
モノ
2022.03.17 THU.
植物由来の染料から作られた、環境にやさしい服の魅力。
植物から作った染料で、糸や生地をカラフルに染める「ボタニカルダイ」は、自然な色味が魅力です。植物の根や皮、茎、葉、花弁、実などから取った色素を使い、化学染料の使用を抑えた環境にポジティブな染め方の一つです。今回〈ユナイテッドアローズ〉から発売されるのは、4種類の野菜や果物で染色したオーガニックコットン100%のTシャツとタンクトップ。このボタニカルダイのカットソーの魅力や特徴について、〈ユナイテッドアローズ〉商品部 MD担当の江口 綾香さんにお話を伺いました。
Photo:Yuco Nakamura
Text:Rie Miyata
―今回のプロジェクトがはじまったきっかけはなんだったのでしょうか?
サステナビリティという考え方を広げたい、技術を広めたいという気持ちが以前からありました。そういった意識や技術で商品を作ることによって、環境にやさしい取り組みを進めていることを伝えたいという考えが出発点です。また、野菜や果物で服を染められるということがまだあまり知られていないので、この機会に広めていきたいと考えました。
もともと草木染めという技術は古くからありました。近頃はサステナビリティを意識した取り組みが一段と進んでいるので、そういう面を含めてボタニカルダイの魅力を伝えていきたいと思いました。環境を考えるきっかけになったらいいなと考えています。
基本的にボタニカルダイは綿と相性が良いので、素材もオーガニックコットンを選んでいます。野菜や果物を使ってもキレイな発色でナチュラルな印象を生むのが、ボタニカルダイの利点です。
〈ユナイテッドアローズ〉らしい、カラーリングを心掛けました。全体のコーディネートにきちんとなじむ素材を意識して、カットソーをキレイめの色で染められる方法を相談して決めました。
―キレイな色が印象的です。どんな野菜・果物を使っているのですか?
色染めに使ったのはビーツ、レモン、パセリ、紫キャベツの4種類です。食材から選んだというよりは、こちらで思い描いた色の雰囲気を表現したいという気持ちが先にありました。ピンク、イエロー、グリーン、パープル…このあたりの色を表現したいと考えて、染色チームに伝えました。技術者と相談して、こちらの希望イメージに近い色を出せる食材を提案してもらって、それらの候補から今回の4色を選びました。
―選んだ4色がこの春夏のトレンドカラーに重なっているのは、ファッション企業らしい目利きです。どれもモード界で注目のトレンド色ですよね。コーディネートに加えたくなります。
はい、いまの気分を映す色である点は意識していたところです。それぞれに植物の持つエネルギー、色のパワーなどへの思いが込められています。自然の染料は化学染料のように一つの構造でできておらず、1色の中に何種類もの異なる色要素が入っているので、味わい深い色になります。
ボタニカルダイを〈ユナイテッドアローズ〉のウィメンズで本格的に取り入れたのは、今回が初めてなので、お客さまの反応が楽しみです。Tシャツと同じ着丈でタンクトップの展開もあるので、好みに合わせて選んでいただければと思います。
―なぜ野菜や果物を色染めの原料に選んだのですか?
2022年春夏のテーマは「NATURE ENERGY」だったことから、野菜を使って染められないかというアイデアが浮かび、サラダをイメージして野菜で染色したオーガニックコットンの生地を使用することになりました。




イエローはレモン、パープルは紫キャベツ、ピンクはビーツ、グリーンはパセリから抽出した天然染料で糸を染色。※色の濃度、堅牢度を良くするため、10%ほど化学染料を配合しています。
―あえてTシャツとタンクトップの2型に絞った理由は?
環境問題とファッション産業の関係を意識しながら、洋服を作っていかなくてはいけない時代になっています。ボタニカルダイはそういった状況を表現できると思って、型数も決めていきました。リサイクルやエコに関連する素材は今後も意識的に選んでいきたい。今回のボタニカルはお客さまにわかりやすく伝えるためには望ましい選択肢です。
環境を意識した取り組みは、天然素材の他にも進めており、リサイクルポリエステルを使ったカットソーなども手掛けています。
―サステナビリティ対応のアイテムは、見た目だけではわからないものが多いですよね。
そうなんです。だから今回はパッと見てわかるように、それぞれの色染めに使った原料の野菜や果物を示す説明書きのタグを添えました。
商品タグも環境に配慮して制作されています。素材は〈ユナイテッドアローズ〉のショッパーでも使っている森林認証制度「FSC」の認証済みの素材、インクも野菜から抽出したベジタブルインクを使用しています。
―従来のカジュアルなTシャツというイメージとは異なり、やさしげでキレイめな印象ですね。
通常のラインアップでは定番カラーとして必ず白と黒の展開がありますが、今回はボタニカルダイを前面に押し出すために、あえて白と黒を作らずカラフルな4色で、この色染めの持ち味を伝えたいと考えました。
―ボタニカルダイの取り組みを知って、気づいたことはありますか?
天然の野菜や果物を使って、こんなにキレイな色が出せるんだというのが最大の驚きでした。この野菜や果物で染めたら、どんな色になるんだろうという、実験みたいな感覚があり、実際、できあがりの色合いがそのときごとに違うのが面白く感じました。
同じ品種の食材でも、そのタイミングで素材に使われた物の色はオンリーワンです。同じ服を量産したくても、同じ色には染まらないわけです。同じ色とは巡り会えないという唯一性があります。その実験みたいな感じがまた面白いです。たまたま生まれた色を、楽しみに待つというのも素敵だなと思います。
―ラボ(研究所)みたいですね。同じ物は二度と作れないという点では、職人さんが手仕事で仕上げるアイテムとも似ていますね。
そうなんです。たとえば、今回の原料はもう使い切っているので、追加生産はできません。次に同じ野菜・果物で染めても、完全に同じ色には染まらないでしょう。そういったこのときにしかできない、できあがってからじゃないとわからないというのは、作っているわたしたちもワクワクドキドキします。そういった過程までも感じてもらえたらと思います。
―ソーシャルグッド的な気分になれる上、キレイな色を着ることによって気持ちも上がるといったメリットがこのアイテムにはありそうです。〈ユナイテッドアローズ〉ならではの強みや特長はどういう点に生かされているのでしょう。
最もこだわったポイントは「素材感」でした。これまでボタニカルダイを手掛けてきたところでは、カジュアルな番手が太い、肉厚に仕上がる素材を提案しているケースが多かったのですが、今回はキレイめに仕上げたかったので、細い番手の糸を使うことを考えていました。
また、“ボタニカルダイの生地を使う”という点だけが先行してしまうのは本末転倒だと感じていました。きちんと“ファッション”として提案できるアイテムに仕上げたいと決めて取り組みました。形に関しても、デザインに凝りすぎて、「あれもこれも」と詰め込みすぎになってしまわないよう、注意を払いました。考え抜いた末、今回はベーシックで合わせやすい形を選んでいます。
―〈ユナイテッドアローズ〉らしさがきちんとアイテムに表現されている点がこのTシャツの魅力ですね。サイズ感も絶妙ですね。
お客さまが着用したときにそう感じてくださったら嬉しいですね。サイズはFREEの1サイズ展開で、今回はすっきり着てもらえるサイズ感を考えました。たとえば、ワイドパンツやマキシ丈のスカートと合わせても、バランス良くまとまるサイズ感です。
―どのカラーもとても繊細なカラーリングですが、染まり方が野菜・果物によって違うといった、ボタニカルダイ特有の色出しの難しさや苦労はありましたか?
実際に染色を担当した方によると、野菜・果物は季節によって出る色が変わるそうです。また、野菜の水分が多いものはどうしても色が出づらい傾向にあります。通常の染料であれば、どんなシーズンでも安定しているので、ずっと同じ色合いをキープできますが、天然の収穫物ならではの若干のブレがあるようです。
ただ、それは欠点ではなく、むしろ特長だと捉えています。色のイメージはあらかじめ決めてあるのですが、染め上がりを見るまで、実際にどんな色に染まっているか、チーム内でもドキドキしながら待っていました。
それぞれ染色に使った野菜や果物のイラストがネック部分にプリントされている。
―ネック部分にあしらったイラストもとても可愛いですね。
染料として使われた野菜や果物のイラストをイラストレーターさんに描いていただきました。畳んだときにもハンガーに掛けたときにも、ネック越しにチラリとモチーフが見えるようにイラスト位置を調整しました。
―とびきりあでやかな気分の日は「ビーツ」、アクティブに動きたい日は「パセリ」。気の合う仲間と盛り上がりたい日は「レモン」、アートや映画など自分の時間を楽しみたい日には「紫キャベツ」。そんな風に野菜や果物それぞれの持ち味からテーマを決めて、自分好みのスタイリングを楽しめそうなラインナップですね。
そうですね、気分に合わせてさまざまな着方を楽しんでもらいたいです。
―〈ユナイテッドアローズ〉では「食」の分野にも目配りしています。最近ではライフスタイル面でも「食」の重みが大きくなってきました。今後、ファッションとも一段と関係が深まっていきそうですね。
最近は特にヴィーガンの方やSDGsに関心が高い方が多くなっていて、これからもっとたくさんのお客さまに提案できるチャンスがあるのではないかと感じています。自然や環境を意識している方にはもちろん、それほど意識していなかった方にも、このTシャツをきっかけに “地球にとって良いこと”に少しでも興味を持ってもらえれば嬉しいですね。
INFORMATION
PROFILE

江口 綾香
2007年アルバイト入社。
ユナイテッドアローズ 丸の内店、銀座店、池袋店での販売職を経て
2013年 ユナイテッドアローズ ウィメンズ商品部へアシスタントMDとして異動。
現在はオリジナル服飾のMDを担当している。

宮田 理江
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター
多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説を発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通販ブランドもプロデュース。野菜ソムリエ(日本野菜ソムリエ協会)資格を強みに、「野菜×ファッション」の連載も持つ。