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日本初のLWGゴールドランクを取得した世界基準のタンナーと「オデット エ オディール」のオリジナルレザー

モノ

2024.09.05

日本初のLWGゴールドランクを取得した世界基準のタンナーと「オデット エ オディール」のオリジナルレザー

世界的な有名ブランドが数多く加盟する、レザー業界の国際環境団体〈レザーワーキンググループ(以下LWG)〉。その最高位であるゴールドランク認証を日本で初めて取得した〈繁栄皮革工業所〉と〈オデット エ オディール〉が、革問屋を通じて出会い、共鳴。新たに開発したオリジナルレザーを採用しブーツとローファーを3型発売します。LWG認証のレザーを使用することで、ユナイテッドアローズ社が掲げている“SARROWS”の取り組みにある環境配慮商品の基準を満たし、サステナビリティにも繋がっています。今回は、〈繁栄皮革工業所〉のこれまでの歩みやLWGゴールドランク認証を取得するまでの取り組みから、新作へのこだわりなど、副社長の中嶋 正樹さんにお話を伺いました。

Photo:Yuko Sugimoto
Text:Riho Abe

日本初のLWGゴールドランクを取得した〈繁栄皮革工業所〉。

―靴、財布、ベルトなどに使われるレザーを製造し、ファッションやスポーツの有名ブランドから高い評価を得られている繁栄皮革工業所。まずは会社のこれまでの歩みを教えてください。

弊社は皮革の産地である兵庫県たつの市に、1928年に創業しました。全世界のレザーの生産量のうち8〜9割は、「クロムなめし」という技法が取り入れられているのですが、創業者の中嶋 治一は、昭和初期に「クロムなめし」の技法をこの地域に広めた人物でもあります。そして、先代の中嶋 裕文が社長の時に、ちょうど日本は高度経済成長期ということもあり、会社がどんどん大きくなり、2005年には先代の娘である中嶋 あすかに経営者のバトンを引き継ぎました。レザーの本場であるイタリアから、薬品情報や工程上の技術を習得する為に動き始め、2013年には私も会社に加わり本格的に環境面や労働面を整えていきました。

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―レザー業界では、世界共通で常識となっているLWG認証の詳細と取得したきっかけについて、教えてください。

LWGとは、複数のブランドが2005年に立ち上げた国際団体で、生皮から完成皮革までサプライチェーン全ての関係者を認定するための基準を策定、認証している機関です。皮革製造業者、皮革取引業者、委託製造業者、下請け業者など各業者にそれぞれ厳しい査定基準が設けられており、クリアした業者にのみLWG認証を与えられます。我々、皮革製造業者は、主に「製革業者の工場内において、環境面や労働安全面に配慮した工業操業がされているか、正規の手続きを踏んだ原材料を調達し、レザーから有害物質が検出されない製革技術が確立されているか」という観点で認証が与えられているものです。現在、世界的メゾンは、LWG認証を取得している製革業者からレザーの供給を受けることが常識となっています。LWGは、2年に一度の査定があり、標準合格・ブロンズ・シルバー・ゴールドの4ランクに分かれています。2016年に我が社がイタリアで開催されたレザーの世界的展示会「リネアペッレ」を訪問した際、どのブースにもLWG認証のロゴが掲げられており、この流れに乗り遅れると我が社の未来はないと直感し、すぐにLWG認証の取得への準備に取り掛かりました。

画像 LWGのゴールド認証証明書。


LWGゴールドランク取得への道のり。

―LWGの最高位であるゴールドを取得しているのは、日本国内では繁栄皮革工業所1社のみ。本当に素晴らしいことだと思いますが、経緯や取り組みについて教えてください。

LWGのゴールド認証を取得するには、約250項目にも及ぶ監査項目を全てクリアしなければなりません。そこで、まず最初に生産体制を徹底的に見直しました。仕入れた原皮の保存管理や井戸の補修、有害物質検知器を取り付けるなど、手探りながらも生産体制を整えて、2018年に標準合格ランクを取得。次の2021年にシルバーランクへ昇格、そして昨年2023年には念願のゴールドランクへ昇格することができました。認証は2年おきに更新となります。毎月成分検査を提出したり、2年に一度の工場検査もあります。ゴールドを維持し続けることは大変なことではありますが、何より信頼に足る制度だと思っています。同じくゴールドを取得している名門タンナー同様に、全世界中のどこにでも我が社の革を届けることができます。
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繁栄皮革工業所では、製造工程の全てをデータ管理している。LWGを取得して以来、有名ブランドから多くの人が工場視察に訪れる。

―繁栄皮革工業所の強みを教えてください。

我が社では原皮の調達から仕上げまで全て一貫生産を行なっているので、原材料の選定からレザーの完成に至るまでの全てを把握することができます。また、同業他社に比べて、生産の全プロセスをデータ化しています。この革を作るにはこのレシピ、というふうに工程が全て決まっているんです。過去のデータも全て保存しているので、色やツヤ感など、同じものを忠実に再現することができます。日本には300社ほどタンナーがありますが、データ化を実施している会社は極めて少ないです。そして何よりの強みとしては、従業員がとても協力的なことです。LWGゴールドを取得できたことも、全従業員の協力あってのものだと実感しています。

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〈オデット エ オディール〉が依頼したオリジナルレザーのアイテム。

―今回、〈オデット エ オディール〉とのコラボレーションのきっかけを教えてください。

長くお付き合いのある浅草の革問屋さんを通して、ご紹介をいただきました。オリジナルレザーで、ブーツを作りたいというオーダーでした。ユナイテッドアローズさんは、日本発祥の素晴らしいブランドだと思っています。今回の〈オデット エ オディール〉のオリジナルレザーで世界的な品質や安全性が担保されている本物の高級レザーの良さを、多くの方に知っていただける良い機会だと思い、ぜひお取り組みさせてくださいと返事をさせていただきました。


―オリジナルレザーを生産したというところで、特にこだわった点はどんなところになりますか?

今回、ブーツ2型とローファー1型ができました。実は、ブーツというのはとても難しいんです。さらに1枚の革に対して、裁断できる足数がとても少ないこともあり、弊社の営業担当者が、約1年ほど何度も打ち合わせや試作を重ねて、ようやく完成しました。

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画像 上からスクエアトゥロングブーツ、バックZIPジョッキーロングブーツ、ハイカットビットローファー

今回のオリジナルレザーで使った原皮は、レザー自体の傷が少なくきめ細かい美しい革なので、靴に向いているものといえます。オリジナルレザーは2種。ブーツやローファーに使えるくらいしっかりと地厚な「ラモーン」は、ジョッキーブーツに使われています。シワが入りにくいのに、適度なやわらかさがあるのが特徴です。そして、スクエアトゥロングブーツとローファーに使われているのが、よりソフトな「フィオーレ」。足入れはしやすいけれど、履いていないときに倒れないくらいハリ感もあります。今回できあがった製品は非常に素晴らしいと思っていますし、何より〈オデット エ オディール〉のみなさんが我が社のレザーを気に入ってくださったことが嬉しいです。
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左:「フィオーレ」右:「ラモーン」
「ブーツの甲部分はセンターに縫い目を入れたくない為、クリッピングという加工を行います。1枚のパーツに熱と力を加え、甲の反りに合わせて平面を立体に癖づけする加工になります。加工する際、シワが出にくい種類を模索していました」と、〈オデット エ オディール〉の生産担当の國岡さん。


これからも真面目に革づくり、モノづくりを続けていきたい

―最後に、今後の展望を教えてください。

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日本でこの先も長く製革産業を続けていきたい、ただそれだけです。私たちは、真面目にレザー作りに取り組んでいます。真面目だったら、ブランドをはじめ多くの方に喜んでもらえると信じています。今回のコラボレーションを手に取ってくださったお客様に、レザーアイテムの魅力や私たちのレザー作りへの熱意が伝われば嬉しいです。また、モノ作りは継続することが大切だと常々感じています。せっかく始まった〈オデット エ オディール〉とのモノ作りを、今後も真摯に続けていけたらと思っています。

PROFILE

繁栄皮革工業所

繁栄皮革工業所

皮革の産地である兵庫県たつの市で1928年に創業。原皮の調達から仕上げまでの一貫生産体制で、上質な高級レザーを提供し多くのファッションブランドから高い評価を得ている。2023年には日本の製革業者として初めてLWG認証ゴールドランクを取得。
https://hanei-ny.jp/

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