ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2022.05.19 THU.

「Begin」×「Makuake」×「UNITED ARROWS」。
光木 拓也氏に聞く、アップサイクルプロジェクト。

雑誌『Begin』、応援購入サービスのサイト「Makuake(マクアケ)」、そして〈ユナイテッドアローズ(以下UA)〉のトリプルコラボレーションによって誕生したスペシャルアイテムの製作秘話にフォーカス。サステナビリティをテーマにした本企画では、ストックに眠っていた高級スーツ生地を活用して3型のアイテムを製作しました。エコ企画というだけではなく、心から満足していただける“いいモノ”をつくることが今回のミッション。その全容について、本企画の発起人である『Begin』プロデューサー 光木 拓也さんに伺いました。

Photo:Jun Nakagawa
Text:Hiromitsu Kosone

UAの“戦友”、光木 拓也氏。

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一雑誌『Begin』の名物編集者として知られ、昨年まで編集長を務められていた光木さんですが、現在は雑誌づくりの枠を飛び越えて、『Begin』のブランド力を活かした新事業開発に注力されているとか。

光木: そうですね。正確にいうと、『Begin』とその姉妹誌『LaLa Begin』、兄弟誌『MEN’S EX』、時計専門誌『時計Begin』という4つのメディアがもつノウハウやブランドを活用して、既存の出版業以外で価値を創出するチームのディレクターを担当しています。今回のトリプルコラボ企画は編集長時代にスタートさせたのですが、図らずも現職にマッチしたプロジェクトになりました。

一光木さんとUAは、これまでもさまざまな企画でご一緒されてきたんですよね?

光木: もう“UAなくしてミツキなし!”って感じですよ(笑)。『Begin』以前に所属していた『mono magazine』時代からお世話になってます。最初にガッツリ絡ませていただいたのは、ユナイテッドアローズ 原宿本店がリニューアルオープンしたときでしたね。2003年、25歳の新米エディターだった僕が、40ページのUA大特集を任されたんです。

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光木さんがこれまで手掛けてきた、数々のユナイテッドアローズ企画。左端が2003年の原宿本店リニューアルを機にユナイテッドアローズを大特集した『mono magazine』、右から2番めはユナイテッドアローズ創業30周年の節目に制作した『Begin』別冊付録。

一あれは壮大な企画でしたね。

光木: 創業メンバーの方々にも取材させていただきましたし、当時ジュビロ磐田のオフィシャルスーツをUAが手掛けていたので、磐田まで撮影に行ったりもしました。いまなら「広報用写真をメールで送ってくれますか?」の一言で済むけれど、当時はスタッフの方の顔写真ひとつまで現場へ行かなければならない時代でしたからね。でも、だからこそいろいろな方と面識ができて、UAとの絆ができたと思います。『Begin』にきたあとも、アニバーサリーイヤーには必ず大きな企画を担当させていただきました。


テーマは“ドレス”なカジュアルアイテム。

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一今回のコラボも光木さんからご提案をいただいたのがきっかけですが、ユナイテッドアローズとしても「光木さんの企画なら間違いないでしょ」と全幅の信頼を寄せつつ取り組ませていただきました。キックオフは昨年の夏くらいでしたね。

光木: はい、『Begin』がプロデュースする「Becycle」(ビサイクル)というサステナブル活動が出発点でして、その一環として今回のトリプルコラボをご提案させていただいた次第です。ビギン発案のリサイクルだから「ビサイクル」…。ネーミングはダジャレなんですが、中身はマジメ。いまや全世界的な課題となっているサステナビリティに本気で取り組む活動です。

一ファッション・インダストリーにとっては不可欠のトピックですが、『Begin』としてもサステナビリティがいま、重要とお考えですか?

光木: というよりも、『Begin』にとってサステナビリティはずっと前から“アタリマエ”のことなんです。一生モノ、永世定番、ベーシック、メンテナンス…すべて『Begin』の人気企画ですが、これってつまり持続可能性ですよね。なので、「SDGs」や「サステナブル」といった概念は、わざわざ言葉にするまでもない我々のDNAなんです。

一確かにその通りですね。ちなみに、光木さんご自身にとってもサステナブルは身近な概念ですか?

光木: もちろんですね。洋服にしても、すぐ捨てるようなモノには手を出さないと心に決めています。実際10年以上愛用しているモノも身のまわりにたくさんあるので、持続可能なライフスタイルを楽しめてるんじゃないかと思います。持続可能じゃないのは体型だけかな…(笑)。

一(笑)。そういうわけで、サステナビリティの新しい表現として今回のコラボ企画がスタートしたのですが、実際にプロダクトを考えるにあたって、光木さんからUAにリクエストいただいたキーワードが少々意外でした。

光木: “ドレス”(ドレスクロージングとよばれる、スーツなどテーラードウェアを基軸とするカテゴリのこと)の目線でアイテムをつくりたいとリクエストさせていただきました。僕がユナイテッドアローズに抱くイメージは「上品」とか「洗練」といったムード。なので、カジュアルアイテムでもドレスのテイストを織り込んだエレガントなモノを提案したかったんです。

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スーツからデニムまでマッチする縦長トートバッグ。左はダークグリーンのトロピカルウール、右はクラシックなチョークストライプ柄の素材を使用。どちらもイタリアの老舗「ヴィターレ・バルべリス・カノニコ」のストック生地を活用したもの。

そうして相談を重ねるうちに、「〈ヴィターレ・バルべリス・カノニコ〉のストック生地、いわゆる残反を使ってみては」というアイデアに着地したんですよね。〈ヴィターレ・バルべリス・カノニコ〉といえば、イタリアで350年以上の歴史を誇る高級生地の名門。UAでも大人気の生地ブランドですが、聞けばスーツやジャケットのパーソナルオーダーフェア用に限定生地として買い付けたストックが保存期限を迎えてしまうと、それを活用すればいいじゃん! という話になったわけですね。


サステナブルを“免罪符”にしたくない。

一光木さんからいただいた“ドレス”というキーワードと、本企画の趣旨である“サステナブル”を両立できる素材が見つかりました。そして我々がこだわったのは、“通常と同じロゴをつけて販売する”こと。

光木: つまり、“サステナブル用レーベル”を免罪符にしないってことですよね。サステナビリティを実現するために、クオリティやデザインを犠牲にしてしまっては本末転倒。だからあえていつもと同じロゴをつけることで、純粋に“いいモノ”を作りますよという決意表明をしていると。その姿勢には深く共感しました。そんな“本気度”をひしひしと感じたこともあって、僕からはあまり口を挟まず、どんなモノに落とし込むかはUAさんサイドにお任せしました。

一商品企画担当やデザイナーも相当頭を悩ませていました。そして完成したのが、カバーオールとトートバッグ、アヅマバッグの3型。

光木:仕上がりを初めて見たときは「おおっ!」と思わず声が出ましたよ。最高ですね。聞けば、カバーオールとアヅマバッグは、過去に大ヒットしたモデルをベースにして、そこに〈ヴィターレ・バルべリス・カノニコ〉の生地を乗せていると。もともとはかなりカジュアル顔のアイテムでしたが、素材によってドレス感が注入されていますね。

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レザーのハンドル&トリミングでドレス感をいっそうアップ。ハンドルは途中に“結び目”をつくってデザインのアクセントにしている。

一そしてトートバッグは、商品化寸前まで進みつつまだ世に出ていなかったデザインを採用しました。

光木:これも素晴らしい。高級感満点の顔つきなので、スーツやジャケットにも合わせられますよね。もちろんカジュアル使いしてもいい。すごく使いやすいと思います。


光木さんが思う、3つの“ここがすごい!”

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一ここで改めてご覧いただいていますが、ミツキ的おすすめポイントを伺えますか?

光木: まず、“コーディネートしやすい”ということ。多くの方々は週5日スーツやジャケットを着て過ごしていらっしゃると思いますが、それだけに年々カジュアルが苦手になってしまって、密かに悩んでいるという声もしばしば聞きます。でも、このコラボシリーズはいずれもスーツ生地を使っているので、ビジネスウェアと同じ方法論でコーディネートを考えられるはずです。それでいて、もともとはカジュアルアイテムだからカタ苦しくならない。いっぽうで、たとえばTシャツにデニムといったラフな服装に1点追加するだけで、さりげないドレス感をプラスすることもできます。この使い勝手が魅力ですね。

ふたつめは、“贅沢”ということ。だって、本来ならオーダースーツに使うような高級ファブリックを、普段使いのカジュアルアイテムに採用しちゃってるわけですからね。これは相当贅沢だと思います。もちろん、ウール素材を使ったカバーオールやバッグはこれまでにも多く存在していましたが、〈ヴィターレ・バルべリス・カノニコ〉のようなハイグレード素材を採用しているものはかなり珍しいはず。

と同時に、こういう組み合わせってものすごく“ツウ”でもあると思います。たとえば、高級テーラーでいつもオーダースーツを仕立てているエグゼクティブが、“そうだ、この生地で休日用のアイテムも作ってみてよ”とテーラーに持ちかけて仕立てさせたような…。おしゃれを知り尽くした達人の遊び心みたいなものを感じるんですよね。

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日本伝統の“あずま袋”にインスピレーションを得た「アヅマバッグ」。シンプルな構造ながら、スーツ生地を採用することで上質感を表現。

そして最後に、“ありえないコスパ”! このカバーオールなんて、こんなにリッチなドレープ美を備えていて、長く着られるよう見えないところまでしっかり作ってあって、なのに3万円台ですよ。仕事柄ハイコスパのモノは見慣れていますが、これには驚きました。もし、同じ生地でスーツを作ったら…いや、本当にありえない価格設定です。

もちろんそこにはしっかり理由があって、ユナイテッドアローズも『Begin』も、この新しいサステナブル・プロジェクトに大きな意義を見出しているということ。ビジネスじゃなく、ムーブメントとしてこれから根付かせていきたいからこそ、利益はともかく全力で“いいモノ”を作ってみよう! という心意気ゆえなんです。なので、少しでも多くの方々に応援していただきたいですね。


だれかが“Beginする”きっかけをつくりたい。

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一おっしゃるとおりです。ところでこのコラボアイテムは、応援購入サービスのサイト「Makuake」の限定企画になっています。『Begin』は公式のオンラインショッピングサイト「Begin Market」も展開していますが、あえて「Makuake」限定とした理由はなんですか?

光木: それは、クラウドファンディングによるバイ・オーダー(受注生産)がサステナビリティにつながると考えたからです。普通の形態で販売しようとすると、在庫を抱えなくてはいけません。もし、それで廃棄が出てしまったら意味がないですからね。「Makuake」とは他にもいろいろなプロジェクトを進めています。”Begin“と”幕開け“って同じ意味だから、いいパートナーですよね(笑)。

一確かにそうですね(笑)。ちなみに当プロジェクト、「Makuake」での公開直後から多くのご注文をいただき、早々にプロジェクト達成となりました。上々の滑り出しとなったわけですが、今後の展望についてもお聞かせいただけますか?

光木: これ一回限りではなく、シリーズ化して続けていきたいですよね。協業を通していろいろと気づくこともあるでしょうし、そこからまた面白いプロジェクトが発生してくるかもしれません。

そしてお客さまにとっても、僕らの取り組みがなんらかの気づきになって、サステナブルなことを“Beginする”(はじめる)きっかけになってくれれば最高だと思います。一朝一夕に成果が出るものでもないでしょうけれど、それこそ持続可能性な形でじっくり取り組んでいきたいですね。俺の体型は持続不可能だけど(笑)。

INFORMATION

PROFILE

光木 拓也

1977年生まれ。ワールドフォトプレス『mono magazine』編集部を経て2006年に世界文化社(現・世界文化ホールディングス)入社。以来『Begin』一筋で主にファッションを担当。2017年〜2021年まで同誌編集長を務める。現在はメディアをまたいで新規事業開発に注力。“中坊マインド”を座右の銘に、既存の出版ビジネスを超えた制作チーム「ファンベースラボ」を率いるディレクターとして奮闘中。

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