ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2016.07.26 TUE.

五感で味わう日本の夏

日本の四季には、それぞれその季節にしか出会えない、料理やイベント、文化があります。目で見て、香りを堪能して、舌で味わい、肌で感じて、音を聞いて楽しむ夏の“涼”。今回は、女優の浅見れいなさんが、情緒あふれる夏を浴衣姿で案内します。

Photo :Takeshi Wakabayashi
Styling : Ayako Tsukada
Hair&Make : Mariko Adachi
Text : Noriko Ohba

全身で味わう浴衣の肌触り。触の夏。

朝、シーツの感触に離れがたさを感じたり、仕事中に愛用しているペンのしっくりハマる感じ、人と触れ合うときの安心感…。私たちは、朝起きてから夜寝るまでの間それは細やかに“触”を感じながら生きています。

モノが肌に触れたときに感じる“触覚”が、視覚や聴覚などのほかの感覚と比べて大きく違うのは、“全身で感じられること”。それはファッションを楽しむうえでも、欠かせない要素です。なめらかなシルクの肌触りやジャージー素材のソフトな着心地など、素材感を見た目だけでなく、肌で楽しむことができるのは、繊細な触覚があってこそ。

季節の素材を肌で、全身で、堪能する。日本人は昔から夏の触感を“浴衣”で楽しんできました。浴衣は、平安時代に「お風呂上がり用」の着衣として使われたことから始まり、庶民に広まったのは江戸時代だとか。ハリ感がある麻や涼感のある綿でつくられた浴衣を着たときのサラサラとした着心地は、ほかの衣服では味わえない感覚です。

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強く、まぶしい日差しが注ぐ道を歩きながら、浴衣姿で歩く浅見さんにその魅力を尋ねてみると、「浴衣はいいですよね。小さいころよく着せてもらって、お祭りに行ったことを思い出します。夏の気分がぐっと高まるのに、はしゃぐ感じとはちょっと違って、凛とした気持ちで背筋が伸びます」と、語ってくれました。

浴衣を着たときに、自然としゃんとした気持ちになって、普段よりも物腰が“やわらかく”なるあの感じ、もしかしたら江戸時代から変わらない日本人の感覚なのかもしれません。そういえば、“やわらかい”物腰、“温かい”気持ちなど、実際には触れられないものにも、私たちはよく触感を頼りにした言葉を使いますよね。そのことも、生きていくうえで、また毎日を味わい深くするためにも、触覚がどれだけ大切かを物語っているような気がします。


うちわから生まれる涼やかな風。夏の香り。

史上初の携帯電話がつくられたのが約40年前。そこから、大きさも重さも、機能もあっという間に進化して、今では動画もきれいに撮れるほど進化しています。モノや情報も移り変わりが早い時代ですが、一方で、長い間、形も機能も同じ状態で、親しまれ続けているモノもあります。夏の必需品、うちわもそのひとつ。竹と和紙でできたうちわが誕生したのは、室町時代の末期ごろ。そのころから、夏場の暑さをしのぐ小物として多くの人に使われてきました。

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今、うちわで起こした“風”を、触覚で楽しむだけでなく“嗅覚”でも味わう人が増えているようです。ミント系のアロマオイルなどクールな香りをうちわに香り付けしたり、冬の間、お香の入った箱にうちわを入れておけば、夏に涼やかな風とともに、クールな香りも漂い、さらなる涼しさを呼ぶことができるのだそう。

でも、もしかしたら、都会にいても全身を集中して嗅覚を研ぎすませば、風そのものの香りが感じられるのかもしれません。うちわでぱたぱたとあおぎながら、その風から夏の香りを感じられたら…素敵ですね。

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清少納言も愛したかき氷。上品な夏の味。

平安時代にはすでに誕生していたというかき氷、最初に文書に残したのは、日本を代表するエッセイの名手、かの清少納言! 当時の若い女性たちが夢中になって読んだという『枕草子』のなかで、こんな風に触れています。

「あてなるもの。(中略)削り氷にあまづら入れて、新しき金まりに入れたる」。あてなるものとは上品なもの。「削った氷にシロップをかけて、金属の器に盛る」、つまりかき氷は、品があって、雅だと言います。

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それから1000年以上経った今、夏にかき氷を食べる食文化はすたれるどころか、再ブーム。日本のあちらこちらで工夫をこらした絶品かき氷が振る舞われています。やっぱりその魅力のひとつは、変わらず上品さにアリ。美しい器に、ふわふわの氷、シロップをかけて、スプーンでひとすくい。あっという間に口のなかで溶けていく、そのはかなさも味覚に深みを与えます。

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「かき氷は、器に盛りつけた姿も美しいですよね。食べると、雪のように溶けていって、最後口のなかに残るほんのりとした甘さもいい。イチゴやメロン味のシロップもいいけれど、抹茶や番茶など大人の味覚にも合う、上品なシロップが最近の好みです」と浅見さん。

風情のある甘味処へかき氷を食べに。浴衣で出かければ夏の情緒もさらに高まります。


その薄さに涼しさが漂ううすはりグラス。目で楽しむ夏。

私たちは、色や素材から感じる共通した視覚をもっています。重たいカラートーンのファー素材を見れば、“モフッ”とした温かさと感じますし、透明のガラスを見れば、“ひんやり”とした冷たさを視覚で感じます。そうめんも、冷や奴も、お刺身も、お酒までも、夏になると透明なガラスの容器に盛りつけたり、注ぎたくなるのは、見た目から、涼やかな雰囲気を演出するためにほかなりません。

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さて、ガラス製品が夏に愛用する文化はいつから?と言えば、江戸時代からなのだそうです。それまでは、上流階級の間だけで使われていたガラス製品が、江戸時代になってから民間に広まったのだとか。

透明のガラスからは、軽やかさや涼しさを感じますが、それが“うすはり”ならなおのこと。目にしただけで、手に取ったときの軽さや、そのうすさによる繊細なのみ口、触れたときの心地よさまで、ありありと伝わってくるようです。

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浅見さんもうすはりグラスの愛用者。「夏に、うすはりグラスに入れて飲む麦茶が最高なんですよ。見た目の涼しげな雰囲気はおもてなしにも最適で、友人が家に遊びにきたときは、昼にはお茶を、夜はビールを入れて出しています」。


ちりんちりん…風鈴の音色は心も涼やかに。涼を呼ぶ夏の音。

これは五感すべてについて言えることですが、感覚を刺激されると、そこから気持ちも動いていきます。聴覚もしかり。蝉がいっせいに鳴く声を聞けば、暑さの密度がより濃くなったような気がしますし、目覚まし時計の音は、人にとって“緊急事態”を知らせる音色なので、不快でつい起きてしまう、などは有名な話ですよね。反対に、聞くだけでふーっと気持ちが落ち着いたり、胸が高なる音もたくさんあります。鳥のさえずりや小川のせせらぎ、コーヒーを淹れるときの音、好きな人の声、人によってはラインのお知らせの音とか…?

聴覚はとても精密な感覚。そんな聴覚が刺激され音が耳に入ってくると、私たちはそこから寒さや暑さ、情景や人の心などいろいろなコトを想像します。

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そこで風鈴。ふうりん、と声に出して読んでも涼しげですが、あのちりんちりんと鳴る音を聞くと、たとえ家に風鈴を飾ったことがない人でも、「夏の音だな〜」「なんとも涼しげ」と感じるから不思議ですよね。風鈴からは、鈴の音と一緒にその音を鳴らしている“そよ風”も想起できるので、誰もが涼しさを感じるのでしょう。

昔から、暑い季節を日本人は、知恵や文化の力を使って、夏を満喫していたのですね。夏もいよいよ本番間近。目で、耳で、肌で、鼻で、舌で、五感を目一杯に使って、この夏を楽しんでください。

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INFORMATION

ゆかたフェア
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PROFILE

浅見れいな

雑誌「SEVENTEEN」の人気モデルを経て、現在は女優としてドラマや映画、舞台などで幅広く活躍中。出演作品はドラマ「全開ガール」、映画「海月姫」「エイプリルフールズ」等。また最近ではモデルとしての活動も精力的に行い、雑誌「InRed」「オトナミューズ」等で人気を得ている。

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