ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

初代靴磨き世界王者が考える、“靴を磨く”ことで得る豊かさ。

モノ

2026.08.19

初代靴磨き世界王者が考える、“靴を磨く”ことで得る豊かさ。

靴を磨くことは汚れを落とし、艶を出すだけの行為ではありません。一足の靴と向き合い、手をかけた分だけ応えてくれるモノを育てていくこと。そしてその先に、自分らしいスタイルや暮らしの豊かさを生み出すこと。今回お話をお伺いしたのは、日本発のシューシャインブランド〈Brift H(ブリフト アッシュ)〉を創業し、2017年にロンドンで開催された靴磨き世界大会「World Championships of Shoe Shining」で初代王者に輝いた長谷川 裕也さん。路上での靴磨きから人生の使命を見出し、世界王者というタイトルまで手にした長谷川さんの奇想天外な歩みと、“靴を磨く”ことがもたらす豊かさについて語っていただきました。

Photo:Takehiro Sakashita
Text:Mikiko Ichitani

路上から世界チャンピオンへ──靴磨きという仕事との出合い。

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ー靴磨きをはじめられたきっかけを教えてください。

靴磨きをはじめたのは2004年、僕が20歳のときでした。当時は日雇いの派遣の仕事をしていたのですが、仕事のない日が続いて生活に行き詰まったときに、少ない元手でなにか出来ないかと思いついたのが路上の靴磨きでした。道具も知識もなく、100円ショップでセットを買って「これを塗って拭けばいいだろう」というくらいの感覚ではじめました。いま考えると無謀な話ですよね。
ー靴磨きという仕事のどのような部分に惹かれましたか?

東京駅近くの丸の内ではじめて3年半程続けたのですが、当時は駅前にわずかに残る高齢の職人さんか、老舗ホテルの地下にあるシューシャインコーナーくらいしかなく、いわば絶滅危惧種のような職種でした。客単価の相場も路上では一足500円程度が基本で、下に見られることの多い仕事。それでも10分、20分で目の前のお客様の靴がキレイになり、みなさん気持ちよく帰っていかれる。僕はこの素晴らしい文化がなくなっていく前に、靴磨き職人の地位と価値を上げたいと思うようになりました。

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ー2008年には青山に「Brift H」をオープンしました。なぜこの場所を選んだのでしょうか?

かねてから靴磨きをファッションの世界に持っていきたいと考えていました。靴磨き屋は駅前やホテルなど人が集まる場所にあるのが普通ですが、僕はわざわざ足を運んでもらう場所にしたくて、駅から少し離れたこの場所に店を開きました。店名を〈Brift H(ブリフトアッシュ)〉にしたのも、靴磨きだけに留まらずレザーケア全般やファッションとしての切り口を持ちたかったところにあります。職人がスーツでカウンターに立つスタイルや、レザーと同様にお店自体がカッコよく経年変化していく内装にもこだわりました。
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ー価格設定はどのように考えていかれたのですか?

靴磨きの価値を上げるためにあえて高く設定し、需要に合わせて改定してきました。初めのうちは松竹梅をつけて価格の幅を広げたり、時間や工程を増やして付加価値をつけたりと試行錯誤しましたが、最終的にベーシックなシューシャインメニューに落ち着きました。この業界のプライスリーダーとして、僕らが価格を上げることで業界全体の価値を上げていきたいという思いもあり、いまでは指名料を含めて一足2万円をいただいています。
ー2017年にロンドンで初開催された世界大会に出場されましたね。その経緯や内容について教えてください。

イタリアで靴職人をしている友人に勧められて出場したところ、優勝することが出来ました。世界中から集まった参加者が制限時間20分の中で、同じ靴の片足のみという条件で一斉に磨き、光沢の美しさに加えて、つま先とかかとの光を自然に繋げる「グラデーション」や、所作を含めた「プレゼンテーション」まで総合的に評価されます。

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ー世界と比べて日本のレベルはどのように感じていますか?

日本はものすごくレベルが高いと思います。この10年弱でロンドンの世界大会では僕を含めてうちから3人のチャンピオンが出ていますし、8回開催されたうち、6回が日本の方で、残りの2回はシンガポールの方が優勝しています。革靴自体は欧米由来の文化ですが、日本やアジアの職人たちのほうが技術を磨いて、独自の改良をどんどん進めている印象があります。

カウンターに宿る、シューシャインという体験。

ー青山店でお客様は、どのように過ごされているのでしょうか?

対面の場合は一足につき1時間程いただいて、カウンターに座ってお酒などのドリンクを飲みながらお待ちいただきます。ご希望の仕上がりを伺ったり、履き心地が気になる部分があれば革をやわらかくしたり色を調合したり。感覚としては美容師の仕事に近いと思います。
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ーお客様にとっての靴磨きの魅力とはなんだと思いますか?

カウンターでたわいもない話をしながら、お気に入りの靴がキレイになっていく過程を楽しむ方が多いです。1、2カ月に一度くらいのペースで通ってくださり、まわりには話せないことを話していかれる方もいて、まさにバーのような場所になっている面もありますね。また、定期的に預けに出される方もいらっしゃいます。そういう方にとってはクリーニングのような役割として活用いただけているのかなと思います。

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ーケアの頻度やホームケアとの使い分けを教えてください。

よく申し上げるのは「10回履いたら1回磨きましょう」という目安です。履かない靴も少しずつ乾燥して硬くなるので、年に1回はホコリを払ってクリームを塗ってあげるのがおすすめです。普段はご自身でブラッシングなどのお手入れをしていただき、スーツを数年に一度クリーニングに出すのと同じように、年に1回くらいはプロに任せていただく。そんな使い分けがちょうどいいと思います。

シューシャインを通して感じる、UNITED ARROWS社(以下、UA社)社と〈Brift H〉の親和性。

画像 ブリフトアッシュの店舗、UA店舗でも担当してくれている上別府 生さん。靴を磨いている間の会話も楽しみながら受けられるシューシャインサービス。

ー2022年から隔週で〈Brift H〉の職人が〈UA〉六本木店のシューシャインブースでサービスを提供しています。UAとの取り組みを通して感じる親和性について教えてください。

実は僕らが入る前から、六本木店にはシューシャインコーナーがありました。UA社の経営理念である『真心と美意識を込めてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける』という考え方と、靴磨きは相性が良かったのだと思います。普通のセレクトショップは洋服を売ることがメインですが、UA社は靴磨きもファッションの一部としてきちんと捉えている。洋服だけでなく、靴磨きを含めた文化をお客様へ提供しているところに親和性を感じています。
ー青山店とのサービスの違いは?

六本木店は基本の時間が30分なので、コバにインクを入れるといった工程は省き、いちばん時間のかかる艶出しに集中します。今回のメニュー改定では、ワックス前まで仕上げる『クイックシューケア』(10〜15分)も新設しました。こちらは丸の内店と六本木店で展開していて、六本木は基本的には月2回、第2・第4日曜日(8月は第5日曜、月によって変動あり)に伺います。上記店舗では20万以上の革靴を購入頂いた場合にケアを施す『プレメンテナンス』サービスも行っています。

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ーお客様の層や求められるモノに違いは感じられますか?

〈UA〉のお客様はとても幅広いです。ドレス志向の方はもちろん、スニーカーのメンテナンスを聞かれることも多く、老若男女問わずご利用いただいています。UA 六本木店ではメンテナンスを習慣化していただきたいという想いから、メニューの幅を広く持たせています。
カウンター越しに職人の技術を見ながら会話をして磨いてもらう感覚も味わっていただけているのではと思います。ケアで長くキレイに履け、革がやわらかくなって履き心地もよくなる。お預かりすることもできるので、洋服を選んでいる間に靴をキレイにする、という体験がもっと手軽に当たり前の存在になれたらいいなとも思いますね。

“その人らしさ”が表れるからこそ、全ての方にシューケアを。

画像 新ライン「 LAZY SHOESHINE 」のPOP UPを2026 年 8 月 19 日 (水)〜 8月24 日(月)に千駄ヶ谷のUNITED ARROWS LTD. STOREにて開催。
(住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷1-18-5 ヒューリック将棋会館千駄ヶ谷ビル 1F)

ー紳士靴・革靴離れやカジュアル化が進む中で展開される、新商品スニーカー向けケア用品「LAZY」について教えてください。

この世界は強いモノではなく、変化に対応するモノが生き残る。だから、僕らもピカピカに磨くことだけが正解だとは思っていません。カジュアルな靴でも大事に長く履きたいという方に向けて、もっと手軽に靴がキレイになるプロダクト『LAZY(レイジー)』を作りました。ラインナップはクリーニングが中心で、スニーカーやお手入れが簡単な革靴向けのアイテムが多く、ナマケモノのロゴにストリート感のあるデザインを施しています。

シャンプーやフレグランス、消しゴムなど全アイテムにオリジナルの香りをつけ、靴磨き道具の独特なにおいのイメージを刷新しました。パッケージは真空パックで、開けた瞬間に香りが広がるようフレグランスカードを封入しています。使い方はシンプル。泡タイプのシャンプーをつけてグローブで拭き取り、最後にフレグランスで香り付けする3ステップです。玄関に置いておくだけでも様になる、香りで気分が良くなる、そんなケア体験をご自宅で習慣にしていただけたらと思って作りました。

  • 1 基本は泡タイプのシャンプーをつけてから拭き取るというシンプルなステップ

  • 2 グローブ拭き取る

  • 3 フレグランスで香り付けする
ーお手入れで気をつけるべき点はありますか?

スニーカーはスエードと布の組み合わせなど素材のコンビネーションが多様です。道具を選ぶ前に、まず素材をよく見ていただきたいです。シャンプーで濡らすことで革の色が布に移ってシミになることもあるので、その場合は消しゴムを使うなど、素材に合わせた使い分けが大切です。

画像 簡単な汚れや濡れ跡が残るような素材には消しゴムを使って落としていく

ーケアをしながらモノを長く使うことの価値について、長谷川さんご自身はどのように考えていますか?

洋服も靴も、買って終わりではありません。靴磨きは髪型のセットに少し似ていて、普段はケアと栄養補給だけで十分ですが、時々ワックスで光らせるとパーティーにも使えますし、ファッションをより彩ってくれる素敵な文化だと思います。レザーは手をかけた分だけ応えてくれて、ツヤが出て、シワさえもカッコよくなっていく。
ただ履いているだけではボロボロになるだけで、それはエイジングとは呼びません。正しくケアをしながら使い続けることで、モノだけでなくその人らしいスタイルも出来上がっていく。着こなしと同じで、靴にもその人らしさが表れますし、足元はいわば鏡のようなモノだと思います。

靴磨きの文化を広げ、日本から世界へ。

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ー最後に、長谷川さんの今後の展望を教えてください。

靴磨きの文化を広げていくことが、僕のいちばんの使命だと思っています。そのためにはまず、靴磨きを体験してもらう機会を作ること。タッチポイントを増やし、『LAZY』のようなプロダクトも含めて、靴がキレイになることで生まれる心の豊かさや心地良い体験を広げていきたい。それが根付いて、歯を磨くのと同じように靴を磨く習慣が若い世代にも広まって欲しいと思っています。

また、日本で磨き上げてきた靴磨きの技術は海外にも輸出出来るモノだと考えており、次は世界に広めていきたい。日本だけにとどまらず、世界中に影響を与えられるお店にしていきたいです。

INFORMATION

PROFILE

長谷川 裕也

長谷川 裕也

2008年に〈Brift H〉を創業し、本格靴磨きという新境地を開拓。2017年にはロンドンで開催される靴磨き選手権でチャンピオンに輝き、名実ともに業界のトップランナーとして地位を確立した。2024年4月をもって靴磨き職人としては引退し、「靴磨き家」として新たなステージへ。その活動にますます注目が集まっている。

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