
モノ
2021.01.21 THU.
“10年後になくなるべき”バッグブランド。「PLASTICITY」の取り組みとは。
世界的に広まるサステナブルな生活の意識。自分の行動を変えることで世界を良くしたい。そんな地球環境に配慮した考えに基づいたプロダクトと、それを選ぼうとする消費者も着実に増えています。廃棄されたビニール傘をリサイクルする〈PLASTICITY(プラスティシティ)〉も持続可能性を重視するファッションブランドです。デザインを手がけるのは齊藤 明希さん。廃棄されたプラスチック素材を防水バッグに生まれ変わらせる。ユニークなモノづくりを展開しながら、「10年後になくなるべきブランド」というドキッとさせるようなコンセプトを掲げています。明確な活動期間を定めたファッションブランド、その背景には生活の中から社会課題を解決しようとする想いとアイデアが溢れています。
Photo:Shinji Serizawa
Text:Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)
―まずは〈PLASTICITY〉を立ち上げた背景を
教えてください。
わたしは2020年3月までバッグの縫製などを行う専門学校に通っていて、〈PLASTICITY〉は在学中に同級生二人と考えたものなんです。学校では生徒がブランドを作って発表するというプロジェクトがあって。毎年秋の学園祭で生徒は作品を販売するのですが、そこに向けてビニール傘をリサイクルしたバッグを作っていたんです。ありがたいことに来場客の方々から良い反応をいただいて。ファッション関連の企業も多く来場するのですが、そこに〈PLASTICITY〉を共同開発しているモンドデザインの社長もいらっしゃったご縁でご一緒することになりました。わたしが卒業してから4月にはブランドがローンチするという、とてもスピーディーな展開でしたね。
―ブランド名はどのように決めたのですか?
当時通っていた専門学校が渋谷にあったのですが、渋谷という“シティ”からスタートする“プラスチック”を再利用するエコなブランドという意味を込めました。素材と発信している街と重なる言葉として、プラスチック、シティという2つのキーワードを組み合わせたものが〈PLASTICITY〉です。実は“PLASTICITY”は造語ではないんですよ。元を辿れば、わたしが高校生の頃に読んだ本の中で知った言葉であって、柔軟性、適応力という意味があるんです。時代の変化に合わせて、生活もモノづくりも変わっていかなければいけない。そんな意味も込めています。
新しく生み出すのではなく、世の中で廃棄されるものを再利用する。
―ビニール傘をリサイクルしたバッグを作るというアイデアは、どこから着想を得たのですか?
専門学校に入学した理由が、なるべく環境に良い素材でバッグを作りたかったからなんです。ビニール傘という素材を使うアイデアは一年生のときにすでにあったんですけど、実際に形にするきっかけになったのは学校ブランドを作るプロジェクトに参加したときでした。わたしは大学を卒業してから社会人として働いていて。その会社を辞めてから専門学校に通うようになったのですが、以前は香料を作る化学メーカーの社員でした。そのときに自分が買っているものの背景にある全体の流れを考えるようになって。自分が買いたいと思うものがない。それがあったとしても価格が高すぎたりする。なんとなくDIY感覚で作ってみたところ、しっかりと勉強すればおもしろいものができるんじゃないかと思ったんです。
―環境に関心を持つようになった理由が
ビニール傘だったのですか?
学校に入る前からビニール傘が廃棄されているというニュースが気になっていて。いまは世界的なサステナビリティの流れもあって、たくさんのエコな素材が生まれているじゃないですか。でも、わたしは新しい素材を生産するよりも、世の中で行き場がないもの、廃棄されるものを再利用することが一番のエコなんじゃないかと思ったんですね。自分の身のまわりにある無駄なもの、廃棄されているものに注目するようになって、生活の中から改めてビニール傘に素材としての可能性を感じました。
―ビニール傘はどのようにして集めているんですか?
いまは関東圏の商業施設や鉄道会社から回収している業者さんから仕入れています。一度に何千本単位で仕入れて、それを使い切るようにプロダクトを作っています。ビニール傘は常に廃棄されているので調達することは難しくないんですよ。
埼玉の工場で集められた大量の廃棄傘。
―ビニールの素材としての強みとは何ですか?
強度があって、汚れを拭きやすい。防水なので水洗いしても品質が変わらないというメリットがあります。いまはビニール傘からバッグを作っていますが、その他にもいろいろなアイテムに使える可能性がある素材だと思うんです。類似した素材にPVC(ポリ塩化ビニル)がありますが、それとの違いは物理的なものではなくてストーリー性や価値観の部分です。〈PLASTICITY〉の製品はビニール傘をリサイクルするので、新しいビニールを作らないからエネルギーや溶剤の使用量が圧倒的に少ないんです。また、ミニマルな資源で作れるという特徴もありますね。
―そもそも、ビニール傘はリサイクルが難しいとされてきたのですか?
ビニール傘はプラスチックと金属という具合に異素材の組み合わせで作られていますよね。一般の人は分解して分別することは難しいし、回収する業者さんも利益より労力の方がかかるのでそのまま捨てたほうが便利。産廃業者さんも廃棄物として燃やす工程で、ビニールと鉄の部分が絡み合ってリサイクルしづらくなっている。最近は全部のパーツがビニールで出来ている傘もあるんですよ。メーカー側の意識も時代に合わせて変わってきているのを感じます。
素材との出会いをコントロールできない、偶発的なモノづくりのおもしろさ。
―仕入れたビニール傘はどのようなプロセスを経て製品になっていくのでしょうか。
まずは関東圏で回収された傘が分解と洗浄を行う工場に運ばれます。そこから色別に分けたものがプレス工場に届いて、2本分のビニール傘をプレスして1枚の素材が作られます。その後、プレスされた素材は都内の縫製工場で裁断後、縫製されます。だいたい4本の傘で1つ分のトートバッグが作れます。そもそもビニールの分解作業は仕事としていままでに存在していなかったものであって、それを専門にできる人たちがいたわけではないんですよ。リサイクルだからこそ必要な作業・仕事なんです。
栃木の工場で圧着加工が施される。
―ビニールのタフさを踏まえた上でバッグが作られていますが、いまのように量産する以前はどのように試作していたんですか?
ブランドとして発表するまでは、わたしが自宅で試作していました(笑)。最初はビニール1枚だけで作ってみたり、ナイロンと合わせてPVCのイメージでスポーティーなアウトドアバッグを試作してみたり。でも、どちらの方法で作ってみても、チープさが抜けなかったんです。これなら新しいPVCのバッグを買ったほうがいいなと…。専門学校の先生に見せても、「100円ショップにあるんじゃない?」と言われてしまいました。
齊藤さんが学生時代に製作した作品。圧着は家庭用アイロンで行っていた。
―このままでは製品化は難しいと思い、
いろいろな加工を試したと。
そうなんです。ビニールに色を塗る、塗料を混ぜる、熱を加えてみる、いろいろとテストしました。プロダクトとして強度も高級感も出さなければならないということで、そのための方法を試していく中で、複数の生地を圧着するといういまのアプローチにたどり着いたんです。自分の家だから特殊な機械はないので、最初は市販のアイロンを使って圧着してみて、何度も繰り返していくうちに納得のいくものに近づいていきました。
ただアイロンは手作業なので温度の差や押し加減によって凸凹な素材になってしまって。縫うのもすごく大変で工場にお願いするには効率が悪すぎました。使いやすさを追求していく中でいまの圧着された素材に着地しているんですけど、接着剤を使わずに熱だけでプレスしているので、製造工程自体もエコなんです。
裁断・縫製は都内の工場で行われている。
―ファッションアイテムとしてのデザイン性はどのように考えていますか?
最初に完成したのがトートバッグなのですが、なるべく無駄なく、しかも元の素材を感じ取れるフォルムを作りたかったんです。プロダクトを見たときに何かを感じ取ってもらえるものにしたかったので。ひたすら元の傘の形から立体的なフォルムを考えて、ベストな形を探っていきました。ビニール傘を集めていると、小型では50cm、大型では65-70cmのサイズに大きく分かれることがわかってきて。なるべく同じサイズの生地を貼り合わせたほうが無駄がないということで、ラージトートとスモールトートができていきました。サイズありきではなく、サステナブルな観点から大小のバッグが生まれています。現在、ブランドで使用しているネームタグ、裏地付きトートの裏地はリサイクルPET樹脂を使用しました。傘のロゴタグや小物、使えるところには端材を使用しています。
―プレーンなカラー以外にも、
柄もののビニール傘もリサイクルしていますね。
同じカラーと柄の組み合わせになることはないので、すべてが一点もののプロダクトです。だから、意図的にデザインができません。たとえば、ブラックのトートバッグが一番需要があるんですが、そもそも素材として黒いビニール傘が手に入りにくくて。「もっと作られないんですか?」と聞かれても、捨てられているものの中から選んでいるので難しいんです。素材との出会いをコントロールできないし、予想しなかった組み合わせもある。その偶発性が面白さでもありますね。
10年後にビニール傘は減っていなくても、モノづくりで意識の変化を生み出したい。
―「10年後になくなるべきブランド」というビジョンにも関わるコンセプトを掲げているのはなぜでしょうか?
「10年後になくなるべき」というメッセージは単にビニール傘が使われなくなればいいというわけではなくて。ビニール傘自体が悪いわけではないですし、わたしたちがリサイクルしやすいシステムを作ったり、買う頻度やもの選びの基準を見つめ直したり、どこに変化が生まれるのかはわからないけど、いまほど簡単に入手できなくなっていることが社会や環境として理想的なんじゃないかなって。
―お話を聞いていて、ビニール傘はとても日本的なプロダクトだと思いました。
そうなんですよ。ビニール傘は一家にひとつはあるようなものだから、日本の文化的な一面でもあるというか。海外の人にとってはお土産的なプロダクトとしても捉えていただければと思います。
―〈PLASTICITY〉として、どんなモノづくりをしていきたいと考えていますか?
製品に関してはファッションのシーズナルなコレクション展開をしていこうとは考えていなくて。わたしがそのときに感じ取ったものを作っていきたいですね。だから、ペースとしてはスローでいいと思っています。齊藤 明希個人としてもプロダクトを作っているので、〈PLASTICITY〉では複雑すぎて難しいものは自分の活動として取り組んでいきたいですね。
INFORMATION
PROFILE

齊藤 明希
イギリスのリーズ大学卒業後、日本の企業に就職するが、 幼い頃から好きだったものづくりで何かを始めたいと思い、 ヒコ・みづのジュエリーカレッジ・バッグメーカーコースに入学。 在学中に<PLASTICITY>を立ち上げ、2020年卒業後に活動を本格化する。https://plasticity.co.jp/