
モノ
2021.11.11 THU.
「THE RE:LUXE THE RERACS」の残布資源を循環させるモノづくり。
〈THE RERACS(ザ・リラクス)〉と〈ユナイテッドアローズ(以下、UA)〉からローンチされた、サステナブルなモノづくりにフォーカスするプロジェクト〈THE RE:LUXE THE RERACS(ザ・リ:リュクス ザ・リラクス)〉。デザイナーの倉橋 直実氏と、彼女の考える「高品質で完成度の高い製品を作ることで、お客さまに⻑く着用していただきたい」というモノづくりへの想いを具現化したプロジェクトがスタートします。今回はその立ち上げの経緯や、メインとなるヘルメットバッグについて、また、倉橋さんがこれからも守り続けていきたいモノづくりの環境についてお話を伺いました。
Photo:Shunsuke Kondo
Text:Mikiko Ichitani
こだわりの生地を再構築、モノを無駄にしないために。
ーまず最初に、〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉が生まれた背景について教えてください。
〈ザ・リラクス〉を立ち上げた初期の頃から、毎シーズンどうしても生まれてしまう残布についてなにかできないかと考えていました。うちでは、生地をすべてオリジナルで生産しているので、必要なロット数が生産数に対して多く、生産環境の中でどうしても残ってしまうんです。毎シーズン、毎シーズン生地づくりにはこだわりを持ってやっているので、そんなわたしたちのリクエストに生地メーカーさんや職人さんたちが何度も試行錯誤して作り上げてくれた素晴らしい生地を余ったからといって処分することはできなくて。ずっと大切に保管していました。
ちょうど昨年、〈UA〉さんとシューズでコラボレーションをさせていただくというお話をいただき、そこからシューズだけでなく、バッグも一緒に付けられたらという案が出てきて。それならシューズが入るサイズで、うちの残布を使って作るのはどうかと自然にアイデアがまとまっていきました。そこからさらに、プロジェクトとして進めましょうと声をかけていただき実現することができました。
ー実際に残布というのは、毎シーズンどのくらい残ってしまうものなのでしょうか?
シーズンによっても異なりますが、おおよそ必要な分として確保した布の3パーセント近くが残ってしまいます。本数でいうと、小さいものから大きいものまで入れて50〜100本くらいですかね。
ーブランド名の由来について教えてください。
〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉には、「ラグジュアリーを再構築する」という意味合いを込めました。ラグジュアリーといっても、贅沢とか豪華といった意味からは少し離れて、高級であるとか上質なというイメージです。そこには、素材に価値の高いものを使っているというモノとしての高級さもそうですし、モノを無駄にせずに使っていくための再構築という、行動としてのラグジュアリーさというのも含まれています。
洋服を作るわたしたちだからこそ、世の中に伝えるべきこと。
ー今年で12年目となる〈ザ・リラクス〉も含めて、倉橋さんがモノづくりにおいて大事にしてきたことについても教えていただけますか?
〈ザ・リラクス〉はスタート当初から、できるだけたくさんの人に認知され、愛されるブランドでありたいという想いはずっと変わらないのですが、この数年でより価値を理解して、大切に着ていただけるようなものを作りたいという想いが強くなりました。あとは、ブランド立ち上げ当初から、生産背景と共存していくモノづくりというのは大事にしています。
ー今回の “サステナビリティ” という考えにも通じていますね。
はい。ただ、環境や自然と共存することを目的としているというよりは、生地メーカーさんや縫製工場といったわたしたちの服を作る上で欠かすことのできない方々とどのように持続可能な取り組みを続けていくかをポイントとしています。そもそも、わたしたちがブランドを始めたいと思ったのも、工場さんと一緒に妥協しないモノづくりをして、それを正当な適正価格の状態にしてみなさんに評価される服を作りたいという想いがきっかけなんです。そのためには、お互いが適度なバランスで、商いとしてずっと長く関係を続けていけるような取り組みにしていくことが大切だと考えています。
ー〈ザ・リラクス〉を立ち上げる前から、それらの課題と向き合ってこられたんですね。
わたしもディレクターの倉橋も、前職でそれぞれが抱えていた「もっとこうだったらいいのに」とか、「こういうモノをお客さまに届けたい」といった想いが〈ザ・リラクス〉には反映されているんです。実際に自分たちが直接、生産背景の方たちと関わるようになってから気づいたことも多くあります。それらの方々の苦しみや葛藤をすごく感じるようになったりして…。そこを無視したモノづくりはできないですし、かといって、お客さまのための商品を作るうえですべての要求を汲み取ることも難しいので、そのジレンマは常に抱えています。
関わるヒトも大切に、付加価値を高めるモノづくり。
ーモノづくりの責任に関しても感じられることはありますか?
それらの多くの工程を経て商品をお届けするからには、着た人が幸せになってもらいたいという想いですべての商品を作っていて、物流センターで商品が出荷される直前の検品まで自分自身でしっかり見届けるようにしています。これは、ディレクターの倉橋と一緒に当初から続けてきていることですね。
ー今後の課題として取り組んでいきたいことはありますか?
わたしたちのブランドで言うと、天然原料でウールやコットンの中でもとても希少性の高いもの使用するということを大事な軸としながらも、不安定な要素をカバーできるハイブリッドな素材や合成繊維など新たな素材の開発にも力を入れています。その活動をしていく上でも、いままでの取り組み先さまとの関係を丁寧に維持しながら、人々や環境にもやさしい取り組みをしていくという、バランスがすごく大事になってきますね。
ー様々な新しい取り組みが増えている中で、取りこぼされてしまう人たちにも目を向けていらっしゃるんですね。
必然的に社会全体を変えていかないといけないという価値観が広がる一方で、急激にシフトをしてしまうと突然仕事を失ったり、新たに苦しむ人たちも出てきてしまうと思うんです。トレーサビリティに注力しすぎるあまり、生産背景の方達の書類のやりとりが増えて、業務の負担になってしまうこともあるので、そういったマイナスな面も見落とさないようにしたいですね。
ー〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉のお話に戻るのですが、ファーストプロダクトとしてバッグを選んだ理由を教えてください。
残布を使って作るという点で、アパレルと比べて用尺を取らないので少量の布でも無駄なく使えるというのが大きな理由です。
ーこの形になったのはどのような経緯で?
〈ザ・リラクス〉でも2021年のSSからバッグコレクションの企画をしていて、そのときに最初に浮かんだのがミリタリーとかをベースに、シューズが一足入るくらいの大きさのバッグだったら便利に使えるのではということだったんです。とはいえ、いわゆるトートバッグだとそこに付加価値をつけることが難しいと感じていて、他にベースに由縁があるものでと考えたときに出てきたのがヘルメットバッグ。単純にころんとした見た目もかわいいですし、そこから具体的に企画を進めました。
ー残布の選び方にはどのようなこだわりがありますか?
初めはこのブラウンとブラックのポリエステルナイロンの生地から選びました。これは〈UA〉さんとずっとやらせていただいている別注のモッズコートの残布です。せっかく一緒に始めるので、これまでのコラボレーションの中で生まれた布を再利用できたらいいなということと、気兼ねなく洗えて、水や汚れにも強く、移染しないといった使い勝手の良さも考えて一番適しているんじゃないかということで決まりました。ファーの生地はシーズンを考えて後から追加しましたが、こちらも別注のボアベストの残布を使用しています。
ータフに使えそうですし、長く使うほど馴染んで味が出そうですね。今後はバッグ以外の商品の展開も予定されているのですか?
まだ企画段階ですが、やはりアパレルだと用尺の問題があるので、新しい形のバッグを作れたらいいなと思っています。あとは、強度の問題がクリアできればシューズにも使いやすいかもしれませんね。
無駄を減らして、長く愛してもらえるアイテムでありたい。
ーこれから〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉というプロジェクトをどのように拡げていきたいですか?
目指す考え方自体は、〈ザ・リラクス〉と変わらないのかなと思っています。わたちたちが目指している持続可能なモノづくりを続けていく上で、どうしても生まれてしまう副産物をうまく使って、付加価値をつけたものを〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉からもう一度作っていくという流れを続けていきたいです。
ーひとつのストーリーの延長として、新たなモノづくりへと繋がっているんですね。最後に、〈ザ・リ:リュクス ザ・リラクス〉をはじめたことで改めて気づいたことなどはありますか?
これまで以上に、より無駄にしないようにしたいという想いが強くなりました。例えば、用尺の考え方を反映させて、無駄が出ないように生地を作ってもらうということだったり、作り方から長く愛してもらえるものを作っていきたいという想いは一層強くなっていますね。
INFORMATION
PROFILE

倉橋 直実
1981年、静岡県生まれ。大学卒業後、セレクトショップで販売職として働く。在籍中にパターンメイキングとテキスタイルを学び、2010年3月に〈THE RERACS(ザ・リラクス)〉としてのブランド活動をスタート。2017年に試着のみを行うショールームスタイルのショップ「ザ・リラクス フィッティング ハウス」をオープン。2019AWシーズン、初のランウェイショーを行う。ベーシックな定番ウェアをこだわりの上質素材と現代的なエッセンスで解釈したコレクションを展開する。