
モノ
2021.07.29 THU.
海に捨てられたゴミを新たなカタチに、再生ナイロンのスイムウエア。
昨今問題になっている海の汚染やプラスティックゴミ。サステナビリティという言葉が広く使われることで、その存在に目を向ける人も多くなってきました。「今後も自然の中でわたしたちが遊ばせてもらえるように、少しでも海や自然に良いことをしよう」。そんな考えのもと商品開発を行ってきた〈レピドス〉は、日本にいち早くビーチカルチャーを発信してきたブランドのひとつ。今季のコレクションでは再生ナイロン“エコニール®”を使用した水着を発表しました。ブランドディレクターの征矢 まり子さんと、サーファーとして親交の深いアーティストhi-dutchさんは、何度もコラボレーションをする仲。海や自然を愛する二人は、今後の環境問題をどう捉えているのか? 海を眺めるカフェで、自然への想いが込められたモノづくりについてや、今後の展望について伺いました。
Photo:Kousuke Matsuki
Text:Akemi Kan
自然や海と近いからこそ、見えること。
ー征矢さんとhi-dutchさんは普段から海や自然と接することが多いと思います。環境に良いことをしようと思ったのは、ごく自然のことだったのでしょうか?
征矢:以前、hi-dutchさんがサーフィン後に片手で拾える分のゴミを拾って帰ると聞いて、とても共感しました。「環境に良いことをしよう」と意気込むと行動のハードルが上がってしまうこともありますが、サーフボードを持っていない片方の手でゴミを拾うことは、そう難しくありません。遊ばせてくれた海への感謝の気持ちと、次に来たときにもっとキレイなビーチだったらいいなという願いを持ってビーチクリーンをはじめました。
hi-dutch:毎週のように海へ通うサーファーだからこそ見えるものもあるよね。
征矢:それはあるね。海へ通っているから、ちょっとした海の変化を感じるんだよね。
hi-dutch:僕は10年ほど前から、ビーチにプラスティックゴミが増えていることが気になっていて。これはやばいぞ、と肌で感じた。
征矢:自然との距離が近い暮らしをしていると、環境の変化を感じる瞬間が多いよね。
hi-dutch:そうだね。それに、いつも遊ばせてもらっているフィールドだからこそ、より大切に思うし、自分にできることは積極的にしたいと思ってるよ。
征矢:プライベートはもちろん、仕事でもその想いは持っていたいと思っていて。新しいものを作り出す、ということには責任が付いてくる。その責任は常に感じつつ、より良い未来に繋げるためには? ということを考えて行動できるといいなというのが目指すところ。
ー〈レピドス〉の今シーズンのコレクションでは、“エコニール®”というリサイクル素材をメインに使われていますが、使おうと思った理由はなんですか?
征矢:ビーチクリーンもそうなのですが、できるだけ環境にやさしいことをしたいとは常に思っていて。水着を製作するときに海外の生地を良く目にしますが、海外の生地メーカーは開発が進んでいて、リサイクル素材を使っていることが多いんです。海外のスイムウェアブランドは意識が高いところが本当に多くて、リサイクル素材を使うことは当たり前、という感じ。そうした動向や実際に生地や製品を見てきた中で、自然とわたしもそうした素材を使いたいと思うようになったことが“エコニール®”を取り入れたきっかけです。
hi-dutch:エコニール®はどんな素材なの?
征矢:プラスティックごみや使われなくなった漁網などから作られている上に、繰り返しリサイクルが可能な再生ナイロンなんだけど、ほどよい伸びがあって、着心地の良さなどのクオリティは普通のナイロンとまったく変わらないの。〈レピドス〉では毎回いろんなファブリックを使っているけれど、今回のコレクションは、このエコニール®を使ったアイテムがいちばん多いかな。
hi-dutch:そんな生地があるんだね。とても素敵。
征矢:再生ナイロンということはもちろん最大のポイントなのだけど、素材自体のクオリティもすごく良くて。肌触りもいいし、伸びもよく、着た時に身体に負担が少ないというのが素晴らしい。素材の成り立ちだけではなくて、その先にある素材の持つ魅力も重要で。リサイクル素材だからと安易に使って商品にしても、生地がガサガサするとか、伸びが悪くて着心地が良くないとか、劣化が早いとか、、となると、結局気に入ってもらえずゴミになってしまうかも。商品を気に入ってもらい、きちんとケアしながら長く愛用してもらえることもサステナビリティと言えると思うから、いつもお客さまの手元に届いたその先のことも考えながら、モノづくりをしていけたらいいなと思ってます。
ー今シーズンに限らず、アイテムを作る上で常に意識していることはありますか?
征矢:あまりトレンドに寄らず、長く愛用できるものを作る、ということは常に考えています。瞬間的なときめきもすごく必要ですが、歳を重ねても素敵に着れるもの、着たいと思えるようなクオリティやデザインかどうか、というのは意識していることですね。
ー毎シーズン、テーマを掲げていますが、今回のテーマは何でしょうか?
征矢:今シーズンは「Back to Summer basics」をテーマに、夏に向き合いシンプルに楽しむこと、にフォーカスしています。昨年はコロナの影響で、夏を楽しめる雰囲気ではなかった。でも、どんな世の中でも季節は巡ってまた夏はやってくるし、ただただ純粋に短い夏を楽しむこと、そこに立ち返ったとき、できるだけソリッドにシンプルで着心地の良いものを身に着けたいと考えました。長く愛されてきた定番的なデザインをベースに、様々な素材を使いながら〈レピドス〉らしいディテールを加えたコレクションです。いろいろな意見はありますが、〈レピドス〉の水着をきっかけに、夏を楽しもう! と思ってもらえたら嬉しいですね。
水着やアートを通して、伝えたい世界。
ー〈レピドス〉のPOP UP STOREではhi-dutchさんの作品がいつも飾られていますよね。お二人の出会いのきっかけを教えてください。
征矢:hi-dutchさんの存在は以前から知っていました。ハワイのギャラリーで作品を初めて見て一目惚れ。いつか購入したいと思っていました。もう15年以上前ですね。その後、逗子に家を建てるタイミングで、自宅用に作品をオーダーしたのがはじまりです。玄関に飾る予定で相談したら、hi-dutchさんが「家の壁の色は? とか、飾る壁はどんな感じ? 」という風にいろいろ聞いてくれて。家の壁の色はブルーにしたと伝えたら、それに合わせたカラーやデザインで作ってくれました。家が完成して、引っ越した当日に完成した作品を持って来てくれたんです。で、きっちり設置もしていってくれて(笑)。
hi-dutch:そうだったね。なつかしい! その時の作品は鳥と雲。家の壁のブルーに合わせて、作品のカラーもブルーをベースにしたんだよね。その後、もともと共通の友人も多いこともあって、プライベートで会う機会もだんだん増えていった感じかな。
征矢:はじめはアーティストのhi-dutchさんとお客さんのわたし、という関係だったはずだけど、いつの間にか友人のようなお付き合いに発展していって。それで2012年の夏、〈レピドス〉として初めてPOP UP STOREを開催するときに相談したんだよね。
ーPOP UP STOREはどのような内容だったんですか?
征矢:〈レピドス〉の商品だけでなく、普段は取り扱っていないアイテムも揃えていろいろなものを見られる空間にしたかったんです。友人たちの中に様々な個性を持つアーティストがいたので、彼らの作品を展示できるギャラリー的なスペースも作りつつ。そこで水着も買えるし、夏の準備もできる、そんな楽しいお店があったらいいなと思って。アーティストの友人たちには〈レピドス〉をテーマに作品を作ってもらいました。そのうちの1人がhi-dutchさん。
hi-dutch:そのときに作ったのが、〈レピドス〉の水着の生地を使ったヒトデの作品。水着の生地に合わせて、毛糸のカラーを選んで作ったもの。その後もPOP UPの度に声を掛けてくれて。この花のモチーフの作品は、まり子ちゃんの選んだカラーリングで作ったんだよね。
征矢:そうそう! わたしがまず色鉛筆で描いて、色のイメージを伝えて。この花の後に、雲と太陽もその方法で作ってもらったよね。
hi-dutch:あの作品、すごく評判が良かった! 僕が選ばないようなカラーばかりで、作っていてすごく新鮮だったのを覚えているよ。
作品から環境問題へのメッセージを発信。
ーhi-dutchさんの作品にはプラスティックゴミを使ったものもありますよね。自身が海で拾ったゴミを使うようになったきっかけはなんでしょうか?
hi-dutch:身近な題材やモノを作品に落とし込むというのは以前から自分のテーマなんです。20年ほど前は海で拾った流木でアートを作っていました。流木は木が枝になって、皮が剥げてできるものなんですが、それを木に戻すという作品。けれど10年ほど前から、流木よりもプラスティックゴミの方が断然増えてきて…。海洋生物がエサと間違ってプラスティックを食べてしまっているという事実もとてもショッキングでした。僕にできることは何かないだろうかと考えたのが、この作品が生まれたきっかけです。子どもでも理解できて、海外の方でも一目でわかるようなメッセージ性のある作品を作りたい。そう思っていたのですが、なかなかしっくりくる題材が浮かばなくて…。だから、実は完成までにはかなりの構想期間を要しました。
征矢:2019年だったかな? 原宿のギャラリーで初めてこの魚の作品を見たと思う。
hi-dutch:そう。そのとき最初に作ったのがタコと魚の作品。同時に、このシリーズを発表するなら、何か海に還元したいと考えてたんだよね。
ー作品の売り上げの10%がサーフライダーファンデーションに寄付される仕組みなんですよね?
hi-dutch:そうです。以前からサーフライダーファンデーションの代表の方とは知り合いで、何か一緒にできるといいねという話はしていました。ずいぶん時間が掛かったけど、いいカタチに落とし込むことができたと思っています。すごく反響も大きくて、ここからどんどん世界が広がっていきました。
征矢:最近は海外のお客さまが多いとか。
hi-dutch:SNSを通して、海外からのオーダーがたくさん入るようになって。僕はサーファーだし、作品に使っているゴミは海から拾ってきたものだけど、ビーチカルチャーとして簡単に終わらせたくない、そんな想いもあるから、常に東京から発信している。その方がもっともっと面白くなるし、広い世界に届くはずだなと。
これからのモノづくりと、わたしたちにできること。
ーお二人ともカタチは違えど一から作品を生み出す立場ですが、今後ブランドとして世の中に伝えていきたいことはありますか?
征矢:立ち上げ当初から「Under the Sun」をブランドコンセプトに掲げています。外に出て、いろいろなものを見たり、触れたり、旅してさまざまなことを経験したり。やっぱり、いつの時代も自然から教わることは多いし、外に出てみることで新たな出会いもありますよね。ブランドの根底にはいつもそういう提案をし続けたい、という想いがあります。〈レピドス〉のアイテムを通して、そうした時間がさらに素敵なものになったり、楽しむことに積極的になるきっかけになってくれたら嬉しいです。
hi-dutch:カリフォルニアのようにファッションやビーチカルチャーが融合した暮らしをもっと多くの人に知って欲しい。海と街が無理なくリンクした東京を見てみたいですね。
ー最後に、今後挑戦したいことがあれば教えてください。
征矢:刻々とライフスタイルが変わっていく中で、そのときの生活に寄り添うアイテムを作り続けていくことかな。リサイクル素材に関してももっと知識を深めていく必要があると感じています。ただ、そうした側面だけに片寄らないよう、あくまで基本は長く使えて大事にしてもらえるモノづくり、というのを誠実に行っていくのが、わたしたちの使命であり責任と思っています。自分が関わり作り出すものの根本がどこでどう生まれたものなのかなどは理解しつつ、でも作られたものはカジュアルに誰もが楽しめて、日々の暮らしを豊かにしてくれるもの。そんな、生活の彩りになるようなモノづくりをいま一度考えながら、多くの人に喜んでもらえるブランドを目指していきたいです。
hi-dutch:プラスティックゴミを使った作品は「サーフライダーファンデーション」に、猫の作品の売り上げは「ペットミグノン」という施設に寄付しています。現代アートマーケットは徐々に作品の価値が上がっていくんです。活動をはじめた当時は、そこに少し違和感がありましたが、いまは寄付できる額が増えることがシンプルに嬉しい。僕だけがハッピーになるのではなく、社会のために繋がっていく作品をこれからも作っていきたいです。これは今後の僕の大きなモチベーションにもなると思っています。
征矢:これからも海にやさしく、環境にやさしく、猫にもやさしく(笑)、素敵で面白いことをしていけたらいいですね。
INFORMATION
PROFILE

征矢 まり子
2001年にユナイテッドアローズに入社。バイヤーのアシスタント業務を経験したのち、2006年に応募した社内ラボをきっかけに〈レピドス〉を立ち上げる。現在は〈レピドス〉ディレクターとして、商品の企画、デザイン、バイイングまで担当する。

hi-dutch/ Takahiro Hida
1972年生まれ。サーフボードリペアのキャリアにより習得した樹脂を用いた技術を用いて、毛糸、木材、樹脂を合わせた表現を続けている。日本各地で作品展やグループショー、店内装飾などで作品を発表。また、アメリカ(サンフランシスコ、ロサンゼルス、テキサス、サンノゼ、ハワイ)香港、台湾(台北)オーストラリアなどのグループショーに参加するなど海外でも作品を発表している。hi-dutch.com