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2018.06.14 THU.
老舗クラフトビールメーカーとセレクトショップのコラボ!
「UA BAR」オリジナルビール「FLOWERY IPA」にまつわるエトセトラ。
ここ数年、“クラフトビール”という言葉を耳にする機会が多くなりました。「おいしいビールを作りたい」という単純かつ純粋な理由と、自由な発想を活いかすインディペンデントな姿勢でつくられるビール。「ユナイテッドアローズ 原宿本店」にある「UA BAR」では、現在、オリジナルのクラフトビール「FLOWERY IPA」を期間限定で提供しています。この製造を手がけるのは、新潟県阿賀野市で20年以上にわたって独自のこだわりのもとでビールをつくり続ける「スワンレイクビール」。セレクトショップとクラフトビールメーカーによる異業種コラボによって生まれたビールは、果たしてどんな飲み物になっているのでしょうか? 誕生の裏側をのぞいてみましょう。
Photo:Atsushi Fuseya
Text:Yuichiro Tsuji
男性の力強さと女性の華やかさが融合したビール。
原宿の喧騒からすこしはずれた静かな場所で、ひっそりと佇むように営業する「UA BAR」。お酒はもちろん、コーヒーや食事も楽しめるこのお店は、連日連夜さまざまなお客さまが訪れる大人の拠り所です。そんな場所で期間限定で提供されるクラフトビール「FLOWERY IPA」は、昨年9月にメンズとウィメンズが統合し、「ユナイテッドアローズワン」というコンセプトのもとに新しく生まれ変わった「ユナイテッドアローズ 原宿本店」をイメージして誕生しました。
ビールの原材料であるホップの刺激的な香りと苦味が強調された“IPA(Indian Pale Ale)”というスタイルをベースに、“エディブルフラワー”と呼ばれる食べられるお花を副原料に使用。男性がもつ力強さと、女性が抱く華やかさが融合し、ひとつになることを表現しています。
ビールは生き物。だからこそ常に状況を把握して、真摯に向き合う。
「お花を使ったビールなんて聞いたことがないですよね」と笑いながら話すのは、新潟県阿賀野市にあるクラフトビールメーカー「スワンレイクビール」のブルワーである本田龍二さん。今回の「FLOWERY IPA」の生産を担当してくれました。
本田:ユナイテッドアローズから依頼をいただいたとき、すごくうれしかったんです。私自身、ずっと通っていたお店でしたし、憧れを抱いていましたから。服はもちろんですけど、スタッフの方々の接客も素晴らしい。ファッション企業とのコラボレートはこれが初めてでしたが、お互い理解し合える部分が多いんじゃないかと思ったんです。扱っているものこそ違いますが、ショップとしての取り組み方や姿勢に共感する。お互いの理解を深めながら、おいしいビールがつくれたらなと素直に思いました。
1997年に設立した「スワンレイクビール」は、20年以上もビールと真摯に向き合い、世界的なコンテストでもさまざまな受賞歴を誇る老舗中の老舗。こだわりは定番をつくり続けること。レギュラーで生産する5種類のビールづくりで得られる技術力、そして学びや発見を、限定ビールの生産に活かしているそうです。
本田:おなじものをつくり続けることで、ビールにとって何がよくて何が悪いのかがわかるようになります。つまり、振り返りがしやすいんです。逆に次々と新しいことに手を広げてしまうと、おいしくなかったときになにが問題点なのかを見落としてしまう。ビールは生き物ですから、それをおいしく上手に育てるには、生産者である私が真摯に向き合わなければいけないと思うんです。
新潟でつくるからこそおいしいビールができあがる。
ビールの原材料のひとつである麦芽(モルト)。これをお湯と混ぜ合わせて甘い麦汁をつくり、そこにホップを与えて煮ることで、味や香りがつく。最後に酵母を入れて発酵させ、ビールが完成する。
こちらはホップ。ツル性の植物から採れる「毬花(きゅうか)」と呼ばれる松かさのような部分を砕いてペレット状にしている。香り、苦味、泡に影響を与えると共に、ビールの保存性も高めている。
ビールの原料には主に、麦芽、ホップ、水の3つの材料が使われています。今回つくったビールのベースとなるIPAは、通常のビールよりも使用するホップの量が多いことから、その苦味と香りが際立つんだとか。
本田:「FLOWERY IPA」にはアメリカとドイツのホップをブレンドして使っています。柑橘とベリー系の果実が混ざったようなフルーティな香りが特徴ですね。
他にも、私たちが普段飲んでいるビールとの違いがあります。それは、ビールづくりに欠かすことのできない酵母。ラガービールという名前を聞いたことがあると思いますが、この“ラガー”というのは酵母のことで、スッキリとした味わいが特徴。でも、今回のビールはIPAという名の通り“エール酵母”を使っています。
本田:ラガーに比べると、エールは発酵期間が短いんです。なので、ホップが持つ華やかで個性的な香りが引き立ちます。
マッシュタンクと呼ばれる釜で麦芽とお湯を混ぜるのが最初の工程。タンクの底では回転弁がまわっているが、人の手で混ぜないと麦芽のエキスがしっかりと出てこない。大量の麦芽を使っているので、かき回すだけでもかなりの重労働。
砂糖を入れた麦茶のような、やさしい甘さの麦汁。糖度が高いほど、発酵した際のアルコール度数も高くなる。使い終わった麦芽は、地元農家で育てているあがの姫牛に与える肥料として再利用される。
使用する材料の違いや、製造工程のひとつ一つはもちろん、そしてなによりも醸造所のある場所(土地)もビールのでき上がりに大きく影響を与えると本田さんは優しく教えてくれました。
本田:その要因は水にあります。近くには山があるし、この辺りの水は地下水を汲み上げているので、蛇口をひねればおいしい水をたくさん飲むことができるんです。私はずっと新潟にいますが、ペットボトルの水を買ったことがありません。おいしい水を使えば、おいしいビールができる。おなじ環境で2つのビールを作ったとしても、水が変わるだけで全然ちがうものになるんです。
無農薬で毒がないから食べられるエディブルフラワー。
そして、「FLOWERY IPA」の最大の特徴であるのが副原料。普通であればお米などを使うことが多いそうですが、今回使用しているのは“エディブルフラワー”と呼ばれる食べられるお花。これを投入することで、ホップだけでは実現することができない、深みのある香りを出すことに成功しています。
本田:このお話をいただく前から、地元の食材を使っておいしいビールをつくりたいというアイデアがありました。でも、それを具体化する決定的な要素がずっと見つからないままだったんです。そんなタイミングで今回のコンセプトを伺ったときに、イメージしていたアイデアがパッとクリアになる感覚がありました。ちょうどユナイテッドアローズの担当の方からも、『新潟の食材を使いたい』というお話もあって、それでエディブルフラワーを使いませんか? と提案させていただいたんです。
スワンレイクビールの醸造所に併設されるレストランでも、料理の材料としてエディブルフラワーを使っているそう。この食べられる花であるエディブルフラワーを育ているのが、同じ新潟県阿賀野市内にある「脇坂園芸」の脇坂裕一さんです。
脇坂:花の中には毒がある種類もあるんですが、エディブルフラワーとして使われる花はすべて毒のないものなんです。そして、育てる際に農薬は一切使っていません。
脇坂園芸ではマリーゴールドの他にもジニアやトレニア、ボリジ、ナスタチウムなど、たくさんのエディブルフラワーを育てている。農薬を使っていないため、虫が寄りついた場合、小さな筆を使って一輪づつ丁寧に駆除しているそう。
花びらだけでなく、葉や茎も材料として使用。麦汁とホップを混ぜて煮る工程で投入する。煮え上がる直前に入れることで、より一層香りが引き立つんだとか。
快活にそう語ってくれた脇坂さん。花によって味や香りに個性があり、ホップとマッチする香りの強い花ということで今回はマリーゴールドを使っているとのこと。
脇坂:副原料に花を使うとなっても、特徴がないとおもしろくないだろうという気がしていました。そういった意味で考えると使える花は限られてきます。マリーゴールドはエディブルフラワーの中でも香りが強く、甘い香りというよりは、青くて渋い大人の香りがする花なんです。中には加工をすることでその個性が消えてしまう花もあるんですが、マリーゴールドはしっかりとその特徴を残すので、ビールにはきっと適しているだろうと思いました。
ビールを飲むのは楽しいこと。それだけで十分。
特別な原材料と副原料、そしてエール酵母。これらの材料を使用し、丁寧な作業のもとでつくられる「FLOWERY IPA」。副原料に花を使うというはじめての試みでしたが、手応えはバッチリの様子です。
本田:ただただおいしいビールをつくって、ユナイテッドアローズのお客さんに届けたかった。本当にそれだけですね。
そして、今回の「ファッション×クラフトビールメーカー」という異業種とのコラボレートを振り返って本田さんはこんなことを語っていました。
本田:それぞれの立場にこだわりがあって、普段のビールつくりとは違う頭の使い方をしましたが、やっぱりそれがすごく楽しかったです。ユナイテッドアローズの担当の方が仕込みの際にこちらへ来て一緒に作業をしてくれたり、もちろんその前のアイデアを出す段階から胸が踊るようなお話ができて、とてもいい取り組みに参加させてもらったなと思ってます。ユナイテッドアローズは新しい価値の創造を大事にする企業だと思いますし、今回のコラボレートによってその手助けができていたら本当に光栄なことです。そして、自分自身も新しいことに挑戦したことで、大きなものを得ることができました。
力強いホップのテイストと、それをより味わい深くするエディブルフラワーの香りが一体となった「FLOWERY IPA」を飲めば、普段飲むビールとはまた違ったお酒の楽しみ方ができるはずです。
本田:みなさんいろんな目的があってアルコールを飲むと思うんですが、ビールを飲むシーンで思い浮かべるのはやっぱり楽しさなんですよね。乾杯して、ワイワイと盛り上がって笑顔になる。だから、飲んでくれた人が楽しい気持ちになってくれれば、私はそれだけで十分です。ビールを飲むことは楽しいことなんだって、それが伝われば最高ですね。
INFORMATION
PROFILE

本田 龍二
1976年新潟県生まれ。アメリカ人ブルワーのエド トリンガリー氏に師事し、1997年より、スワンレイクビールの醸造を担当。ビールは生き物をモットーにビール造りに向き合い、これまでに、ブルワリーとして国際審査会を含むビアコンテストにおいて金銀銅合わせて119個のメダルを獲得。現在、スワンレイクビールのヘッドブルワーを務める。
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