ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

「ループウィラー」×「ロウワーケース」for「ユナイテッドアローズ」、“ニュースタンダード”なスウェットの開発秘話。

モノ

2024.04.05

「ループウィラー」×「ロウワーケース」for「ユナイテッドアローズ」、“ニュースタンダード”なスウェットの開発秘話。

「世界一正統なスウェットシャツ」の製造を掲げる〈ループウィラー〉とコンサルティングファーム〈ロウワーケース〉がタッグを組んだスペシャルラインが〈ユナイテッドアローズ〉のために特別なアイテムを制作しました。今の時代におけるオーセンティックをコンセプトに、今の気分を投影させた大人のスウェットが誕生しました。今回は、〈ループウィラー〉の代表、鈴木 諭さんと〈ロウワーケース〉の主宰、梶原 由景さん、〈ユナイテッドアローズ〉のメンズブランドディレクター内山 省治さんに、出会いや今回のプロジェクトのきっかけやコラボアイテムにかける想いについて伺いました。

Photo:Takehiro Sakashita
Text:Ryo Tajima(DMRT)

キーワードは現代における“オーセンティック”なスウェット。

ーこの3社コラボレーションが実現するにあたって、鈴木さんと梶原さんの出会いが最初にあったと思いますが、そこから教えていただけますか?

梶原:はい。鈴木さんにお会いするまでは、スウェットと言えばアメリカ製がいいという考え方があったんです。それが〈ループウィラー〉のヘビーウェイトのスウェットを知った時に言いようのない衝撃を受けたんです。アメリカにもなければ日本製ならではという領域でもなく、これはすごいと思いました。その後、鈴木さんとは一緒に食事に行くようなお付き合いをさせていただくようになりました。

鈴木:そうですね。梶原さんと一緒にお仕事させていただいて、もう10年ほど経ちます。食事会のようなことを繰り返しながら、そこでの会話を通じて仕事に繋がっていったような感じがあります。

画像 〈ループウィラー〉代表 鈴木 諭さん

梶原:そんな時、とあるきっかけで僕からお仕事をお願いしたんです。〈ループウィラー〉のスウェットを愛用するあまり、お店で売られていないものがほしくなっていたので、「こういうものは作れませんか?」と。それをきっかけに、その後もそういったお願いをするようになっていきました。


ーそういったコミュニケーションの中で、今回のコラボレーションが成立したということですね。

梶原:はい。いろいろとお話しさせていただく中で、最近よく出てきていたキーワードが“オーセンティック”だったんです。じゃあ、それがマッチする売り場はどこだろう? と考えたときに、内山さんもご興味をお持ちだったので、「一緒にオーセンティックなスウェットのラインを作りませんか」というお話をさせていただきました。フィット感は今っぽいけれどディテールは極めてオーセンティックなスウェット。それが相応しい売り場が〈ユナイテッドアローズ〉であり、スタッフの方々も、作り手の想いをしっかりお客さまへ届けてくれるんじゃないかと考えたんです。

画像 〈ロウワーケース〉主宰 梶原 由景さん

内山:梶原さんからご提案をいただいたときは「是非!」と即決でした。というのも、〈ループウィラー〉のスウェットは個人的に大好きでしたし、お客さまに直接お届けしたいという思いも前々からあったんです。それに、今回の“オーセンティック”というキーワードには大いに共感できるものがありました。

ーどういった部分に共感があったのでしょうか?

内山:我々は様々なウェアを取り扱っていますが、特にオーセンティックやトラディショナルという点を大切に考えています。各アイテムに脈々と受け継がれている正統な価値を今に伝えたいという想いがあるからなんです。例えば、スーツやシャツ、Tシャツにソックスなど、どのようなアイテムも同じ目線で捉えて、本質的に良いと思える物をお客さまに届けたいという想いがあります。そんな中、スウェットというピースが今までなかったんです。上品に着用できる本物のスウェットを提案するということを考えたときに、〈ループウィラー〉のスウェットが〈ユナイテッドアローズ〉とマッチすると感じたんです。

今の気分を反映させた大人のオーバーサイズ感。

ーデザインにもオーセンティックな要素が反映されていると思いますが、特徴はどこにあると考えられますか?

鈴木:袖や裾のリブが長いという点や、ガゼットにちゃんと切り込みを入れて取り付けている部分が特徴的だと思います。あと、フラットシーマ(4本針のステッチ)という昔ながらのやり方で裁縫しているんですが、これは特に50年代のアメリカのスウェットなども同様の手法で作られていたものなので、よりオーセンティックな雰囲気を感じられると思います。一方でサイジングに関しては、少しゆとりがあるシルエットにしていますが、ここは現代らしいところでしょうね。梶原さんのコンセプトを反映させていただいた点です。

画像 袖と裾のリブのサイズ感は長く大きめ。この辺りのディテールにもオーセンティックなスウェットのデザインが落とし込まれている。

梶原:いわゆる大人のオーバーサイズなスウェットというか。ビッグシルエットというわけではなく、ゆったり着れるサイズ感が今の気分じゃないかと思ったんです。

鈴木:そうですね。若干ルーズなシルエットというのは世の中のトレンドでもありますから。今回のスウェットは私たちがザ・スウェットシャツと呼んでいる「LW01」とリラックスフィットの中間くらいのサイズ感で、梶原さんが言われた通りのものです。そこが今作の大きな特徴だと言えますね。

内山:私から見ても、これこそが今の時代感も加味された“ニューオーセンティック”なシルエットなのかなと思っていますね。この程よいバランス感をしっかりと伝えていきたいです。

これから定着していく“ニュースタンダード”として。

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鈴木:ウェイトという点においても、もっともスタンダードな厚みにしています。現代においては厚みの調整方法は多種多様なんですが、本当にオーセンティックなやり方で作っていますね。今回、こうして〈ユナイテッドアローズ〉さんで〈ループウィラー〉の定番を作らせていただくにあたって、“ニュースタンダード”を作れたら、という思いがあったんですよ。

内山:梶原さんとお話して、いわゆるオーセンティックなものと時代感を加味したものの間に“ニュースタンダード”であり現代のオーセンティックが存在する、という考え方に行き着いたんです。つまり、着たときにしっくりくる。それこそが現代の“ニュースタンダード”なんじゃないかと。そこに自然と着地できたと思います。

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梶原:〈ユナイテッドアローズ〉は洋服屋として王道を行っているんですが、そのスタイルを作り上げた僕の先輩方は意外と突飛な格好をする人もいるんです。ですが、そんな彼らがいなければ今の東京メンズファッション界は違う形になっていたと思うほど大きな存在ですし、私も影響を受けてきました。今でも、例えば子供の用事で学校行事に参加しなくてはいけないときにドレスウェアを〈ユナイテッドアローズ〉で買うんですが、それだけの信頼があるんですよね。僕の中には、先輩方が作ったメンズファッションの殿堂という印象が〈ユナイテッドアローズ〉にあるんです。そのうえでオーセンティックとはどういうことかを考えると、単純にベーシックに傾倒しないということ。先輩方がそうであったように、現代のテイストも入っていないと、〈ユナイテッドアローズ〉の店頭には合わないというのもあったので、そこがサイジングという点に反映されているんです。

ーオーセンティックなニュースタンダード。それは今回展開するカラーバリエーションにも反映されていますか?

内山:はい。最初に展開するのは、もっともオーセンティックなカラーにしたいという想いがありました。そこでグレーメランジとネイビー、この2色2型にしたいと思ったんです。まさに王道中の王道を形にしたいと思って作りました。

画像 ほどよくオーバーサイズに作られたリラックスフィットのシルエット。首元のVガゼットにもオーセンティックなスウェットシャツのディテールが踏襲されている。

画像 適度な肉厚感があり、3シーズンにわたって着用できる生地感で作られている。ZIPパーカは、ちょっと外出する際のライトアウターとしても活躍しそう。


日本のモノ作りに対する良心を次世代に伝えたい。

ー〈ループウィラー〉のスウェットは吊り編み機を使って作られていますが、それを使い始めた経緯を教えていただけますか?

鈴木:私が調べたところ1960年代の中盤頃まではスウェットを作るには吊り編み機を使うしかなかったんですよ。それが世界中が一気に経済成長する頃になると、1時間に1メートルしか作れないような吊り編み機では間に合わなくなってしまった。需要と供給のバランスが崩れてしまって、編み機が新しいものに刷新され、徐々に機械が入れ替えられて1970年にもなると本当になくなってしまったんです。今では、アメリカの吊り編み機はスクラップされてしまってほぼ現存しません。あったとしても整備不良の機械であったり、持ち主の世代が変わって使い方がわからなくなってしまっていたり。僕は〈ループウィラー〉を始める前に、OEMとしていろんなアパレルブランドの仕事を引き受けていたので、若い頃に吊り編み機と出会う機会があったんです。日本人には、モノ作りにこだわる人も多いですし、物を大切にして捨てない人もいるじゃないですか。和歌山には、吊り編み機に惚れ込んで、うちの会社はこれしか使わないというニッターさんが何軒があったので、それでなんとなく日本に残っていただけなんです。吊り編み機を使うようになったのは幸運な偶然が重なった点もあるんですよ。

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ーでは、吊り裏毛を使ったスウェットの魅力はどういう点にありますか?

鈴木:よく吊り編み機で生地を編むのを「空気を編む」なんて言ったりするんです。本当にゆっくりストレスをかけず、糸が持っている植物のパワーを大切にしながら編むことができるので。だからこそ、吊り編み機で作ったスウェットは柔らかく、肌触りがよくて、洗濯しても劣化しにくい。60年代中盤までのヴィンテージは今も残っていて価値が上がり、ちゃんと着用することができるのは、吊り編み機で作っているからだと思います。僕は、そんなスウェットが好きですし、もう世界中を探しても、この機械と職人さんの技術力、2つを併せて残っているのが、日本の和歌山エリアにしかなくて、この製法で作られる魅力的なものを次の世代へ繋げたいという気持ちで〈ループウィラー〉を始めたので、今までもこれからも吊り編み機を使ってスウェットを作っているんです。

梶原:そのスウェット作りの文化自体が日本にしかなくなってしまったわけですよね。モノ作りにこだわって古い機械を大切に残して伝えていくという点に良心を感じますし、実に日本人的な感覚だと思います。

鈴木:そうですね。この感覚は日本人特有のものであり財産だと思うんです。そこだけは失ってはいけない。世界から見たときに自分たち日本人の強みはここにあると思いますし、僕らのモノ作りを通じて、そういう考え方が根底にあることを少しでも次の世代に伝えていきたいと思うんですよ。これからを担う若い人には、僕らの考え方を応用して自分の仕事に反映させたら、こういうことが実現できるだとか。スウェットを通じて誰かのお役に立つということが僕の夢でもありますね。

画像 〈ユナイテッドアローズ〉メンズブランドディレクター 内山 省治さん

内山:非常に勉強になります。先ほど梶原さんが仰っていたように、もう日本でしか手にできない物という意味でも、このスウェットは日本的なものだと思いますし、そこに誠実さや実直さが感じられますね。

鈴木:先人たちがこの技術を残してくれなかったら、僕も吊り編み機と出会うことはなかったわけなので、そこには本当に感謝しなくちゃいけないですね。では、なぜ先人たちが残そうと考えたのか。それは、その人たちの心の中にあると思うので、今を生きる我々がスウェットをはじめ洋服作りを通じて、その想いを伝えていきたいと思います。

梶原:そういったモノ作りにおける想いも、内山さんや〈ユナイテッドアローズ〉の皆さまがお客さまに伝えて頂けると思いますし、そこに共感をしてくれた方がコーディネートに取り入れてくれたら嬉しいです。スウェットは日常着の代表格ですから。どんなシーンでも着ることができると思いますし、毎日袖を通すものですからね。多くの人にその本質を伝えていきたいと思います。

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鈴木:そんな日用品の背景に実はものすごい技術があるわけなので、このスウェットは民芸品とも言えるかもしれないですね。芸術品ではなく普段使いのモノとして。

梶原:そのような普段使いとして今後定着していってほしいと思いますね。大人がスウェットを探すときに、〈ユナイテッドアローズ〉にちょうどよいのがある。そんなニュースタンダードとして認知されていってほしいと思います。そういった想いがあるので、今後もオーセンティックな展開をしていくでしょうね。いきなり奇抜なカラバリ展開をしたりしないというか。

内山:そうですね。バリエーションも無理に増やしていく必要がないというか。ある程度、形も決まっているものですからね。色にしても今後も定番色を選んでいくと思います。そのようにして、大人のお客さまにとってちょうどよいスウェットとして選んでいただけるようになったら嬉しいと思います。

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PROFILE

鈴木 諭

鈴木 諭

静岡県生まれ。1991年に起業し、カットソーを専門とするOEM生産を手掛け、1999年に自社ブランド「ループウィラー」をスタート。現在は東京、大阪、福岡に店舗を展開し、数多くのブランドとコラボを行っている。https://www.loopwheeler.co.jp/index.html

梶原 由景

梶原 由景

クリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。異業種コラボレーションの草分けとして知られ、アパレルからデジタルまで幅広いクライアントを持つ。

内山 省治

内山 省治

1997年ユナイテッドアローズ入社。原宿本店にてセールスパーソンを10年間務めた後、2007年よりバイヤーに。現在はユナイテッドアローズのメンズブランドディレクターを務める。

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