
モノ
2021.12.02 THU.
“正しい循環”から生まれる「monkey time」のアップサイクルダウンジャケット。
防寒と重ね着、この2点から冬に欠かせないダウンジャケットですが、その中綿に思いを馳せたことはありますか?〈monkey time(モンキータイム)〉の新作ダウンジャケットは、中綿に再生素材「アップサイクルダウン」を使用しており、着ることで、サステナビリティの実現にも貢献できるといえます。この「アップサイクルダウン」を早くから取り入れているのが、山梨にある〈富士新幸〉さんです。羽毛布団を扱う技術を応用して、再生ダウンにプレミアムな価値を与えてくれます。はたして羽毛の再生とは?その製造過程を知るべく現地を訪ねました。
Photo:Yu Inohara(TRON management)
Text:Masashi Takamura
アップサイクルダウンができるまで。
山梨県都留市。富士の麓に位置するこの地は、その恵みである豊かな天然水を武器に、絹織物を筆頭としたさまざまな産業が育まれてきた土地でもあります。実は、羽毛の取り扱いにもその豊富な水資源は、大変大きなメリットとなっています。
〈富士新幸〉さんは、大正時代に織物工場として創業した後、昭和に入り布団事業にシフトして以来、羽毛の扱いにおいて国内随一の技術を持つメーカー。いまや、自社ブランドやOEM(納入先商標による受託製造)による羽毛ふとん含む寝具製造だけでなく、新毛やアップサイクルダウンなどの羽毛の納品、ふとんリフレッシュ業務なども行っています。
さて、そうした高い技術を用いて生まれる「アップサイクルダウン」。古くなった羽毛布団の中綿を再生する工程を応用したものですが、実際、どのようにして生まれるのでしょうか。
原料となるのは、粗大ゴミとして回収された古布団。それだけに、いかに清潔に再生するかがカギとなるわけです。
羽毛布団を解体し、羽毛を取り出す。
「前除塵」でゴミや破傷羽毛を除去。その後富士山麓の天然水を使い洗浄、すすぎを繰り返し行う。
解体作業は、専用のマシンに投入にして、テキスタイルと、ダウンまたはフェザーからなる中綿に分別します。そこから取り出された羽毛は、「前除塵」の機械にかけ、ゴミやホコリ、損傷した羽毛などを選別。その後、洗濯機で洗浄をしますが、ここに地下水から汲み上げた豊富な富士山麓の水資源が投入されるのです。専用の洗剤と合わせて、十分に洗っていきます。これまでもにおいなどのクレームは一度たりともないとのこと。
パワーアップと呼ばれる乾燥の工程も重要です。80〜100℃のスチームを用いて、ふっくらと乾燥させていきます。高温とすることで虫や雑菌への対策も万全に。乾燥後の羽毛に対して、さらに金属などの混入も除去する「後除塵」という作業を行い、徹底した品質管理がなされます。
工程におけるハイライトと呼べるのが、ソーティングと呼ばれる羽毛の仕分け。ふっくらとした綿毛を保っているダウンのみを選別する作業となります。ここに使用されているのが、ドイツで作られた選別機、高さ15メートルの木製マシン。この密閉空間に投入された清潔なダウンを空気で吸い上げて選別します。上に行くダウン=軽い、落ちてしまうダウン=重い、ということで、軽くてふんわりしたダウンだけが、製品として工場2階の選別室に送られていくのです。もちろん、ここでも、金属以外のゴミで、なおかつ羽毛よりも重いゴミが選別されるという仕組みになっており、2重も3重もの工程で、ゴミが除去されていくのです。
ドイツで作られた選別機。
アップサイクルダウン事業と羽毛ふとんの関係
ふとん業界において、打ち直しなどは、SDGsの元でサステナビリティを叫ばれる何年も以前から、一般的に行われてきたこと。〈富士新幸〉さんでは、個人消費者や宿泊設備のある施設などに対して、ふとんのリフレッシュ事業を長年おこなってきました。これは、使用した羽毛布団の中身を洗浄して、新たなファブリックに詰め替える作業。そこで培った技術が、アップサイクルダウンには生かされています。
〈富士新幸〉さんが、アップサイクルダウン事業を手がけたのは、羽毛そのものが有限な資源であるというところが発端です。基本的にダウンの新毛は、食肉鳥からの採取が原則。それを考慮すると、早晩、新毛が貴重になり高騰していくだろう、との予見もありました。
一方で、ヨーロッパでは、羽毛の再生そのものに元々市民権があり、再生羽毛使用のふとんが、普通に販売されているとのこと。古ふとんを原料とするアップサイクルダウン事業を開始することで、長く存在していた粗大ゴミとして処分されていた古ふとんの課題を解決できると考えたわけです。
困難なのは、古ふとんの回収です。近郊の地方自治体に連絡を取り、引き取っていくという関係を築き上げていきました。〈富士新幸〉さんの技術を見て、「うちの羽毛はぜひ、こちらに」という指名を受けることさえあったそうです。
当初は、ふとんのリフレッシュのラインを使用して、アップサイクルダウン事業を行っていましたが、現在は、工場の一部を大規模化して増設し、先に紹介したような、アップサイクルダウン専用ラインを回しています。現在では、1シーズン10数tものリサイクルダウンを扱うほどになっています。
再生素材だからこその念入りな品質管理
〈富士新幸〉さんのアップサイクルダウンが、支持されている大きな理由は、徹底した品質管理にあります。新毛を扱っている頃から行っている検品方法です。ソーティング作業されたロットから3gのサンプルを取り出します。そこから、ダウンやフェザー、そこに入る夾雑物など、ひとつひとつ人の手作業で仕分けし、その割合を計算します。こうして品質を確認したサンプルは、倉庫にストック。納品後のトレーサビリティにも対応します。これは、新毛の輸入を行っていた際に培われた技術とのこと。
「当社では、商社を通さず直接羽毛を輸入しているのですが、その際、例えば、ダウン90対フェザー10であれば、それが発注通りの割合で納品されているかを確認する必要があるわけです」と、同社営業部の清宮 健一さん。新毛の商品においては、ヨーロッパの認証機関である「ダウンパス」にも合格しているのです。
このように、新毛において培ってきた高い自社基準を、アップサイクルダウンにも適用しながら、自社基準にかなった高品質を実現しているのです。ですから、こうして生まれたアップサイクルダウンには、専用のタグをつけてその価値を保証しています。今後は、こうした新毛さながらの価値をもつアップサイクルダウンには、注目が集まること必至でしょう。
ブランドのコンセプトを体現したエシカルなダウンジャケット
丁寧に再生された膨らみの良いアップサイクルダウンをふんだんに採用したのが、〈モンキータイム〉のダウンジャケット。「時代を超えて受け継がれるトラディショナルなアイテムに敬意を払いつつ、ストリートの自由な発想とモートのクリエイティブな感性をミックス」するブランドの特徴を踏襲しています。
90年代風なストリート感覚を再現すべく、レザー調のシェルを使用していますが、こちらも、エシカルな観点から注目されるフェイクレザーを採用。ゆったりしたシルエットや、シェルを区切る幅広のステッチなどのカジュアルな仕上げからも、いまの時代性に十分マッチします。デザインのトレンド性だけではなく、環境面にも配慮が行き届いた逸品をワードローブに加えてみてはいかがでしょうか。
INFORMATION
PROFILE

富士新幸株式会社
自社工場で羽毛ふとんの輸入から製造まで、羽毛製品の一貫製造を行う。
羽毛ふとんのリフレッシュサービスや、アップサイクルダウン事業など、資源を大切にした事業にも力を入れている。
http://www.fujishinkou.jp/