ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

繊維から繊維へのケミカルリサイクル技術を持つ「Circ」の素材、日本ブランド初「グリーンレーベル リラクシング」よりニット誕生。

モノ

2024.02.15

繊維から繊維へのケミカルリサイクル技術を持つ「Circ」の素材、日本ブランド初「グリーンレーベル リラクシング」よりニット誕生。

<ユナイテッドアローズ>(以下UA社)が取り組んでいるサステナビリティ活動の総称「SARROWS」。その三本柱のひとつとして「Circularity 循環するファッション」を掲げています。今回紹介するのは、そのテーマをまさに具現化したような、繊維から繊維へと再生する技術を持つ企業「Circ, Inc.(以下Circ)」について。この技術を用いたリサイクル素材を、日本ブランドとして初めて扱ったのが、<ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング>です。「Circ」のもつ技術や、そのリサイクル素材の特徴とは?さらにその先、何を見据えているのか。「Circ」の技術に着目し、ともに成長を目ざしている「丸紅」の岩佐彰久さんにお話を伺います。

Photo:Takeshi Wakabayashi
Text:Maho Honjo

複合素材を単一繊維へとリサイクルする技術を持つ企業、それが「Circ」。

画像

−まず最初に、「Circ」との出会いからお聞かせください。

岩佐:ファッションを愛する多くの人々にとって、今は流行のアイテムがすぐに手に入る、本当に便利な世の中になりました。ただ、それが持続可能な社会につながるかというと、残念ながらそうではなく、環境負荷の少ないものづくりやサプライチェーンを考えたとき、課題は山積みだと感じていました。技術革新が進むなか、ペットボトルからポリエステル繊維を再生する技術が生まれるなど、地球にやさしいアイテムを手に取る機会は少しずつ増えています。それは素晴らしいリサイクル技術ではあるものの、私たちは“洋服から洋服への循環”ができればと考えていました。ちょうどそのころ、アメリカのバージニア州に拠点を構える「Circ」のチームと出会ったのです。

画像

−「Circ」の技術に注目したのはなぜだったのでしょうか。

岩佐:洋服は、ポリエステル50%、コットン20%と、およそ7割強がこのふたつの繊維でつくられていて、かつ複合素材であるものがとても多い。ならば、このふたつを同時にリサイクルする技術があればいいなと思っていたところ、彼らは「綿・ポリエステル製品をセルロース繊維原料とポリエステル繊維原料に再生する技術を開発した」と言うのです。私たちが探していた“繊維から繊維へとリサイクルする技術”を持ち、大量生産、大量消費に歯止めをかけるのはもちろん、必要なのは循環だという強い思い。これらが一致したことで、2019年に出資を行うことになりました。

画像

−実際、どのように繊維から繊維へと再生するのでしょう。

岩佐:「Circ」の技術は、ポリエステルとコットンの複数素材を、加水分解で解重合(かいじゅうごう)し、ポリエステル側はポリエステル繊維に、コットン側はセルロース繊維に再生するという技術です。リサイクルにはマテリアルリサイクル(ものを物理的にかたちを変えて再利用)と、ケミカルリサイクル(ものを化学的に分解して再利用)がありますが、「Circ」は後者のケミカルリサイクルということになります。

−「加水分解で解重合する」とは、どういう過程なのでしょうか。もう少しやわらかく教えてください。

岩佐:化学的な話なので少しわかりにくいかもしれませんね。水に温度と圧力を加えて、亜臨界状態(物質の臨界点より、温度・圧力共に若干低い状態)にすることで分解を促しているのです。正確なたとえではないのですが、圧力鍋で煮込むような過程を想像すると分かりやすいかもしれません。

素材を分子レベルにまで分解し、バージン原料と同等の状態に再生。

画像

−少しずつケミカルリサイクルのイメージが湧いてきました。では、「Circ」という技術のどこが優れているのか、また噛み砕いてお話しいただけますか。

岩佐:繰り返しになりますが、まずひとつが、繊維から繊維への再生を可能にしたということ。それも、これまでは単一素材を同じ素材に戻すのが一般的だったものを、ポリエステルとコットンという複数素材を、同時にそれぞれ繊維に戻すことができる技術を開発しました。これこそが「Circ」の優位性であり、画期的なことではないかと思っています。

岩佐:さらにふたつ目として、加水分解という手法を用いているのも特徴的です。ケミカルリサイクルというと一般的には化学反応で分解していくことが多いのですが、Circの技術は加水分解により薬品の使用量を極力抑えているため、環境に負荷の少ないアプローチなのです。
画像
画像
岩佐:三つ目に挙げられるのが、ケミカルリサイクルの過程で分子レベルにまで分解するため、高品質が保たれる、という点です。繊維のマテリアルリサイクルには、わた状にして糸に戻すなどの方法がありますが、染料や不純物などの問題で、用途が限られることがあります。「『Circ』の素材の特徴は?」と聞かれることがあるのですが、品質的にバージン原料と同等になる。それこそが、最大の特徴なのです。

−「Circ」という技術を見出し、ともに成長を目ざすなかで、苦労したこともあったのではないでしょうか。

岩佐:彼らが開発した技術をいかに安定させて商業生産にもっていくか。コロナ禍を挟んだこともあり、日本とアメリカとの間でトライ&エラーを繰り返しながら、今日までずっと並走してきました。現在もCirc本社工場のパイロット設備を使用して、限定的な数量の再生原料を生産中。継続的に供給できる体制を整えるべく、尽力しています。

「繊維資源の循環型社会」そのスキームを構築したい。

画像
画像
−さて、今シーズン、「Circ」のリサイクル素材を使ったアイテムが、日本ブランドとして初めて<グリーンレーベル リラクシング>から誕生しました。今回、UA社と組むことになった経緯を教えてください。

岩佐:ファッション業界のなかでも、UA社はサステナビリティ活動への意識が高いことで知られていました。その姿勢は業界各社からリスペクトされています。「Circ」を知ってもらうための最良のパートナーであると考え、それに共感いただき今回の取り組みが実現しました。

−リリースされるのはウィメンズニットで、繊細なハイゲージ素材と淡く美しいカラートーンが質の高さを感じさせます。そして、この「Circ」のラベルも印象的ですね。

岩佐:この円を描くようなデザインが、まさに私たちの目ざすイメージなんです。このアイテムを手に取ってくださる方がいて、この商品がまた私たちの手元に戻ってくる。そんなループを理想としているのです。

画像

画像 今回特別に作った<グリーンレーベル リラクシング>と「Circ」のコラボネームがつけられている。

−ということは、「Circ」の取り組みを踏まえて、もっと大きな将来像を描いているということでしょうか。

岩佐:丸紅グループは、これまで廃棄されていた衣料品の回収から再製品化までの 「繊維資源の循環型社会」の実現を目ざしています。そのために、すでに古着回収会社を設立し、回収量とコストのリサーチを始めています。ただ我々一社で環境課題を解決することはできません。パートナーの皆様とともに、循環型スキームを構築していきたいと考えています。

画像

−「Circ」の技術からスタートした取り組みが、さらに輪となって広がっていくのですね。

岩佐:あまたある洋服の中で、リサイクル繊維を使ったものを選ぶことが日常になっていけば、その服が不要になったら捨てるのではなく、回収してもらうというアクションが根づいていくでしょう。すると「回収前にはボタンを外しておくといいらしい」と個人個人が動いたり、「リサイクルしやすい製品を考えよう」と業界が働きかけたりすることもあるかもしれません。これは夢物語ではなくて、私たちのような製造にたずさわる企業と、より消費者の皆さまに近いUA社が手を取り合えば、実現するものなのだと実感しました。私たちの想いの糸を未来へ繋いで、このマークのようなループを紡いでいきたい。繊維を扱うだけにベタな表現になってしまいますが(笑)、心からそう考えているのです。

PROFILE

岩佐彰久

岩佐彰久

丸紅株式会社 機能資材部長
1991年入社。海外でのモノ作り、国内及び海外のお客様への販売、海外駐在経験等でヒトとの繋がりと持続可能な社会への取組みの必要性を実感。パートナーの皆さまと共に「今日より豊かな未来を作る」そんな思いで循環リサイクルの構築に力を注いでいる。https://www.marubeni.com/jp/

TAG

SHARE