
ウツワ
2019.08.29 THU.
“服から服をつくる”
<BRING(ブリング)>という新しいリサイクル
ファッション業界においても叫ばれるサステナビリティの重要性。現在も多くのブランドで、さまざまな角度からの取り組みがなされています。<ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング>(以下GLR)では、服のリサイクルプロジェクト<BRING(ブリング)>との取り組みが今年よりスタート。7月に再生ポリエステル糸を使用したウェアをリリースしました。モノを大事にするという基本的な考えを、世代を超えて繋いでいきたいという強い思いから提携が実現。<BRING>を運営する日本環境設計の日比伸一郎さんのお話から、衣服リサイクルの現在、そして理想の未来を探ります。
Photo_Go Tanabe, Hiroyo Kai (STUH) [still]
Text_Masashi Takamura
<BRING>が目指すサーキュラーエコノミーとは?
“服から服をつくる”――シンプルなメッセージをコンセプトに掲げているのは、<BRING>と銘打たれた服のリサイクルプロジェクト。服のほか携帯電話などのリサイクル事業を手がける日本環境設計が2010年から運営をはじめ、石油由来の原料に頼らないものづくりを目指して2018年からはオリジナルブランドのTシャツの販売をスタートしています。
「リサイクルには、どうしても“やらなければ”というプレッシャーや、どこか義務的なイメージが持たれがちです。私たちは、このプロジェクトでそうした固定観念を変えたいと思っています。本来の目的である“リサイクル”ではなく、日常の自然な消費行動に付随するものとして考えたい。お役御免となった服は、中古ショップやオークションサイトで売るか、処分するという選択肢しかありません。“捨てられるはずだった服を再資源化というリサイクルをしてまた服をつくる”。シンボルであるハチのマークは、花から花を飛び回り花粉を集めて蜜という糧を得るハチの行動を、たくさんの店からリサイクルの服を集めて新しい服の糧にするプロジェクトに重ね合わせています。キュートなハチくんが愛されるように、日常の中に自然と“リサイクル”が存在できたらなという思いが込められています(日比さん談、以下同)
「買う・使う」→「古着を回収する」→「樹脂をつくる」→「糸をつくる」→「布をつくる」→「新しい服をつくる」→「買う・使う」。このような循環を、<BRING>では、「サーキュラーエコノミー」と呼んでいます。生産→消費→廃棄という従来の直線的経済に対して、資源が円を描くように循環し、環境負荷を減らしながら経済成長を目指します。消費者としても、自ら購入した服があらためて服に生まれ変わるということは、ひとつの理想といえるでしょう。
全国から集められた古着の山。ここから再資源化がスタートする。
愛着のある古着が“原料”になる。
<BRING>事業において“服から服をつくる”が実現可能なのは、日本環境設計が持つ高いリサイクル技術ゆえ。2017年竣工した北九州の響灘工場のプラントにおいて、そのリサイクル工程が行われています。
「実は、衣服に使われるポリエステルは、染料や機能材などの不純物が多く、ポリエステルを抽出して精製するというのが、非常に難しい。そこで当社のケミカルリサイクルの技術を用いています。簡単にいうと、集めた古着を大型破砕機にかけて粉砕し、エチレングリコールでポリエステルの分子構造を解くことでポリエステルモノマーにしてから、染料などの不純物を除去します。その後、再度分子をつなぎ合わせて糸になる前の姿であるポリエステルのペレット(粒状の塊)を製造します。これを繊維メーカーに持ち込み、糸や生地にしていくのです。この工程によって、服から抽出したポリエステルを新品同様に再生されたポリエステル樹脂をつくることが、当社の強みです。ファスナーやボタンが付属していても、コットンなどの天然素材が混紡されていても、ポリエステルのみを抽出して再生することが可能というわけです。もちろん、まだ十分に着られるクオリティの服は、他の誰かのお気に入りになる可能性を秘めていますのでリユースもしています」
一般的なポリエステルのリサイクルにおいては、化学的に処理をしないメカニカル(マテリアル)リサイクルという方法が主流。ただし、この方法ではリサイクルは主に一度だけしかリサイクルできないそう。ところが、<BRING>の採用するケミカルリサイクルでは、何度でもリサイクルが可能なのです。
「“服から服へ”。これって、とてもハッピーなことですよね」
一聴すると簡単そうに思えるプロジェクトですが、長年リサイクルに注力してきた日本環境設計だからこそ実現できているといえるでしょう。
ケミカルリサイクルできない古着は燃料や自動車内装として再利用されるという。
古着は段ボールから取り出されてコンテナバッグいっぱいに詰め込まれる。
白い粒が、再生されたペレット(写真上)。この樹脂から糸や生地が生まれていく。
衣料品リサイクルの未来とは?
<GLR>で販売中のワッフル生地のカットソー。生地に含まれるポリエステル14%のうち約3%が再生ポリエステル糸。メンズ、ウィメンズ、キッズの展開。
昨今、消費者のリサイクル意識が高まっているとはいえ、浸透にはまだまだ難しさがあるそう。
「まだ確立されていないことをみなさんとともに実現させるのはなかなか大変です。再生材を使用する意識はお持ちなのですが、やはりコストの問題も大きいですね。私たちの工場は、大企業のそれとは規模こそ違いますが、品質は同等。とはいっても、皆さんから回収した服だけを使用した再生ポリエステルの100%使用はやはりコストが上がってしまうので、製造工程で排出される廃繊維やペットボトルといった原料を取り入れるなど、商品価格を意識しながらバランスを取っています」
そして、消費行動を変えることにも苦労は絶えないと、日比さんは語ります。
「サーキュラーエコノミーを実現するには、“回収”の行程が必要不可欠。消費者には、服を捨てずにリサイクルしてもらわなければなりません。私たちは、そこにこそ“メッセージ”と“ストーリー”が必要だと考えています。我が社が取り組んだ事業のひとつに、映画のワンシーンをみんなで再現しようという企画がありました。皆さんから回収した着なくなった服を燃料にリサイクルして車を走らせることで、ハリウッド映画のワンシーンを再現する、というもので、“資源の回収に参加してください”というメッセージと、“みんなで映画のワンシーンを再現しよう”というストーリーを結びつけました。それまでの回収量を大幅に超えるリサイクル品が集まり、楽しみながら参加できる環境活動ということで非常に好評価をいただきました。こういった取り組みの継続が、消費行動のひとつにリサイクルが組み込まれるきっかけとなりえるのです」
今回<GLR>では、<BRING>の再生ポリエステル糸を使用したワッフル生地のカットソーをリリース。メンズ、ウィメンズ、キッズで展開しています。商品にはオリジナルのブランドタグが付属され、さらにキッズのアイテムには、ハチを主役にしたブックレット型の絵本タグが下がります。
「私たちは、再生したペレットをつくって“はい、終わり”とはしたくないのです。ブランドごとのストーリーを最後の製品までセットで考えたい。<GLR>は、家族連れのお客様も多く、環境への意識も高いので、お子さんに向けたメッセージを絵本タグにすることにしました。ハチのストーリーを読んでもらい、最後にお子さん自身に感想を書いてもらう。環境への意識を次の世代と共有していただくのが、この絵本タグの狙いです。<BRING>による再生ポリエステル糸を使用した製品化のパートナーとして<GLR>を選んだのは、そんな思いを共有できたから、ということも大きいです」
<GLR>では9月に衣料品回収キャンペーンの開催を準備中。古着の回収を来店動機として、ハチの絵本による商品訴求という流れは、<BRING>が重要視するストーリーそのもの。商品をつくるだけにとどまらないブランディングの賜物といえます。
「限りある資源の有効活用やCO2排出削減など、再生ポリエステルは多くの問題を解決してくれますが、やはり最後にものをいうのは消費者の満足感。これを生み出すためにはストーリーの提案が欠かせません。例えば、海洋プラスチック汚染の問題を考えれば、ビーチクリーンをテーマにして、サーフブランドなどと手を組むのもおもしろいでしょう。私たちがやれることは無限にあると信じていますし、<BRING>で豊かな未来を目指し、多くの人の消費行動を変えていきたいと思っています」
INFORMATION

日本環境設計が推進する服のリサイクルプロジェクト。サーキュラーエコノミーを掲げて、古着から服をつくるための取り組みを実践。80社以上の協力を得て、回収拠点を国内に2500以上設置。
<BRING>公式サイトはこちら

<BRING>のプロジェクトから生まれた再生ポリエステル糸を使用したオリジナルブランド。2018 年から、Tシャツやアンダーウェアなどの自社商品を販売。サステナブルな素材として多くのブランドとの商品開発を目指す。
BRING Materialの詳細はこちら