ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2020.07.22 WED.

金子眼鏡が考える 100年後のモノづくりと鯖江の姿。

福井県の鯖江市を拠点にする金子眼鏡。1958年に創業以来、クラフツマンシップに裏打ちされたシンプルな佇まいは生活に取り入れやすいジャパンメイドのめがねとして親しまれています。国内生産という安心できる生産背景や充実したアフターケア、さらに洋服やシーンを選ばない普遍的なデザイン性から、ユナイテッドアローズとの取り組みも10年以上になります。今回はそんな金子眼鏡の生産を支える工場、そして職人さんの工房を訪れ、最後には金子眼鏡が今考えていることなど、様々なお話を伺いました。

Photo:Shunya Arai(YARD)
Text:Takuhito Kawashima

次代を担う職人たちが集う、金子眼鏡の“バックステージ”。

1_DSC2702めがねの街としてのシンボルが鯖江の至る所にあります。公園のベンチやマンホール、写真はJR鯖江駅の目の前にあるオブジェです。

2_DSC29052009年に設立した金子眼鏡の自社ファクトリー「BACKSTAGE」。一見、工場には見えないモダンな佇まい。ここではデザイナーや職人などが働き、一貫生産を実現しています。

JR鯖江駅から車で5分ほど、国道8号線沿いに、少し変わった建物があります。まるで何かの研究施設のような…。実はこの建物こそ、金子眼鏡株式会社が2009年に設立した自社ファクトリー「BACKSTAGE」です。その名前にある通り、ここはめがね作りの“裏側”。つまりデザイナーや職人たちが企画からデザイン、さらに製造まで、すべての工程を行っています。

「コストや生産性を考えて分業制をとるのが一般的なめがねの作り方です。分業制の方が効率はいいですからね。ですが、分業制だとスピード感が鈍ってしまうデメリットもあります。10年ぐらい前から発注していた商品が納期通りに上がってこないことも過去にありました。もう、自分たちで作ってしまおうと思ったんですね。『BACKSTAGE』こそ、私たちが目指した一貫生産を体現する工場です。デザイナーと作り手が一緒にいることで、双方の意思疎通が向上したこと。さらに委託生産では品質やディテールなど妥協せざるを得ないことも多かったのですが、自分たちが作ることによって、惜しみなくとことん納得できるものを作れるようになりました」とは、ファクトリーを案内してくださったプレスの大橋法明さん。

3_DSC27204_DSC27275_DSC27436_DSC2826インハウスデザイナーのデザイン画をベースにめがねのフレーム素材“生地”を選びます。一枚の生地からフレームの形に沿って切削。さらにここから研磨から組み立てて一本のめがねが完成します。

インハウスのデザイナーによるデザイン画、セルフレームの素材となる生地の加工、さらにフレームの切削や研磨から組み立てまでを職人さんたちの目や手で随時確かめながら工程を重ね、完成されていく金子眼鏡のめがねたち。“職人”と聞くとどうしても昔堅気で頑固というようなイメージがありますが、「BACKSTAGE」で働く職人さんは若手の方が多く、鯖江市内や福井県内はもちろんのこと、県外からも「ここでめがねを作りたい」と訪れる若者もいました。

「先ほどの話と重なるところがありますが、基本的に多くの眼鏡ブランドは分業で生産しています。なので、めがねが好きで就職したものの、そこで触れるのはパーツのみとか、あるひとつの工程のみということが多いんです。でもこの『BACKSTAGE』は全体を見ることができます。複数の工程に携わる職人もいます」

実は、この“ちょっと変わった”外観にもメッセージが込められている。

「自分たちが金子眼鏡のめがね作りに携わっていることをかっこいいと思って欲しいんです。それに『あの建物の中で何が行われているんだろう?』とか、『あそこで働きたい!』と思ってくれるきっかけになればという想いが込められています。めがね産業自体が、斜陽産業とか労働集約型産業と呼ばれているため、後継者不足の問題やさらには安価な海外製品の流入などによって失われつつある鯖江のモノづくり文化と技術を私たちなりに継承し、さらには発展を促せることができればと思っています」

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伝統とサービスの共生が産むユーザーにとっての“愛着”感。

今シーズン、ユナイテッドアローズは、ウェリントンやボストンというスタンダードなデザインに、ネイビーやクリアの生地で顔の印象をライトに仕上げるフレームカラー。さらにカラーレンズなどでも遊び心を表現しためがねやサングラスを金子眼鏡と製作しました。この別注モデルを担当した職人さんが、金子眼鏡と20年以上お付き合いのあるメガネ職人の内田孝昭さん。一軒家の一部を工房にし、めがねを製作する内田さんは、金子眼鏡からの受注生産だけにとどまらず、顧客からオーダーメイドのめがねの注文も受けるベテランの職人さんです。

8_DSC3019金子眼鏡と20年以上お付き合いのあるメガネ職人の内田孝昭さん。パーツ製作だけにとどまらず、めがね作りを最初から最後までひとりでできてしまう貴重な職人さんです。

9_DSC3027工房の至る箇所に、内田さんがオリジナルで開発した道具がありました。写真の研磨するヤスリもまた内田さん独自の仕様にアップデートした道具です。

「内田さんも、バックステージの施設のように、1〜10までをご自身で作ることができる職人さんです。今回のユナイテッドアローズの別注モデルで言えば、まずいただいたデザイン画を内田さんに見せ、サンプルを作っていただきました。ただこの作業が難しいところで、なぜなら図面から立体にするときに、色々と不具合が出てしまうからです。しかし内田さんの経験と知恵からくる技術や『ここをこうすればうまくいくかもしれない』というような提案によって、金子眼鏡としても納得いくものができました。普段とは少し違う、いわゆるファッションのフィルターを通したモノづくりにも内田さんは柔軟に対応していただけるので本当に心強い職人さんです。私も困ったらまずは内田さんの元へ駆けつけてしまうほど信頼しています」とはユナイテッドローズの別注モデルを担当する池田良史さん。内田さんだけでなく、金子眼鏡は鯖江市内に点在する職人さんたちと密接な関係性を築いている。それは景気が多少悪くとも、内田さんのような職人さんへの発注をやめないこと。これもまた鯖江の地場産業を絶やさないため。職人さんとの絆は、金子眼鏡が1958年に創業して以来大切にしているひとつの取り組み方です。

10_DSC2986フロントとテンプルをつなぐ丁番(ちょうばん)と呼ばれるパーツをつける作業です。内田さんのあまりにスムーズな手さばきに、現場にいた金子眼鏡のスタッフも驚いていました。

11_DSC3043専用の泥バフという研磨輪を使って研磨する作業です。金子眼鏡のめがねはこのようにひとつひとつ職人の目や手を介して完成していきます。

 「今回のユナイテッドアローズと製作しためがねに限らずですが、修理やアフターケアの問い合わせをいただくことがあります。これは私たちにとって実はものすごく嬉しいことです。というのも、それだけ大事にしたいものであることが伝わってくるからです。金子眼鏡では修理もできるだけ製造者に任せるようにしています。なので、内田さんのところにもユナイテッドアローズのめがねが届いています。自粛期間中、家にいる時間が多くなったせいか、めがねを踏んでしまったり、ペットに噛まれてしまったり、またはフレームを磨いて欲しいなど修理内容はさまざまです。内田さんは、修理をするたびに“もうここは壊れないように”とおまじないのようなものをかけてくださっていると思います」

15_DSC291716_DSC2925ネイビーのフレームやクリアフレーム、さらにはカラーレンズなど、ユナイテッドアローズが今期提案させていただく気分を取り入れためがねやサングラスです。金子眼鏡ならではの質、さらにはメイドイン鯖江のメッセージも込められたプロダクトです。

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“めがねのまち”とされる産地を守るための金子眼鏡の取り組み。

「何よりも大切なことは、鯖江メイドと呼ばれる高品質なめがねを作り続けることです。私たちが使用しているセルロイドやアセテートといっためがねの素材の生産がずっと続くかもわかりませんし、パーツとパーツをつなぐ金具メーカーも少なくなってきています。このままでは本当にめがねが作れなくなってしまうかもしれない」とは生産管理部の部長を務める市川純一郎さん。

13_DSC3288金子眼鏡の第3の工場にして、鯖江の地場産業を守るために施工されたBASEMENT。案内をして頂いたのは金子眼鏡生産管理部部長の市川純一郎さん。

2019年3月に竣工した金子眼鏡の第3の自社ファクトリーBASEMENTは、職人の後継者不足問題などで技術の継承が困難になると予想される未来への危惧に対応するための、金子眼鏡の一手でした。内容は、AIなどの先進技術を使用しためがねの製造方法へのチャレンジ。例えばメガネフレーム製造工程の中で品質の良し悪しを決める重要な研磨作業。職人さん頼りになってしまっているこの工程の一部を先進技術で置き換えることができないのか? 独自の制御技術をインプットし、熟練技術を再現することを試行錯誤するなどの“研究”と“挑戦”がこの「BASEMENT」にて日々行われています。

「『BASEMENT』を作ったのも鯖江のDNAを残すためです。今後、働き手がますます少なくなる中で、金子眼鏡として、鯖江の産業を支える一つの集団として、クオリティの高いめがねをいかに作り続けることができるのか? これは何も私たちだけの問題だけでなく、めがね業界全体の課題になってくると思います」

14_DSC3195“鯖江のめがねづくり”魅力を体現する金子眼鏡。職人さんの巧みな技術とAIなどのテクノロジーを駆使し共生させることで地場産業を守り続けます。

昔も今も、そしてこれからも金子眼鏡のモノづくりの姿勢は変わりません。しかし良いものを作るための方法や手段を模索することで、ヒトにはヒトにしかできないことを、機械には機械にしかできないことを。SNSなどのコミュニケーションツールの普及によって“SABAE”という名前がようやく国外でも高い評価を受けはじめたからこそ、いいものを作り続けなければいけない。金子眼鏡の「BASEMENT」、「BACKSTAGE」、そして内田さんのような職人さんとの関係性。このハイテクとローテクの融合こそが、金子眼鏡の目指す、持続可能な新しいモノづくりなのかもしれません。

JP

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