
ウツワ
2018.09.05 WED.
20周年を機に改めて振り返る、『THINK LOCAL』という考え方。
<ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング>(以下、GLR)の店舗がある地域に特化して、 その地元にある素敵なショップをマップと共にご紹介する、GLRオリジナルの冊子『THINK LOCAL』。今回はその編集者である岡本 仁さんと、GLRクリエイティブディレクターの百々 徹の対談をお届けします。GLR草創期から、岡本さんが当時手がけていた雑誌「relax」を通してお互いに理解を深めていった二人。いわゆる観光ガイドブックとは違った、一風変わった視点でつくられるこの冊子には、お二人の深い想いが込められていました。「東京だってひとつのローカル」。そう声を揃える二人が、今改めて伝えたいこと。
Photo:Kousuke Matsuki
Text:Jun Namekata(THE VOICE)
THINK LOCAL の原型となったもの。
百々:GLRがスタートしたのが1998年。ブランドの草創期は色々ありまして、その数年後にリブランディングがはじまったんですね。ロゴの変更をしたりしたのですが、それが終わって一段落して、今度は全国での多店舗化が本格的にはじまりました。そこで重要になってくるのが“ローカル”の考え方。“ローカル”と一言に言っても色々あります。東京以外の地方のことだけではなくて、例えば東京のなかにだっていくつも“ローカル”がある。そういう考え方の元になったのが、岡本さんが編集長をされていた当時の雑誌『relax』にあったんです。
岡本:『relax』をやっているときは、実はローカリズムというのは全然意識していなくて、いまでは当たり前になった“生活”というものを意識していたんです。何かのために何かを犠牲にして、生活全体のバランスを崩すみたいなことが若いうちは特に起こりやすいと思うのですが、「いや、もっとリラックスして考えれば、世のなかには楽しいものが色々ある」「そんなに焦らなくてもいいじゃないか」ということを、ファッションを取り上げるにしても、アートを取り上げるにしても、すごく意識していたかなとは思います。僕自身も、自分の日々の生活のなかから出てきた「これ気持ちいいな」っていう感覚で『relax』をつくっていました。
百々:リブランドの後にブランドの新しい定義付けをするとき、象徴となるような雑誌を探していました。モードでもないしストリートでもない。その次の軸にくるようなライフ&カルチャーとしての雑誌。今でこそ色々ありますが、当時そういう雑誌はまだなかったんです。そんななか、いわばリベラルアーツのような考え方を岡本さんは『relax』で表現されていた。そこに惹かれました。ブランドの将来を考えたときに、とても近い空気がこの雑誌には流れているなと。そこからおつきあいが始まりました。
-『THINK LOCAL』の原型となった、GLRのタイアップ企画ですね。
岡本:『relax』はできるだけ雑誌の雰囲気を汲み取ってくれるところと一緒につくっていけたらいいなって思っていたんです。だから百々さんからタイアップのお声がけをいただいた時、一般的には絶対に通らないような企画をあえて提案してみたんですよ。そしたら「いいですね」って(笑)。
百々:この写真はカヒミカリィさんが撮られたものなのですが、拝見させていただいてすぐに素晴らしいと思いました。
岡本:ポラロイドがあって、そこに服は一枚も写っていないけど、多分ブランドとしての空気感が伝わって…っていうことをやりたいと百々さんに伝えたんです。写真は告知でもなんでもなく気分だけだし。コピーも短いものだし。で、どうでしょう?って。そうしたら…
百々:僕がこれをこのままお願いしますと(笑)。
岡本:僕がプレゼンのためにつくった資料が、そのままでいいということになってしまったんです。焦りました(笑)。カヒミさんにはまだ許可も取っていなかったし。でもなんとか形にすることができたんですよね。
百々:当時は革新的でしたよね。ここまでイメージだけでコミュニケーションするタイアップは、未だに少ないんじゃないかな。
岡本:僕の思いつきを、まともに取り合ってくれるのは百々さんくらいでした(笑)。
百々:僕は長い軸で見た時に、必ずこういう考え方が重要になるだろうと思っていたんです。そして、まさしく今その通りになっている。今、改めてリラックスを読んでも全然古さを感じさせないですよね。素晴らしい雑誌だし、素晴らしい企画だったと思います。
岡本:しばらくして僕は『relax』の編集長を退任してしまい、百々さんとはもうお仕事ができないのかなと思っていて、GLRで何かやりませんかとお声がけをいただいたときは嬉しかったですね。
-そこでついに『THINK LOCAL』が誕生するんですね。
岡本:僕は、編集長を退任して数年後に転職してからは鹿児島に深く関わる仕事をしていたので、最初にお会いした以上にローカリズムを意識していました。ですから、GLRには店舗がたくさんありますが、その各店舗の方たちが自分の街をどれくらい理解しているんだろうか、という疑問を投げさせていただいたんです。
岡本:まずはお店の方たちが、お店のある街を好きになることが大切。そうすればお客さまにも自信を持ってお話することができますし、服のことだけじゃなく、ついでに3本先の角にいい喫茶店があるんですよ、なんておすすめすることもできる。ファッションとはまた離れたところで、いいコミュニケーションができますよね。そういうツールがあるのがいいんじゃないかなっていうお話をさせてもらいました。
百々:先ほどもお伝えしましたが、ローカルと言ってもさまざまです。東京のなかにも色々なローカルがある。そう言った視点で、その重要性にスポットを当てることが目的です。『relax』で展開していた企画とは形は違いますが、スピリットで共通するところはあります。
東京にあるようなものがないだけ。
-その先にある目的は、やはり地域活性化なのでしょうか?
岡本:地域活性化とか、地方創生とか、そういうことに興味はあるのかってよく聞かれるんです。でも経済がどうとかそういうことじゃないんですよね。ここ数年、東京以外の街によく行くようになって、色々なお店の方とお話しをさせていただいているのですが、みなさんだいたい「ここには何もないですよ」って言うんです。でも実際にその街を歩いてみると面白いものはたくさんある。つまり、何も無いって言っているのは、「東京にあるようなものは何もない」ということでしかないんです。いわゆる中央のメディアがそれを取り上げないから、ここには何も無いって思い込んでしまう訳なんですが…。
岡本:でもそうじゃないんですよね。どの土地にも、その土地特有の魅力があって、それを自分たちが誇りに思うことが大切。それが活性化に繋がるかどうかはわかりませんが、少なくともそこにいる人たちに元気がなければ活性化も何もないでしょう。外から誰か連れてきたり何かを持ってきたりするのは一時的なことでしかなくて、結局、そこに住んでいる方がいい街だよって思うことがいちばん大切なんです。
そういう意味で“THINK LOCAL”というタイトルもすぐ思いつきました。その土地に住んでいて、その土地が好きな人だからこそ見えるもの。それはメディアが見ているものとは全然違います。そういう視点で新しいものをつくりたかったんです。
-東京などの都市に住んでいると、つい自分たちが“中央”なんだって思いがちですよね。そしてそういう目線で“地方”を見てしまう。でも『THINK LOCAL』はそうじゃない。
岡本:そうなんです。東京だってひとつのローカルのはずなのに、たまたま首都だから中央っていう意識が現れる。でも、そうじゃないんですよね。なので、タイトルは“THINK LOCAL”ですが、考え方としては“STUDY LOCALなのかもしれません。
百々:“LOCALという考え方”に学ぶことの方が多いと。
岡本:どこかよその街へ行って話を聞いたり、自分で歩いたりすると、学ぶべきことが色々ある。例えば、GLRの各店舗にその街の地図があって、よそから来た方がそこで地図を手に入れて、街歩きをすることで新しい発見があったら素敵ですよね。
百々:実際にそういう流れは生まれています。実際皆さまに喜んでいただいているし、岡本さんがおっしゃる通り、コミュニケーションツールとして活躍しています。
自分の立っている場所を、大切に。
-『THINK LOCAL』の中身について触れたいのですが、とにかくセレクトが絶妙ですよね。選び方の基準やコンセプトはあるのでしょうか?
岡本:コンセプト…あんまり考えてないかもしれないなあ(笑)。結局自分の好きなところが、自分が絶対の自信を持って勧められる場所であるはずだから、そういう視点で選んでいます。つまり、フィジカルなことを大切にしたいっていうことかな。何かどこかの情報をキャッチしたような内容ではなくて、きちんと自分の目と耳と体で体感したことを素直に表現すること。そういうリアルさが色々なものにつながっていくのだと思うんです。
百々:最近、自由が丘編を改めて読んで、実際に街を歩いてみたんですが、だいぶ減っていますね、お店が。
岡本:残念ながら、その地元らしい個性的なお店からなくなっていきますよね。そして新しくできるお店はどれも似たような顔をしている。それは偏った情報が回りすぎているからだと思うんです。デザインのローカリズムがどんどん減ってしまっているというか…。
岡本:たくさんの情報がすぐ手に入って、車で移動することが普通になっている今、目的地まで行って用事を済ませたら、あとは車に乗って帰るっていうのが普通ですよね。でも街っていうのはその途中にある色々なものが面白くて、それを見ないと、自分の街に住んでいる方々の営みっていうのが見えてこないわけで。そんなことをしているうちに愛着が薄れてしまって、メディアを通して自分の住んでいない街に憧れるっていうことになってしまう。
でも、もしかしたら自分の街にも、ポートランドのドーナツより美味しいドーナツがあるかもしれないし、それを発見できたときは絶対楽しいですよね。そうすると自分の街が好きになるかもしれないし、そのことがひとつのパワーになる。そのことを全国各店舗のお店で伝えることができる、GLRのこの取り組みは素晴らしいものだと思います。
-百々さんは、GLRにとってこういうメディアがあることはどういうことだと捉えていますか?
百々:20年の歴史のなかで、GLRがブレずに持ち続けてきた考え方がここには詰まっていると思っています。そしてその重要性はどんどん増している。ローカルには世界ローカルも含まれますし、色々な多様性に繋がる大切なメディアだと思います。
岡本:僕はGLRの広告コピーもいくつか書かせていただいているのですが、いちばん気に入っているのが、「自分が自分でいられる服を着よう」というコピー。自分が自分でいられる街に住んで、自分が自分でいられる服を着よう。『THINK LOCAL』もそれを伝えるツールのひとつとして、つくっているつもりです。そしてそれが、GLRの各店舗にあることはとても大切な気がします。
-今現在、『THINK LOCAL』は何冊刊行されているのでしょうか。
百々:37冊。ちょうどお店の数の半分くらいです。もともと、ある程度の数になってきたら改めてまとめましょうという話があって、今回これらをWEBで公開できるようにしました。ぜひご覧いただきたいと思います。
-最後に、改まして、『THINK LOCAL』とは。
岡本:色々な街に色々な顔があったほうが楽しいって、単純に思うんです。それぞれのやり方で守ったり伸ばしたりすればいい。やっぱり自分の立っているその場所を大切にして欲しいですね。「あなたの住んでいるその場所の方は、綺麗な花が咲いて羨ましいですね」と言っている自分が、足元に咲いている美しい花を踏んでしまっていることに気づかない、これはとても起きやすいこと。まずは自分の足元を見よう。そういうことだと思います。
百々:やはり、“STUDY LOCAL”ですね。全て“LOCA”L。東京だって“LOCAL”。そういう意味で、“LOCAL”にこそ学びがある。
岡本:そもそも、中央とか地方とかってことではなくて、みんな横並びで考えたらもっと楽だし、もっと面白いですよ、きっと。
INFORMATION
PROFILE

岡本 仁
1954年、北海道夕張市生まれ。大学卒業後、テレビ局勤務を経てマガジンハウスに入社、『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わった後に、2009年よりランドスケーププロダクツにてコンセプトメイクやブランディングなどを担当。

百々 徹
1954年兵庫県・宝塚市生まれ。大学卒業後、旅行代理店勤務。その後ライフスタイルストアに勤務、すべてのバイイングに携わる。海外渡航暦150回以上の経験と知見を活かし、事業のクリエイティブの方向性などを担当する。2000年8月<グリーンレーベル リラクシング>のクリエイティブディレクター就任。