
ウツワ
2016.09.01 THU.
ユナイテッドアローズは「真面目」で「不器用」。編集者・伊藤総研が感じた服屋の矜持。
9月22日にオープンを控え、徐々にその全貌が明らかとなってきた「ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店」。原宿本店に次ぐ新フラッグシップショップとして生まれ変わる同店は、ユナイテッドアローズが歩んできた26年の歴史の中でも、大きなチャレンジのひとつとなります。その新たな船出を「とても楽しみ」と語るのは、当社とも関わりの深い編集者、伊藤総研さん。六本木ヒルズ店のステイトメントを制作された氏に、話をうかがいました。
Photo:Takeshi Wakabayashi
Text:Yohei Kawada
洋服屋の内側から、「編集者」として関わる。
-伊藤さんは編集者として、リニューアルする六本木ヒルズ店の幹となるステイトメントを制作されました。ユナイテッドアローズとは兼ねてからお付き合いがあったのでしょうか。
伊藤:ユナイテッドアローズさんとのお付き合いは、2012年にあるプロジェクトに参加させてもらったのが最初でした。そこで初めて、ユナイテッドアローズという企業についてとてもよく知ることができたと言いますか、深く掘ることができたんですね。
その翌年には、「ユナイテッドアローズ」の全国キャンペーン「UNITED 世界を変える ARROWS」、通称「情熱接客」と呼ばれる企画をやらせていただいたり、台湾店のオープニングのための挨拶文を書かせていただいたり、継続的にお仕事させていただいてます。
-編集者という立場ではありますが、よりクライアントに近い立場で仕事をされている印象です。
伊藤:そうですね、外部のメディア側から関わるというよりは、ユナイテッドアローズという会社側から、編集者として仕事をさせてもらうことが多いです。今年の4月にオープンした「H BEAUTY&YOUTH」でも、新しく立ち上がるお店側から、外部とのコミュニケーションに関わるお仕事をやらせてもらいました。
すでに六本木ヒルズ店を新たな旗艦店としてリニューアルするという話が進んでいるというのは聞いていたので、外から見ていても大変そうだなあと思っていました(笑)。やはり非常に大きな規模だし、このリニューアルを進めていくうえで何か指針となる「言葉」みたいなものが先にあったほうがいいんじゃないかということで、今回もお声がけいただきました。
-「リニューアルの指針となるような言葉」ということですが、お店の構想を初めて聞いたとき、何かイメージしたものはありますか。
伊藤:いえ、全然想像もつかなかったから、まずは「ユナイテッドアローズ」のクリエイティブディレクターである鴨志田(康人)さんのお話を聞こうと思いました。さらに、お店の内装をワンダーウォールの片山(正通)さんが手がけるということも伺っていたので、やはり片山さんにもお話を伺いました。
すべてを疑うことから始める。ステイトメントを体現する六本木ヒルズ店。
-そのステイトメントの一文目には「すべてを疑うことから始まった」とありますが、とても印象的なフレーズですよね。
伊藤:まず、ユナイテッドアローズは創業から25年を超えて(創業は1989年)、けっこう難しいところに入ってきているタイミングなのかなと思ったんです。現代は、ファストファッションが溢れていて、セレクトショップのライフスタイル化も主流になった。そこでじゃあ彼らは「服屋」としてどうあるべきか、ということを再び見つめ直す時期にあるんじゃないかなと。
その雰囲気は鴨志田さんや片山さんの言葉の中からもすごく感じました。迷いという意味ではなく、改めて「僕たちはこっちでやっていくんだ!」という意志みたいなものです。この広さは大丈夫なのかなと(六本木ヒルズ店は2F、3Fを合わせて400坪を超える)、こちらが不安に思うんですけど、「いや、これで行くんだよ」と。他にも、メンズとウィメンズは両方とも打ち出していくという姿勢だったり。ユナイテッドアローズとして世の中に対してどうあるべきか、を解決するお店になるんだろうなと感じたんです。
-六本木ヒルズ店が、「ユナイテッドアローズ」が考える「服屋」の在り方を体現していると。
伊藤:なので、このステイトメントというのは、外部の人に向けてはもちろんですが、僕としては「ユナイテッドアローズ」の中の人に向けて書いたものなんです。「そう思ってないか? でも、この店で解決するんだぞ!」そういうつもりで書きました。
だからこのステイトメントは「トラッドマインド」という、「ユナイテッドアローズ」が昔から持っている言葉が更新され、進化して、最高の「ユナイテッドアローズ」をつくるぞ、という意思表示でもあります。働く人たちが「こっちでいいんだ!」と思えるためのステイトメントというか。
ユナイテッドアローズは「真面目」。店、人、服に人格が宿る。
-やはりこういう時代背景の中で、セレクトショップがこれだけの規模で、いわゆる洋服屋然とした方向でリニューアルをするというのは、働いている中の人たちにとっても大きなトピックだと思います。伊藤さんは、ユナイテッドアローズという企業が、日本のセレクトショップの中でどういう位置付けにあると感じていますか。
伊藤:難しいですよね、それに答えるのは。前置きすると、僕はファッション業界の人ではないから分からない部分もあるんですけど、贔屓目なしに、ユナイテッドアローズという会社はすごく真面目だと思うんですよ。一緒に仕事をしていても感じる「ちゃんとしている感」。これは多分、特筆すべきものだと思います。
-「ちゃんとしてる」というのは、服なのか、人なのか。どちらに対してでしょうか。
伊藤:うーん、服や人というよりは、人格というのでしょうか。ユナイテッドアローズという会社の人格です。お店から感じるとか、人から感じるとか、もしかしたら服から感じるとか、それぞれの人格が真面目。もちろん、いい意味で。生真面目なやつだなあ、みたいなことではなく、ちゃんとしている。
ユナイテッドアローズの理念には「創造的商人」という言葉があります。スタッフはみんな商人であると、しっかりとしたクリエイティビティを持って商いをしようと、きちんと言っています。だから、お店という形がユナイテッドアローズにとってはいちばんの表現する場所なんだと思います。だから、僕みたいにファッションに弱い人でも、原宿本店に足を運んだりすると、お店でちゃんと“感じられること”がとても多いんですよね。
最近、六本木ってちょっといい? 「中間の場所」は、「勝負の場所」。
-今、おっしゃった原宿本店というのは、「ユナイテッドアローズ」のイメージを形作る非常に重要な店舗だと思うのですが、今回は六本木ヒルズという場所に新たな旗艦店を作るという作業です。ファッションの街を出て、大きなチャレンジをするということについて、伊藤さんは外部の人間としてどんなことを思いますか。
伊藤:六本木って、最近、ちょっといいじゃないですか。だんだんいい風が吹いている気がするんですよね。正直、明らかにダメな時期がありましたよね。六本木ヒルズができて、東京ミッドタウンができて、ちょっと時間が経ったくらいの頃。怒られちゃうかもしれませんが、六本木、ドン底だなあって思ってました(笑)。
だけど、ここ最近すごくいい感じがするんですよね。おそらく、当然インバウンドの需要などもあって、ひと回りしたんだと思います。例えば「六本木」っていう言葉にくっ付いていたいろんなものが、一周回って削ぎ落とされて、六本木ヒルズも、ミッドタウンも含めて、すごく成熟し始めた。そしたら、みんな戻ってきて、戻ってきたら、ちゃんとそこを使えているような気がするんです。
-ギャラリーも多くありますし、それこそ文化的な場所がちょこちょこ六本木に増えてきているのかなあという気はします。部分的ではありますけど、ひところのギラギラさが若干薄らいでいる印象はありますね。
伊藤:あと、それこそ鴨志田さんにお話を訊いて、この六本木という場所がものすごく中間、外にも中にも玄関になり得る場所っていうのは、たしかにそうだなってすごく納得したんです。
-中間の場所ですか。
伊藤:おそらく「交わっている」っていうことだと思うんですけど、丸ノ内や銀座にいるビジネスマンたちと、青山や原宿のカルチャーのようなものの、ちょうど中間という感じが地理的にも、意味的にもありますよね。そう考えると、ここに旗艦店を作るということは必然的なのかなっていう気もしてきます。
六本木界隈という考え方をしても、映画を観に来たり、美術館に来たり、ご飯を食べに来たりしますから。服屋としては原宿と違う難しさがあるにしても、勝負するにはいい場所だと思いました。
大事なことは、好きな人をどれだけ好きなままでいさせられるか。
-ステイトメントにもあった「あの頃以上のドキドキを作れるのか」という言葉が気になりました。あれは具体的に特定の時代を指しているのでしょうか。
伊藤:「あの頃」というのは、具体的に90年代です、というようなことではなくて、誰しもがそれなりに洋服にハマった頃という話なんです。どんな職種や年齢の人であれ、洋服に没頭した時期ってみんなあると思うんですよね。
少し話はズレるかもしれませんが、今はいろんなものに対して時間の取り合いだったり、お金の取り合いだったりするわけですよね。正直、その中で洋服に熱を入れて、お店に行って、時間をかけて考えて、それでやっと買う人って、もう右肩上がりにはならない、暗い話でもなんでもなく、ありのままの現状として、という話です。じゃあその中で商売をするって考えたときに、最終的にはきちんとしている人が勝つんじゃないかと思うんです。だから、ユナイテッドアローズがこれからやろうとしてることは、業界的には今の流れじゃないのかもしれませんけど、逆にいえば、こういう状況だから勝つんじゃないか、と。それだけみんな真剣に洋服を選びますから。
建設中の六本木ヒルズ店を訪問する伊藤さん。
-おっしゃるように、これだけインターネットやECサイトが充実している中で、洋服を買ううえでお店が選択肢のひとつになる、ということすら難しいことですよね。
伊藤:個人的な話ではなく、時代論というか、今の社会的に見ても、みんながみんな「ユナイテッドアローズ」の店舗で買うわけではない。でも、今回の六本木ヒルズ店は「This is the UNITED ARROWS」と書いてある通り、ユナイテッドアローズ・ダイジェストなんです。だから、好きな人にどれだけこの六本木ヒルズ店を好きにさせるか、という話なんじゃないかと思います。
当然、新規のお客様がいるじゃないか、という話は、この仕事以外でもどのジャンルの仕事をしていてもあることです。新規のお客様なんていらない、というわけにはいきませんよね。でも、好きな人をどれだけ好きなままでいさせるかっていうことも、同時にとても大事なことだと思うんです。
-まさにユナイテッドアローズ・ダイジェスト、内装を手がけた片山さんの言葉をお借りすれば、「妄想のバザール」です。本当にプロフェッショナルで小さなお店が、400坪オーバーの平場に細かくセクショナイズされている。六本木ヒルズ店はそういうお店の構成ですよね。
伊藤:バザール的に、エリアごとに明確になったお店の作りというのは、僕のようなファッション弱者にとっても、とても楽しみです(笑)。
なかなか見ることのない建設中の館内を目の当たりにし、自然と笑みがこぼれる。
ユナイテッドアローズは「不器用」。これまでも、これからも、服屋である。
-ただ、そういったお店づくりは、今のセレクトショップの主流となっている方向性とは真逆な気もします。もっとシームレスで、ユニセックスで、いろんな要素が混ざり合うお店づくりがよしとされる風潮があると思います。
伊藤:そうですね。でも、混ざり合うというのが、みんな本当に好きなのかなあという気持ちもありますよね。個人的には、そういうお店は苦手なんです。そっちのほうが好きって言ってしまうほうが、わかりやすくオシャレな感じはするのかもしれませんが。
ただ、今回の六本木ヒルズ店はきっと「ユナイテッドアローズ」のメッカになるような気がしていて、ユナイテッドアローズ体験をしようと思ったら、まずここに来ることになるのではないかと思います。やっぱり服屋然としているから好感が持てるし、どれだけ流行っていてもライフスタイルには行かないっていう姿勢が一貫している。もちろん達成しなきゃいけないことがあるから、そういう要素も一部はありますけど、決して本気でそっちに振ろうということは絶対に思ってないですよね。腹をくくってるというか、ある意味、不器用なのかもしれませんね。
-その「不器用さ」こそが、伊藤さんの目から見た六本木ヒルズ店であり、ユナイテッドアローズという会社を表しているわけですね。
伊藤:だんだん、また寄り戻しが来るんじゃないかと思うんです。セレクトショップもいろいろと手を出してきたけど、一周回って戻ってきたら、淡々と「服屋ですよ」とやってきたユナイテッドアローズが先頭に立っていた、というように。それは世の中全体、洋服だけに限らないような気もしています。中途半端なものが必要なくなっていき、これでいいんだ、と。僕はそういうことが健全な状態ではないかと思うんですよね。
INFORMATION

PROFILE

伊藤総研
1974年、福岡県生まれ。横浜国立大学卒。雑誌編集、広告キャンペーン制作、映像制作、WEB制作、構成作家、店舗経営など、活動は多岐に渡る。最近の仕事として、企業広告「伊藤忠商事」(編集)、雑誌「BRUTUS/漫画ブルータス」(編集)、ラジオ「渋谷のラジオ」(水曜日総合司会)、スナック「日本號」(店舗経営)など。