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100年の歴史が紡ぐ、セルロイドメガネの伝統と革新

モノ

2024.05.17

100年の歴史が紡ぐ、セルロイドメガネの伝統と革新

創業100年以上を誇るセルロイドメガネのパイオニア〈佐々木セルロイド工業所〉と〈ユナイテッドアローズ〉のコラボレーションモデル第二弾がリリース。また、セルロイドメガネが作れるオーダー会も開催予定。今回は、100年続くセルロイドメガネの背景に触れながら、セルロイドフレームの特徴や〈ユナイテッドアローズ〉との別注モデルの魅力について、〈佐々木セルロイド工業所〉のシニアアドバイザー佐々木 洋さんに伺いました。

Photo:Tomoaki Shimoyama
Edit&Text:Shoko Matsumoto

先進的な素材・セルロイドを活かしたメガネの先駆者

メガネの世界的産地である福井県鯖江市。この地にメガネ産業を普及させた増永五佐衛門から命を受けた先代の佐々木末吉が、セルロイド製フレームの製造をスタート。以来100年近い歴史を持つ〈佐々木セルロイド工業所〉は、さまざまな素材に挑戦しながら、常に上質なアイウェアを作り続けています。当時画期的だったセルロイドを、日本でメガネの素材として真っ先に取り入れたのが〈佐々木セルロイド工業所〉でした。
「セルロイドはすごく硬いので、テンプルに補強のための芯を入れなくても耐えられるんです。芯がなくてもメガネを作れるのは、おそらくセルロイドだけ。芯を入れないので生地がきれいに透けて、印刷や刻印した文字も写る。それに、芯がないからとてもかけ心地が軽いんです。そのうえ温めれば、柔軟性が出て加工がしやすい。セルロイドは顔なじみがいいともいわれますが、その話に起因して、体温で自然と肌にしっとりと馴染むからじゃないかと思っています。科学的には証明されていないですけどね(笑)。本当に不思議な良さがある。それが100年経っても廃れない理由のひとつなのかなと思います」

画像 今では鯖江でも数少ないフル生産ラインを有する〈佐々木セルロイド工業所〉。

画像 〈佐々木セルロイド工業所〉のシニアアドバイザー佐々木 洋さん。


職人の巧の技により生まれるセルロイドメガネのフレーム

日本で、素材から製品に至るまで、フル生産ラインを有する数少ない工場のひとつである〈佐々木セルロイド工業所〉。製品になるまでに、実に200近い工程をおこなうといいます。まずアイデアの状態からデザインに落とし込まれ、試作されます。板からアイウェアの形へと削り出され、フロントは熱と圧力をかけて〝後アール加工〟。テンプル形成後、アイウェアとしての強度を出すため、金属の芯を刺し入れ、テンプルは耳にかけやすいよう、手作業で削り出し、組み立てへ。なかでも、〈佐々木セルロイド工業所〉が最も重要視しているのが〝磨き〟と呼ばれる作業です。「〝磨き〟は工程ごとに発生します。現在職人が10名在籍していますが、他の課よりも人員が多い。魂は細部に宿るといいますが、まさにメガネにおける魂が〝磨き〟。手先の感覚やセンスが必要なので、5年、10年かけて、やっと一人前になっていく世界。なかなか目につかない部分ですが〝磨き〟によって、かけ心地が圧倒的に変わってくるんです」
板からフレームやテンプルなどの形を削り出す。 板からフレームやテンプルなどの形を削り出す。
削り出したフロントは熱と圧力でカーブをつける。 削り出したフロントは熱と圧力でカーブをつける。
耳あたりが重要なテンプルは部分的に手作業で形を整える。 耳あたりが重要なテンプルは部分的に手作業で形を整える。
〝磨き〟が微々たるズレを整え表面を艶やかになめらかにする職人技。 〝磨き〟が微々たるズレを整え表面を艶やかになめらかにする職人技。
手間ひまをかけながらゆっくりと、丁寧に、慎重に。そうやって、ようやくひとつのメガネが出来上がります。今年2月に誕生したばかりのメガネ製造工場併設の新体験型店舗では、ショッピングや工場見学に加え、アクセサリーや雑貨の磨き体験プログラムで貴重な〝磨き〟を体験することが可能。自分だけのメガネを見つけるとともに、いかに職人の技術が尊いものかを実感することができるでしょう。

画像 職人の磨き工程に挑戦できる体験型店舗「OPTIQ TAILOR by Sasaki Celluloid」。


〈佐々木セルロイド工業所〉×〈ユナイテッドアローズ〉別注モデル第二弾

そんな〈佐々木セルロイド工業所〉と〈ユナイテッドアローズ〉のコラボレーションが実現したのは、2022年のこと。当時の取締役にアパレル出身者が在籍していて、佐々木さんと話をしたところ意気投合。「以前はOEMが会社の大半を占めていました。コロナ禍に、そのすべての生産がストップ。新しい道を開拓し、アパレルとの付き合いも始めたいと思っていたところ〈ユナイテッドアローズ〉さんとのコラボレーションが実現しました。メガネ業界での知名度はあるのですが、他はまだまだ。これが大きな足がかりとなりました」。そして初めてのオーダー会を開催。今年の4月には、昨年好評を博した〈佐々木セルロイド工業所〉×〈ユナイテッドアローズ〉別注モデルの第二弾がリリースされます。時代に左右されない、永遠のクラシックを求め、デザインは1960年代のアメリカンビンテージをオマージュしたフォルムに。そこになめらかさを加え、さらにはシャープさも感じられるようブラッシュアップしています。「見てわかるとおり、スタンダードな形だから、誰でも手に取りやすい。顔なじみのいい、なめらかなエッジになっていると思います」。色は黒、デミに加え、トレンド感のあるニュアンスカラーの3色を展開します。

画像 工場で出来上がったばかりの〈ユナイテッドアローズ〉別注モデル。

デミと呼ばれる、クラシックな柄。 デミと呼ばれる、クラシックな柄。
純度の高いM49の良さを活かしたニュアンスカラー。 純度の高いM49の良さを活かしたニュアンスカラー。
スタンダードなブラック。蝶番部分のなめらかさは〝磨き〟あってこそ。 スタンダードなブラック。蝶番部分のなめらかさは〝磨き〟あってこそ。
テンプル内側にはコラボレーションネームの刻印。 テンプル内側にはコラボレーションネームの刻印。
また素材には、イタリアのマツケリ社のM49という生地を使用。プラスチックフレームには通常加工しやすいようやわらかくするための可塑剤が含まれていることが多のですが、M49にはアレルギーを引き起こす可能性がある可塑剤が含まれておらず、耐久性にも優れているとのこと。「一般的に想像されるプラスチックとは異なり、M49は植物由来で生分解性があり、土壌環境にもよりますが、いずれ土に還るといわれており、環境に配慮した素材です。再生可能資源に由来する材料で構成されているんです。それに、スタンダードな色の再現性も高い。<ユナイテッドアローズ>さんがイメージするアメリカンビンテージモデルにぴったりでした。まだ誕生して10年ほどと新しい生地で、日本ではまだ認知度が低いですが、これからのメガネ産業を担う可能性に満ちた生地だと思います」

画像 別注モデルには専用ケースが付属する。
※ユナイテッドアローズ各店にて4/30(火)発売

Sasaki celluloidシリーズをはじめとし、自社ブランドの立ち上げなども積極的におこなう〈佐々木セルロイド工業所〉。〈ユナイテッドアローズ〉との取り組みを経て、さらなる飛躍を目指します。「職人は高齢者が多く、後継者不足に悩まされているところもあります。だからファッション業界ともタッグを組んで、若い世代の方々にも、自分たちが作っているものをもっと認知してもらいたい。そうすることが、鯖江のこれからの未来にもつながると期待します。会社としても、独自性を出していかなければと思っています」

PROFILE

佐々木セルロイド工業所

佐々木セルロイド工業所

眼鏡の産地である鯖江市で、プラスチック眼鏡フレームのパイオニアとして創業以来100年あまり。デザイン・企画提案からプロト製作、完成品製造までを手がける一貫メーカー。長年で培われた技術と手法で、素材の魅力を最大限に引き出し、品質とデザインを両立した製品作りでお客様を笑顔にすることをモットーとしている。
https://celluloid.co.jp/

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