ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2020.09.17 THU.

新進気鋭のブランド「Preek」。 日本で作るジュエリーの魅力と新たな可能性。

日本によるジュエリーの歴史は100年程度と海外に比べれば歴史は浅い。「それ故にこれからの日本のジュエリー業界は未知なる可能性を秘めていると思います」。そう語るのは、ユナイテッドアローズのハウスブランドでは初のジュエリーブランドとしてデビューした〈Preek〉デザイナー芦沢 佳澄さん。日本ならではの職人技や伝統文化に惚れ込み、生産背景を探す中で見つけたエレクトロフォーミングという加工は、ジュエリー業界では新しい技術として注目され、〈Preek〉の顔となっています。デザイナー芦沢 佳澄さんのジュエリーに対する熱い想いや、ジャパンメイドにこだわる理由、そしてジュエリー業界の未来について、さまざまなお話を伺いました。

Photo:Yuco Nakamura
Text:Kozue Takenaka

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自身の想いを整理する中で辿り着いた、ジュエリー製作への道。

ー2009年にユナイテッドアローズに入社後はウィメンズのオリジナルウェアの企画として働いていたそうですが、ジュエリー製作に興味を持ったきっかけを教えてください。

2011年頃から、世界で活躍するクリエーターを輩出することを目的とした、あるファッションスクールに仕事の傍ら通いはじめたことがきっかけです。スクールに通う仲間達とモノづくりについて話し、ファッションやアートの奥深さに触れるうち、なにか新しいことをはじめたいという想いが芽生えるようになりました。ポートフォリオを作り、アートコンペに参加する機会があったのですが、いざとなるとなにをやるべきか迷うばかり…。そこで、これまで生きる中で抱いたさまざまな想いや、現在の日本の情勢などをノートに書き記していき、徹底的に自分自身と向き合う中で考えを整理していきました。その結果、今わたしがやるべきなのはジュエリー製作だと気づいたんです。

ー最初に製作したジュエリーはどんなコンセプトだったのですか?

ノートに頭に浮かんだワードをひたすら書き出していくうちに「ファッションはウソみたいな本当を作れる」という考察に至り、食品から着想を得たジュエリーを作りはじめました。食品サンプルの会社にご協力いただき、「Real&Fake」というコンセプトでイクラの集合体を巨大化させたネックレスや、肉とレザーを組み合わせたネッレクスなど、どこにもないものを完成させることができました。それが2012年にITS(International Talent Support)のジュエリー部門のファイナリストとして選出され、大きな自信に繋がりました。食品サンプルは、日本独自の素材なので海外では大きな興味を引いたようで、『DAZED』や『VOGUE ITALY』などの海外メディアに取り上げてもらうなど、大きな反響を得ることができました。

ー会社にブランド立ち上げの打診をしたのが2017年とのことですが、それまでの4年間はどのような活動をしていたんですか?

その後も彫金を学べる学校に通い、ジュエリーについての知識を深めるうち、どんどんジュエリー製作にのめりこんでいきました。そして、わたしの作った作品を店舗のインテリアとして置いてもらったことがきっかけでスタイリストさんがリースしてくださるなど、まわりから良い反応をいただくことが増えてきました。そんなとき、会社にプレゼンをできるビッグチャンスを与えていただき、ついに2018年に〈Preek〉の立ち上げが決定したんです。

ー初期のコンセプチュアルな食品サンプルジュエリーと〈Preek〉のジュエリーではまたがらりと雰囲気が変わりましたね。

わたしがジュエリーをデザインするときは、自身の頭の中にあるイメージを言葉として書き出し、浮かんだイメージをデザインに落とし込みます。そのとき自分に湧き起こった感情はもちろん、社会情勢やそれに伴う世間の気分、そして自分自身の感性を向き合いながら、アートピースを固めていくスタイルです。実際にブランドを立ち上げることになり、自分がデザインしたジュエリーを日常で身に着けるということをリアルに感じられるようになったことはとても大きな変化でした。常に“人に寄り添える”ジュエリーでありたいという想いが〈Preek〉には込められています。

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アーカイブより。アジアの民族ジュエリーや、映画『MATRIX』や『Ready Player One』のような異次元の世界から着想。〈Preek〉のジュエリーを身に着けることによって、「自分の持っている力以上に自分を増幅できる」という想いを表現している。


ファッションを引き立て、主役となるジュエリー。

ー〈Preek〉は、「日本でつくる新しいジュエリーの可能性」をテーマに掲げているそうですが、芦沢さんはジュエリーをどのように位置付けていますか?

わたし自身がファッションからジュエリーに転身したこともあって、「ファッションはジュエリーがあるから輝き、ジュエリーもまたファッションがあるからこそ輝く」という、両者の相互性を重視し、ジュエリーを日常に欠かせないものとして捉えています。アジアの民族ジュエリーやポップカルチャーにフィーチャーしつつ、ジュエリー製作をする中で気づいた日本の伝統工芸や文化の面白さをジュエリーでうまく繋げていきたいと考えています。

ー今回のコレクションで4シーズン目となりますが、シーズンテーマやインスピレーションソースがあれば教えてください。

デビューコレクションとセカンドシーズンはややモード色が強く、ジュエリーひとつひとつの個性を打ち出したコレクションでしたが、今回は画家のイケムラレイコやフェルナンド・ボテロの作品に着想を得た、「人間らしさを取り戻す」「土に還る」「ヒューマニズム」というところにいきついたコレクションに仕上がりました。コレクションを進めている最中に自身が出産し、母になったことで湧き起こった新たな感情が色濃く反映されたように感じます。

4_1「BAROQUE PEARL」
形の異なる天然の淡水バロックパールにゴールドプレーティングを施した純シルバーをコーティングした「バロックパール」シリーズ。大きさや形に個体差があり、それぞれ微妙に違った表情を楽しめる。

5_1「UKISHIMA」
和菓子の浮島から着想した、水面に浮かぶ孤島を思わせる「うきしま」シリーズ。一つひとつ宝石彫刻の伝統工芸士の技術で原石から削り出して作られた、ふたつとして同じ物がない一点物。


ライフスタイルに寄り添う、注目の最新コレクション。

ー4シーズン目となる最新のコレクションは、どのようなイメージに仕上がりましたか?

今回は、これまでのアーカイブを再編集し、「BAROQUE PEARL」シリーズ、「YU-KIN」シリーズ、「UKISHIMA」シリーズ、「BIRTHDAY STONE」シリーズの4カテゴリーに絞り、今まで以上にみなさんの生活に寄り添うジュエリーのニュースタンダードを目指しました。女性らしく上品な雰囲気の「BAROQUE PEARL」は、純シルバーとゴールドプレーティングを施した天然の淡水パールを使ったシリーズ。一般的にパールは真円であるほど高価であるとされていますが、あえて不揃いなパールを使うことで、自然の持つあたたかみを感じることができるユニークなジュエリーに落とし込みました。

まずは、「土に還る」をキーワードに、人間らしい手の感覚を呼び起こさせる「YU-KIN」。ハンドメイドならではのラフで大胆なラインをジュエリーに落とし込んでいます。金をあたたかく有機的な素材として捉えて、「YU-KIN」と名づけました。

また、和菓子の浮島からインスピレーションを受けた「UKISHIMA」は、宝石彫刻の技術で一点一点原石から削り出したクオーツやアメジスト、オニキスなどの天然石の半面に純シルバー、ゴールドプレーティングの膜を施しています。イヤーカフとソラマメのような形のピアスはなめらかなフォルムで耳に添い、程よく馴染むデザインです。

12カ月分の天然石を採用した「BIRTHDAY STONE」は、天然石のクラップを活かした唯一無二のデザインで、それぞれの石の持つ意味合いや石の個性を存分に楽しめます。

ー既存の枠に囚われないデザインが〈Preek〉らしさなんですね。

そうですね、普通であればどれも同じというのが正しいジュエリーの形に思われるかもしれません。直線的で華奢なジュエリーよりも、ぐにゃっとしていたり、どこか違和感があったりというところでジュエリーの冷たさをどうにかしてあたたかみのある形に仕上げたいと思ったんです。

ーでは、芦沢さんが考える〈Preek〉の魅力とは?

まずは、クオリティへの揺るぎないこだわりですね。日本に根付く宝石彫刻の技法、特殊加工、ファインジュエリーを扱う職人にしかできない仕上げなど、すべての工程に日本ならでは技術が生かされています。すべては、日本有数のジュエリーの産地・甲府の宝石彫刻の伝統工芸士や千駄ヶ谷のファインジュエリー工房など、プロフェッショナルな方々の丁寧な手仕事があってこそです。

そして、エレクトロフォーミングという一つひとつ形の違うものに金属の膜をコーティングする特殊な加工技術によって一点物の感覚でジュエリーを製作できることです。

ーこの技術をジュエリーに用いているのは稀なことなのだそうですね?

はい、かなり珍しいんです。また、母型を溶かして素材の中身を除去し空洞にしているので、少ない地金でボリュームのあるデザインを作ることができ、軽い着け心地のジュエリーを実現しています。ジュエリーは重さがあることにストレスを感じる人も多いと思うのですが、その問題がクリアになることも魅力だと感じています。


日本の伝統的なクラフトマンシップに裏打ちされたジュエリー。

ー生産背景を日本にこだわっている理由を教えてください。

ブランドをスタートしてから、たくさんの職人さんたちとお話させていただくうち、身近に話せる距離でジュエリーを作りたいと思うようになりました。自分の想いをすぐに伝えられるので、とことんクオリティにこだわることができるんです。海外の職人にお願いしたほうがいいと言われたこともありましたが、やはり今は自分が行き届く範囲でジュエリーを作りたいと思っています。また、〈Preek〉はエレクトロフォーミングという新しい技術を取り入れているので、作り直しや修理などに対応しやすいことも国内生産である大きな利点です。ジュエリーは5年先、10年先も身に着けていたいと思うもの。長く愛用できるクオリティの高いジュエリーを作るためには、日本ならではの丁寧なモノづくりの力が欠かせないと思っています。

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「YU-KIN」シリーズの作業風景。地金を溶かして形を作り、完成したピアスにポストを取り付ける。

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素材を研磨する作業。高度な技術を持つ職人ならではの繊細な手さばきが光る。

ーコロナ禍においてのジュエリー製作で苦労した点はありましたか?

各工程が分散化しているので、ひとつの作業が止まると全部がストップしてしまいます。そして、店舗が休業したことで、お客様に手にとっていただける機会が減ってしまったことが何よりも残念ですね。ただ、そのおかげでWEBに力を入れる必要性を感じ、ひとつずつ個性のあるジュエリーのなかからどんな形のものが届くか、一点物との出会いを楽しんでほしいと思うようになりました。


まだまだ進化するジュエリーの可能性を日々探求。

ーすごく前向きな姿勢、尊敬します。芦沢さんは日本におけるジュエリーの可能性をどのように感じていますか?

日本人がジュエリーを身に着けるようになって100年程でしょうか。やっと欧米のようにデコルテを飾るという文化が根付いてきたと感じています。だからこそジュエリーのニュースタンダードを作れるのではないかと思って、すごくやりがいや可能性を感じています。

最近では、8月にメンズブランドの〈ユナイテッドアローズ&サンズ〉とのコラボレーションジュエリーを製作しました。初めてのメンズ別注で、しかもパールジュエリーということでどうなるかと思いましたが、ありがたいことに即日完売という嬉しい反響をいただきました。世間ではパールは女性がつけるものと思われがちですが、その固定概念を打ち消すような素敵なコレクションになりました。そして、男性がパールをつけるということがムーブメントになっているという状況も日本人がジュエリーに対する価値観が変わってきたんだなと思うと嬉しくなりますね。日本にまだまだ浸透していないからこそ、大きな可能性を感じ、ワクワクしています。

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ー最後に、芦沢さんの今後の展望について考えていることがあれば教えてください。

思い描いていることはたくさんあります。今後はわたしのジュエリーを最初に評価してくれた海外での展開も目標にしているので、そうなったときにはさらなる進化を遂げると思っています。また、いろいろなブランドとのコラボレーションにも挑戦したいですね。

そして、これからも普段身に着ける人に寄り添えるジュエリーを追求し続け、ジュエリー・クラフツ・ファッションの境界線を溶かして繋げるような新しいことにチャレンジしていきたいです。

PROFILE

芦沢 佳澄

2009年ユナイテッドアローズ入社。ウィメンズウェアの企画担当を経て、ハウスブランドとして初のジュエリーブランド〈Preek〉を2018年にスタート。海外からも熱い支持を集める、注目のジュエリーデザイナー。

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