グラミチのパンツは、40年以上まだ誰も超えられないひとつの頂|知っておくべきブランド

グラミチのパンツは、40年以上まだ誰も超えられないひとつの頂|知っておくべきブランド

いくら直幸


<グラミチ(GRAMICCI)>のパンツは元々どんなアイテムで、どのようにして誕生したのか? そして、なぜ多くの人々に選ばれ、ひとつの頂へと登り詰めたのか? 今さら聞けない、超定番ブランドが辿ったルートを振り返ります。

クライミング服の元祖にして完成形

ロッククライミングの聖地としても知られる、アメリカ・カリフォルニア州のヨセミテ国立公園。1970年代、この地を拠点とする精鋭揃いのトップクライマー集団・ストーンマスターズの中心メンバーであったマイク・グラハム氏は、シーンの先頭を行くレジェンドであると同時に、クライミングギアを自作する名手でもありました。

そんな彼の才能を高く評価したのが、ヨセミテの仲間であったイヴォン・シュイナード氏。そう、あのパタゴニアの創業者です。イヴォン氏は彼をバックアップするため縫製工場や工具を用意し、パタゴニアのギア部門であるシュイナード・イクイップメント(現ブラックダイヤモンド社)の仕事を依頼。ハーネス、テント、寝袋、バックパックなどを開発・製造し、ビジネスの成長に大きく貢献します。

一方、当時はクライミング用のパンツは存在せず、主にジーンズや軍の払い下げ品が穿かれていました。ただ、それらは丈夫であるものの、登はん中に大きく股を広げられない。'80年代に入ると軽量で動きやすいアルパイン向けのナイロンパンツも登場しましたが、やはり脚の可動域が足らず、しかも滑りやすく破れやすいのが難点でした。そこで'82年、彼は本当に必要なウェアをカタチにすべく、自身のニックネームを冠した<グラミチ>を設立します。

彼にはアイデアがありました。ひとつは、作業場にあったバックパックのストラップ&バックルをヒントに、ウェビングベルトを用いたイージーウエストを考案。これにより、片手でクイックに腰回りのサイズ調節を行えるようにしたのです。加えて、股にマチを設けることで180度まで開脚しても突っ張らずに追従するガゼットクロッチを発明。これは'70年代にカンフーブームを巻き起こしたブルース・リーが魅せた、大きく脚を蹴り上げるシーンから閃いたのだとか。これら画期的なコンストラクションを落とし込んで完成したのが、ノンストレスで着用できる不朽の定番「グラミチパンツ」と「グラミチショーツ(現Gショーツ)」です。
耐久性に優れる厚手のコットンツイルを使い、脚の複雑な動きを妨げず、かつ岩肌にも引っ掛かりにくい太めのテーパードシルエットを描くこのパンツは、クライマーの間で瞬く間に評判に。さらには別のアウトドアスポーツにも受け入れられるヒット作となり、全米各地へと広がったのでした。

火付け役は日本のセレクトショップ

ご存じのとおり、今や<グラミチ>はタウンユースにも完全に浸透しています。そのキッカケは、ここ日本にあるのです。時は'90年代、裏原宿のブランドと並んでストリートファッションを牽引したのはセレクトショップのスタッフでした。若者の憧れであり、強い影響力をもっていた彼らは、海外から仕入れた本格的なアウトドアウェアを普段着にミックスして店頭に立ち、雑誌にも頻繁に登場。とりわけ<グラミチ>はマストとして取り扱われ、一気にブレイクを果たすことに。

無論、街でも支持された一番の理由は、プロダクトそのものに魅力があったから。先述のディテールから生まれる快適性、気兼ねなく穿けるタフさのほか、豊かな彩りと手頃なプライスも人気を後押ししたのです。これを叶える手段もまたユニークでした。ベースの生地はホワイト1色のみで、パンツへと縫い上げた後に色とりどりの製品染めを施す。こうして実に選び甲斐のある無数のカラーバリエーションを可能にし、併せて効率的なコストダウンも図ったのです。

山で街で愛される傑作スタンダード

かくしてファッションシーンでも市民権を得た<グラミチ>は、この10年でさらなる飛躍を遂げました。大震災を経験して人々の価値観に変化が起こると、背伸びをして着飾るより、肩肘張らない心地いいアイテムが求められるように。こうした世の中の気分からイージーパンツに注目が集まり、改めて<グラミチ>がフックアップされたのです。

セレクトショップや名だたるブランドが、コンフォータブルな穿き心地をもたらす独自の仕様を活かしながら、シルエットや素材をアレンジした別注モデルを相次いでオーダー。また<グラミチ>の通常コレクションにも、スタイリッシュな「NN(ニューナローの略)パンツ」を皮切りに時流を捉えたシルエットが追加され、新たなファブリックも次々と拡充。軒並み好評を博し、以降その勢いはとどまる気配を見せません。

現在、ウェビングベルト搭載のイージーウエストやガゼットクロッチは、クライミング用を含むアウトドアパンツのひとつの雛形となり、多くの競合メーカーが採用するまでに。他方、ファッションブランドにも幅広く取り入れられ、あらゆるカジュアルパンツに散見することができます。それらすべてのオリジンであり、今なおシーンのトップを登り続けているのが<グラミチ>なのです。

かく言う私も複数本を所有し、街穿きやレジャー、はたまた部屋着など、場面やコーディネートに応じて使い分けています。そして、まさに今も着用しながら本稿を執筆しました。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在は『Begin』『OCEANS』をはじめとするメンズ雑誌とウェブマガジンに寄稿するほか、有名ブランドや大手セレクトショップの広告&オウンドメディアなどで活動。また、日本テレビの情報バラエティ番組『ヒルナンデス!』のコーディネート対決コーナーでは審査員も務める。

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