、2010年ごろのブランド開始当初と今と、約10年で変化を感じたことは?

島津:圧倒的に街に段ボールが増えた印象です。これは、ネット通販など流通事情の変化が大きく関係していると思います。拾いがいのある面白いものが増えているわけではないのですが(笑)。途中から僕も、意義を感じて「不要なものから大切なものへ」というコンセプトを掲げて活動しているのですが、そうした身近な段ボールに興味を持ってくれている人が増えているのも感じています。不要な段ボールで新しいなにかを作り、それが定着しつつあるのは、うれしいですね。

―段ボール以外の包材には、興味はなかったんですか?

島津:結構、ありとあらゆるゴミに興味があります(笑)。例えば、段ボール箱に入っている発砲スチロールの緩衝材。これは世界各国で微妙に色が違うのが面白くて、ディスプレーに使ったりしています。特にドイツ製のものは、色が綺麗でした。南アフリカで拾ってきたのは、いわゆるプラスチック製の結束バンド。青の色味が日本製とはまったく違って惹かれました。落ちているものは、デザインが良ければ、ショッパーやフライヤーなどもひたすら拾って集めています。これは国別に分類してアトリエに保管していますよ。

―すごいですね(笑)。少年時代に男子が抱く「コレクター魂」のような感覚なのでしょうか。

島津:湘南生まれということもあって、貝拾いが原点にあるかもしれませんね。コレクション癖です。

―改めて、段ボールの魅力はなんだと思いますか?

島津:使われている背景の物語に、すごく興味を持っています。結局すべてに人間が絡んでいて、農作物用なら、農家の人の働きぶりだったり、仕送りに使われたなら、箱に内容物がマジックで殴り書きされていたり、それぞれに「旅してきたもの」ならではの物語が詰まっている。そこにロマンを感じますし、結果、捨てられてしまうという、その儚さもいいですよね。


リサイクルマークをデザインの観点から考えてみる。

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―かつて、段ボールに印刷されている、いろいろなマークを分類して調べていたそうですね。

島津:デザインが好きなので、その観点からです。持ち前の収集癖も加わって、そのときはかなり調べましたね。「紙」「プラ」「スチール」など、リサイクルできる素材を明記したものや、「FSCマーク」など、特定の団体が認めた一定の基準を満たす素材が使用されたもの、「グリーンマーク」を筆頭に再生原料が使用されているものなど、多くがサステナビリティに関するものですよね。

―さすが、ブランドを立ち上げた当初は、フリーランスのデザイナーもされていたということもあって詳しいですね。世界中から段ボールを収集するなかで、面白いと感じた点があれば、教えてください。

島津:国によって、どんなマークが記されているかは、さまざまです。日本は、あまり段ボールにマークが入っていないんです。海外だと、段ボールを作っているメーカー名やロゴ、あるいは強度の表記、印刷用の仕上がりをチェックするマーク(トンボ)まで、いろいろプリントされていますね。それは、財布とかアクセサリーを作るときには好都合です(笑)。

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―島津さんにとって、デザイン的な観点で優れたマークというのはどういったものとお考えですか。

島津:僕は、段ボール目線で見てしまうんですが、段ボールは多くの国を行き来するので、一目見てなんのマークかがわかる、というものが優れていると思います。だいたい複数の意味を持つことが多いので、そうした意味を1つにまとめてデザインする。ひと目見てなんだかわかる、バランスのいいものが、よくできているマークだと思います。そうした機能性の高いマークほど、財布にも使いたくなってくるんですよね。

―今回、日本で流通するもののマークからベストスリーをチョイスしていただきました。

島津:順位はつけられませんが、3つ選ぶなら、「間伐材マーク」「ダンボールマーク」「FSCマーク」ですね。ポイントはいずれも、わかりやすさと見た目の良さとのバランスです。「間伐材マーク」は、シャベルで掘り返された間伐材が循環利用されるイメージがうまく表現されています。世界共通の「ダンボールマーク」は、文句なしですね! 文字すら入っていないのに強い説得力があります。「FSC マーク」は、アメリカの段ボールでも良く見かける国際的なマークですね。木立と「✔︎」チェックマークをミックスして「管理感」を出した、グッドデザイン。確か、管理された森林から生まれた木材を使用しているんですよね。

6-2_MG_4165左から、「間伐材マーク」「ダンボールマーク」「FSCマーク」

―はい。非営利団体のFSC(森林管理協議会)によって、環境保全と経済的に持続可能に管理された森林からの木材を使用した商品につけられています。今、失われゆく森林を保全しつつ、木材の経済利用を持続させるために、法規を逸脱した方法で伐採されたものでなく、こうした管理森林からの木材を使用しよう、というものですね。

島津:海外の段ボールによく見るマークです。日本でも普及が広がっていくといいですね。


世界の段ボールを拾ってわかったリサイクル事情

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―日本の段ボールと海外の段ボール。なにか、大きな違いはありますか?

島津:アメリカは特徴的ですね。材料となる木材が安く供給されるために再生原料の使用率が低いんです。だから、ヴァージンパルプを使うと色が濃くて硬い。カサカサした感じです。強度もあります。日本はリサイクル率が高いので、再生紙の割合が多くしなやか。黄色味も強いですね。インドの段ボールはバリバリ。ちょっと濡れただけでふやけちゃう。ひと言でいうと質が悪い、ほかに見たことがないくらい。材料があまり良くないんでしょうね。国のリサイクル率の多寡でも、質感は変わってくる傾向はありますね。

―そうなると、財布への影響もありますね(笑)。部位ごとに生産国を変えるといった使い分けなどはするんですか。

島津:しますよ。日本の段ボールは柔らかいので、蛇腹などの財布の内側のパーツが多いです。逆に外側は強度が必要なので、アメリカやヨーロッパなどの硬い段ボールを使います。その辺のノウハウは、長年で蓄積していきましたね。

―訪れたのは、現在35カ国。どういった基準で国を選ぶんですか?

島津:特に定めてはいません。「その時に行きたい場所に」という感じで。文字は興味をもつ大きな原動力になります。トルコ語やキリル語なんかの非アルファベット圏は、デザイン的にも新鮮ですから。グーグルマップを見ながら、変わっているなと思ったら拾いに行く。段ボールの魅力のひとつに、ご当地感もあるんですよね。なので、特産物がプリントされたりする、ならではの段ボールというのも大きな魅力。そうした「未知なる」段ボールをコレクションしていく感覚です。

―ここでも「コレクター魂」が発揮されますね。

島津:はい。訪れて見えてくるのは、その国の経済や貿易の状況です。例えば、キリル文字を狙いにいったブルガリアには、ブルガリアの段ボールは皆無。あったのは、トルコ語やギリシャ語のものでした。つまり、ブルガリアの農産物は、周辺国に頼っているんだなということが見えてきますよね。

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―深いですね。

島津:逆に日本の段ボールを世界で見ることはないんです。多分、日本の農産物が海外に出回っていないということなんでしょうね。逆に日本のブランドのカップ麺などは見るんですが、その場合は現地法人の生産となっていて、グローバル企業であることもよくわかります。

―段ボールを通じて見えた、海外のリサイクル事情を教えてください。

島津:回収方法が国によって違いますね。日本や先進国は、インフラが整っているので、パッカー車が回収する。当たり前なんですが。東南アジアなどは、そうしたシステムがまだないので、段ボールを拾って換金して生活するような、スカベンジャーと呼ばれる人がいるんです。僕がそういう国に行くと、「ライバル出現」といった感じで見られます。彼らからすると死活問題ですから。中国では、僕が拾った段ボールをよこせと言われたこともありますね(笑)。縄張りがあるみたいなんですよね。いまのところ、無事に帰ってきていますが、国によって事情はさまざまです。

―島津さんが考える、リサイクルの未来は?

島津:どうしてもリサイクルというと説教くさく、ハードルが高く感じられてしまいます。「環境にいいから」を理由にしてしまうと、義務感が生まれて続けるのも難しくなってしまう。だから、まずは「楽しむ」ことがいいのかな。カッコいい、かわいい、から入って、よくよく考えると、「これっていいことなんだよね」にたどり着ければいい。無理なく楽しむことが、サステナブルにもつながりますし。リサイクル自体にも、その循環のシステムが飽和していて、それだけを頼みにできない現状もありますから、段ボールを通じたアップサイクルというのも有効だと思います。自分で作ったものを使う、それが楽しいことなんだ、というのを、僕の活動を通じて伝えていきたいですね。なにかを捨てるときに、次の使い道もあるんじゃないかということを考えることが大事なんじゃないかと思います。ゴミをゴミだと思わない。すると、街を歩いていてもワクワクするし、自分を豊かにすることができるんですよね。

―さすが、世界中から段ボールを集めているだけのことはあります。

島津:どんなものでも大切になる可能性を秘めています。僕の場合は、アップサイクルは後付けで、純粋な段ボール好きが発端ですけどね(笑)。

PROFILE

島津冬樹

1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科を卒業後、広告代理店を経て独立。大学生在学中から段ボールの魅力を伝える〈Carton(カルトン)〉として活動し、段ボール製財布の販売や、段ボールを使ったアイテムを作るワークショップを開くなど、多彩に活動。段ボールピッカーと自称し、世界中で段ボールを拾い集めている。著書に「段ボールはたからもの」(柏書房)。来年1月には「段ボール財布の作り方(仮)」が発売予定。

〈Carton〉
http://carton-f.com

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