ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

尾花 大輔×秋元 舞子と考える、都市生活者のためのリアルな服。

モノ

2025.03.28

尾花 大輔×秋元 舞子と考える、都市生活者のためのリアルな服。

〈N.ハリウッド〉(以下、Nハリ)のデザイナーとしてファッションシーンの前線を走り続けてきた尾花 大輔さんが、ユナイテッドアローズとともに都市生活者のためのワードローブの提案を始めて早7年。今シーズンよりブランド名を〈D.O UNITED ARROWS by Daisuke Obana〉(以下、D.O)と改めて、より深掘りした現代のリアルな洗練を描いています。そのステップアップの鍵にもなったのが、ウィメンズを手がけるために3年前よりブランドに参加した〈フィーニー〉のデザイナー、秋元 舞子さんの存在。尾花さんがこの起用に至った理由と、そこから見えた光明とは。デザインのバックグラウンドから、こだわり続ける小松マテーレによる生地の話まで。コレクションに込めた想いと、ものづくりの核心に迫ります。

Photo: Kenta Sawada
Text: Rui Konno

秋元さんの参加で見えた、 “理想のフォルム”。

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ー尾花さんとユナイテッドアローズ(以下、UA)の協業が始まって7年経ったいま、ブランド名を改称されたのはなぜなんでしょう?

尾花 大輔(以下尾花):元々は〈UNITED ARROWS & SONS by DaisukeObana〉の名前で最初は2、3型だけで始まりました。気づけば一つのブランドぐらいに成長し、多くのお客様からの支持も頂き、〈UNITED ARROWS & SONS〉(以下、サンズ)の枠を超えたプロジェクトにしたいというUAさんの強い思いからこの様な形になりました。

―最初はそんなにコンパクトなラインナップだったんですね。

尾花:はい。ありがたいことに〈サンズ〉内でも支持して頂きましたが、エッジの利いた〈サンズ〉のセレクションからはちょっと乖離してきたこともあり、枠を超えてUA全体で取り扱う事で、より多くのお客様にご提供したいという話になりました。また今季から、名前も変わり〈D.O UNITED ARROWS by Daisuke Obana〉に。それに合わせてタグや、プライスカードも併せてリニューアルしました。

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―なるほど。〈D.O〉の現在のものづくりについて語っていただく中で、秋元さんにご同席いただいた理由も説明が必要ですよね。おふたりの関わりを知らない人も多いでしょうし。

秋元 舞子(以下秋元):そうですよね。

尾花:彼女は元々、〈Nハリ〉でパタンナーをやってくれていたんです。

秋元:もう15年くらい前になります。

尾花:もうそんなに経つんですね。いままで色んな人にウチでパタンナーをやっていただいていますけど、女性でゼロから最後までちゃんとパターンを引いてくれたのは彼女が最初でした。何年間ぐらい一緒に仕事してもらったっけ?

秋元:5年ですね。

尾花:5年か。彼女がリアルにパターンを引く様になってくれたあたりから、もっと感覚的な見た目やフォルム…要は線じゃなくシルエットを追いかけるようなパターンを引く考え方を意識させてくれた記憶があります。

―そこで〈Nハリ〉に新しい視点が加わったんですね。

尾花:一番忘れられないのがニットです。ニットって伸び縮みがすごいからなかなか定まりづらいんですけど、そこで彼女に非常識的なパターニングの考え方をお願いしたときに、自分の中で色々と理想のフォルムができたんです。そこで、決まりごとに囲まれるよりも新しい考え方をしていかないといけないと気づけました。その後何年か後に、「自分でブランドを立ち上げたい」と。

秋元:そうでしたね。

尾花:「自分が好きなものを、自分らしく出したいと思っています」っていうことをはっきり言ってました。そこからブランドが始まって、あれよあれよと13年が経って。今から3年前かな? ちょうど〈フィーニー〉が10年目を迎えたぐらいに、最近の事やウィメンズの服の在り方とか、色々話を聞きたくお茶したような。

尾花さんのイメージを女性像へと繋げてゆく。

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―それが〈D.O〉の相談だったんですか?

尾花:はい。〈D.O〉も気づけばスタートしてもう随分経っていました。それまでUAのウィメンズの企画チーム、PRチームの方々にすごく助けてもらっていたんですけど、〈D.O〉の規模感が大きくなり、僕自身が理想としてるウィメンズのスタイルの提案にも僕自身に限界を感じるようになってきたんです。なぜなら、男性にはわからないことがウィメンズウェアにはいっぱいあり。

―ウィメンズを普段から着ている人の主観や経験が必要だったと。

尾花:そうです。ただデザインを売るだけだったら自分でもできたかもしれない。でも、女性にとっての機能服をつくらなきゃとなったときには、もっと生態系というか、行動やリアルな体形とかを本格的に知らないといけなくて、到底自分ではそこにたどり着けませんでした。そこで、元々の関係値もあった秋元さんに「手伝ってほしい」と声をかけました。

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秋元:私は単純に尾花さんから連絡が来たことが嬉しかったです。自分のブランドをやってきて、その経験も活かせるかなって思いました。

―〈D.O〉はデザイン性だけじゃなく実用性も重要なレーベルだと思いますけど、そこに迷いはなかったんでしょうか?

秋元:自分のブランドでも日常で着る洋服だったり、快適に暮らすための洋服をつくりたいっていう想いはありますし、そこは〈D.O〉と共通してるので迷わず「はい!」と返事をさせていただきました。

―でも、すでに何年も続いているブランドで、しかも限定された素材だけでつくられているコレクションという個性がある中での参加は大変さもあったんじゃないですか?

秋元:いえ。私はゼロからデザインを考えるタイプのデザイナーではなく、「この古着がもっとこうなったらいいのに」、「メンズのお洋服だけど、女性でも着やすいように」というふうに考えています。色やサイズ感を変えたりして着やすくしたりという方が得意で、ここで求められたのは尾花さんがつくっているものをウィメンズに落とし込むことだと思い、それは自分が得意なことなので大変だとは思いませんでした。

小松マテーレの生地が秘める個性と可能性。

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―〈D.O〉で使われている小松マテーレが加工した生地についてはどんな認識ですか?

秋元:〈D.O〉で使っている生地は、小松マテーレさんの特殊加工によるシボ・シワ感・ふくらみが特徴です。本当だったらエレガントな素材だと思います。それをカジュアルにしたり、日常で着やすいものに落とし込んだりするのが自分のやりたいことです。日常で着られるお洋服だけどきれいに見せたり、素材の良さを活かしつつカジュアルダウンしたりするにはどうしたらいいか考えるのはすごくおもしろいなと。

―尾花さんと秋元さんとで、小松マテーレの工場にも伺ったと聞きました。

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尾花:はい。去年の11月ですね。一番は彼女にも現場を見てもらい、「こうしたらこうなるんじゃないですか?」みたいな会話ができたらいいなと思っていました。僕はもう何度もこの生地に触れていますが、灯台下暗し的なこともきっとあると思ったんです。それに、小松マテーレさんは普通の生地屋さんとは違って加工をする会社で、化学の現場が見られます。様々な研究とか、実験をした末で、シンプルに見えるこの生地ができているということも、知っておいてもらいたかったんです。小松マテーレさんは常に実験をされていて、アーカイブルームにはすごい量の生地があり、当然生地の開発チームもあります。そういう方々が「これはちょっと生地を痩せさせました」、「薬品に含浸させて手触りを硬くしました」ということをやられてます。僕も5年ぶりくらいに行きましたが、やはり今回も発見がありましたし、次回以降の「週3、4日着れる服」というコンセプトのための、新たな生地も形が見えてきました。

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秋元:同じ素材に対しても加工を変えることで硬さも変えられるし、ハリ・ドレープ感も持たせられるしで、そこはウィメンズのデザインに活きてくるところだなと思いました。だから加工のバリエーションももっと試していき、〈D.O〉に合う新しいデザインを探っていきたいなと思います。本当に生地が良いので、デザインしすぎないというコトが重要な気がしています。
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(左上)小松マテーレ本社製造工場。(右上、左下)小松マテーレ社の生地製造工程を見学する尾花さんと秋元さん。(右下)念入りに生地をチェックする製造工場スタッフさん。

―尾花さんがそこまで小松マテーレの生地にこだわる理由は何なんでしょうか?

尾花:とにかくこの手の素材に対して常に、最先端で挑戦している事ですかね。我々としては、ハリ・コシがあってシワが気にならないことと、やはりイージーケアでカジュアルでもエレガントに見えるところを目指していて。そういう素材は実は色々あるけど、大体はエレガントすぎたりカジュアルすぎたり。そうなると、色々なシーンで日々着られない。でも、小松の生地ならコンビニにも行けるし、何なら寝られる。とにかく〈D.O〉で使っている生地は総合的に全部カバーできるんです。小松を超える生地を小松が超えてくるので(笑)。だから〈D.O〉では良い意味でこの生地のためにデザインするしかないんです。

―〈Nハリ〉では様々な生地が使われていますし、本当に対照的ですね。

尾花:そうですね。〈Nハリ〉で服を作っていく考え方とは全く違います。ひとつの生地のためにデザインを合わせていくっていうやり方は僕も後にも先にもたぶん〈D.O〉しかないので、純粋に楽しいです。

目指すのは、日常に寄り添った服づくり。

―毎日着られるというお話が出ましたけど、秋元さんは考え方をどうやって切り替えているんですか? 〈フィーニー〉のコレクションは着回しとか、時短とか、いわゆるコンサバファッションで重要になってくるワードローブ観とまた違うのかなと思うのですが。

秋元:いえ、とにかく私は毎日同じ服でいいんです。朝起きて、考えたくないんです。〈フィーニー〉も「この服でいい」という感覚でつくっていますし、「着心地がいいから着たい」と思ってもらいたです。毎日着る服って何がポイントかというと、やはり着ていて気持ちがよくてその日の自分のパフォーマンスがすごく上がったりすること。そういう気持ちを大事にしていますし、ファッションというよりは日常に寄り添った服をつくりたいとずっと思っています。同じ生地を数年使い続けたりして、1年自分で着てみて感じたことを次のシーズンに活かすような服づくりをしています。だから、素材のよさを最大限に活かすデザインを考えて快適でいながら見栄えもさせる、みたいなところは〈D.O〉も〈フィーニー〉と同じなんだと気づきました。

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―逆に、秋元さんが参加されるタイミングで「ここは向上の余地がまだあるな」と思われたことはありますか?

秋元:やはりチームがほぼ男性なので、女性特有の感覚という部分ですね。微妙なサイズ感とか、多くの人が気にしているポイントだったりとか。パンツだったらウエストの位置とヒップのゆとりとか、はいたときの雰囲気とかの味付けは普段からウィメンズを着ている人じゃないとわかりませんし、そのニュアンスを汲み取るのが自分のすべきことかなと感じています。

―そういう意見が自然と言える環境になっているんですね。

秋元:そうですね。ちゃんと任せてくれています。私が「こうだと思います」と言ったら「あ、そうか」と言ってくださいます。

尾花:止めたくないんですよ、彼女が考えてくれたことを。もちろん〈D.O〉のことを理解してくれていますし、「ちょっと違うかもな」と思っていても、つくってみたら意外と合っていたこともありましたので。

現代社会で楽であるために洋服ができること。

―尾花さんから見て、秋元さんが参加してくれたからできたアイテムだなと思われるのはどの辺ですか?

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尾花:例えばTシャツですかね。ピッタリしているサイズなんですけど、実際着るとミニマルに見えるから体のフォルムを小さく、すっきり見せてくれるんです。

秋元:トップスを小さめにして、ボトムスはワイドみたいな最近の流れから見ても新鮮かなと思います。これは自分自身がいま着たいムードも取り入れました。これでコットンだと体のラインを拾いすぎてインナーが気になりますが、この生地だからこそ、このコンパクトさが引き立つなと。

尾花:女性にとって楽であるということは、ただ着心地が楽というだけではないと思うんです。自分の体型がきれいに見えることも楽だろうし、華やかさがあることも楽だろうなと。

―物理だったり精神面だったり、いろんな楽がありますね。

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尾花:そう。だから色々実験したいし、それがメンズにも返ってくると思います。いま秋元さんが着ているスウェットも元々ウィメンズなんですけど、「これが大きかったらメンズでもよくない?」みたいな感じでメンズ版を出したりとか。パタンナーチームも優秀なので、そういうこともできるんです。

―一部店舗とEC限定のアイテムもあるんですよね?
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尾花:はい。一部店舗とEC限定アイテムは、ウィメンズで作ったデザインをメンズ化した羽織りとパンツです。「この生地はちょっとパリッとした表情に見えるので、いけるんじゃない?」と。いいものがあったらそれがメンズでもウィメンズでもとにかくやってみる。難しく考えすぎないで、それで大多数が「いいね」と言ってくれたら間違いない、というぐらいのつもりでやっています。
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秋元:ウィメンズのアイテムは、他の〈D.O〉とセットで着てもらえるとよりよく見えるベストです。このアイテムに限らず、私もブランドのテーマの「週3、4日着れる服」で組み合わせるアイテムをつくっていけたらお客様にも喜んでもらえるかなと思っています。

―つくづく風通しの良いブランドですね。〈D.O〉は。

秋元:私自身はこの生地を活かすデザインを! というふうに見ていたところに、尾花さんは用途とか哲学みたいな部分までを見てくれていて、削ぎ落としてくれるのでブランドとしてブレないんです。それがディレクターとしての視点なんだなと、すごく勉強になりました。私自身も、まだやってみたいことがたくさんあります。

尾花:そういうふうにいまもチャレンジしています。まだ多くは語れないけど、トライアンドエラーの最中です。

秋元:まさかまた尾花さんと一緒に服づくりができるとは思わなかったんですけど、やはり新しい視点が生まれますし、楽しいですね。

尾花:そうだね。だから〈D.O〉の今後にもぜひ、期待していただけたら! という感じです。

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PROFILE

尾花 大輔

尾花 大輔

1974年、神奈川県生まれ。古着屋〈ヴォイス〉でバイヤーを務めた後、原宿の古着屋〈ゴーゲッター〉の立ち上げに参加する。2000年にショップ〈ミスターハリウッド〉をオープンし、2001年に自身のブランド〈N.ハリウッド〉をスタート。2010年9月より、NYでコレクションを発表している。

秋元 舞子

秋元 舞子

1985年生まれ。文化服装学院技術専攻卒業。〈N.HOOLYWOOD〉のパタンナーとしてキャリアをスタートし、2012年春夏より、自身のブランドである〈フィーニー〉を設立。デザイナーとして活躍し、2023年より〈D.O UNITED ARROWS by Daisuke Obana〉のウィメンズの企画へ参画中。

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