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長く愛せる極上の服。「DRAWER」の丁寧なものづくり

モノ

2024.09.12

長く愛せる極上の服。「DRAWER」の丁寧なものづくり

丁寧な縫製によるラグジュアリー感。ひと目で上質だとわかるマテリアル。カジュアルなアイテムであっても匂いたつ品格。着る人の魅力を際立たせるシルエット。〈DRAWER(ドゥロワー)〉の服に漂う極上感は、アーティスティックディレクターであるMasaki Matsushima氏による、妥協を知らないものづくりから生まれています。今回、特別にアトリエでの撮影、取材を敢行。Matsushima氏から紡がれる言葉から、〈DRAWER〉の真摯な姿勢、愛される理由を紐解きます。

Photo:Masahiro Sambe
Text:Shiori Fujii
Edit:Shoko Matsumoto

着る人の佇まいまでをもエレガントに魅せる服。

魅惑的に遠くを見つめる女性のドレス。ツイードのジャケットに、何連にも重ねたネックレス。クラシカルな帽子と大ぶりのイヤリング。幾重にも重なったフリルの襟。ドラマティックに裾が広がるドレスコート。アトリエにずらりと並ぶイラストは、Matsushimaさんが〈DRAWER〉のために描き起こしたイメージクロッキーや、それを基に具象化したデッサンです。Matsushimaさんがこれらを描き、デザインを進めるなかで常に考えていることは「この服を着る人が幸せでいられるかどうか」ということ。

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「どんなに素敵なドレスでも、着るシーンがなければ意味がありません。だから、社会や時代との適合性は大切。日常生活に馴染むことを考えたうえで、〈DRAWER〉の服は、着る人の背景にエレガントな暮らしぶりを想像させるような、ある種の非日常性も取り込んでいきたいと思っています」

ブランドネームが、「英国では引き出しの上段に上質な物を入れていた」という古の慣習に由来しているとおり、〈DRAWER〉のアイテムは際立った上質さと洗練が特長。とはいえ、Matsushimaさんはコンセプトにとらわれることなく、真摯に服をつくることで本質を探求し続けてきました。

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「〈DRAWER〉の原点というと、ヴィンテージ感のあるような素材とか、ノスタルジックでロマンティックなテイスト、ちょっとボヘミアンな雰囲気などが“らしさ”なのかなと。それを現代的にアップデートすべく、マスキュリンとフェミニンをミックスさせたり、異なるボリューム感を対比させてコントラストをつけたり、ワークウェアのディテールを今のモードと掛け合わせたりしています。そういうハイブリッドもまた、独自のスタイルと言えますね。例えば、スポーツウェアやデイウェア、イブニングドレスなど、さまざまな要素をリミックスする場合は、スウェットであってもカシミヤ素材だったり、ドレスだけど歩きやすい丈だったり、〈DRAWER〉スタイルにモディファイするわけです。時代を超越した伝統的なもの、普遍的なものへのリスペクトは大前提としたうえで、きっちりとしたフレンチオートクチュールワークをベースに進化させていく。すると、自ずとブランドのスタイルが現れていくのだと考えています」

オートクチュールの技術に基づいた服づくり。

服づくりは、店頭に服が並ぶ約1年前に、Matsushima氏がそのシーズンのイメージを表現するクロッキーを描くことから始まります。

「3か月ごとに、今はどんな感じの女性像が気になっているのかな、と自分と向き合います。パリと東京を行き来するフライト中に好きな本を読み、イメージを膨らませ、スケッチをするのです。ジーン・セバーグの顔が思い浮かぶこともあれば、店頭で見かけた女性であることもあり、90年代のスーパーモデルのこともある。そこからアトリエのデスクに座り、クロッキーを描く。最初の10枚を描くのはものすごく苦しいけれど、15枚目くらいからどんどん手が動くようになります。そのなかから〈DRAWER〉に合うものを選び、それを基にテキスタイルをチョイスする。そして、選んだ生地のサンプルを貼ったマテリアルボードを見ながら、月ごとの具体的なデザインを起こしていきます。こんなふうにイメージクロッキーを基に進めていくのは、フランスをはじめとしたヨーロッパのやり方で、日本のブランドでは珍しいかもしれません」

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これは、フランスのメゾンで修行を積んだクチュリエだからこそできること。Matsushimaさんは23歳で渡仏し、パリで学んだ後、TOKIO KUMAGAÏのメゾンに参加。朝から晩までデザイナーの熊谷さんに張り付いて、アトリエワークから工場とのやりとり、ランウェイでのショーの手配まであらゆることを学びました。28歳で独立してご自身のブランドを立ち上げてからも、クリエイティブの幅を広げるため、オートクチュールメゾンも並行して手がけています。

「オートクチュールでは、お客さまと直接話して、目の前でクロッキーをいくつか描きあげます。そこから選ばれたデザインを、イメージに近い布を使って、直接ボディに着せつけながら形作っていく。それを基にパターンを起こし、服に仕上げていくので、世界でたった一つの服になる。インナーに至るまでオーダーメイドじゃないと成り立ちません。〈DRAWER〉の服は、このオートクチュールの技術をベースにつくっています。つまり、ビッグメゾンのアトリエで行われていることと同じレベルの服づくりなのです。だからこそ、着る人を輝かせる力がある。ランウェイに出るようなビッグメゾンの服って、心を奪うんですよ。見た瞬間から、〝この服が着たい!〟と思わせる。そんなメゾンの隣に〈DRAWER〉は出店しているので、お客さまからは同じクオリティが求められているわけです。メゾンのものより現実的な価格だけど、組み合わせても遜色がないクオリティ。それを叶えるためには、オートクチュールの本場であるパリのやり方でつくるしかありません」

画像 クロッキーも、オートクチュールの技法に添ったもの。

「今はパソコンでデザイン画も描けてしまうけれど、手で描くからこそ、ギャザーの取りかたや細かなレングスまで、奥行きのあるニュアンスが伝わります。私の頭の中には、肌の色まで具体的な女性像と、アクセサリーやメイクアップまでも含めたコーディネートが出来上がっている。それをスタッフたちとシェアして、チームで形にしていくためには、直筆のデッサンが欠かせないのです」

服づくりの根幹となる、妥協なき素材選び。

細部のディテールに至るまでスタッフにきちんと伝わるよう、デッサンに生地や色の指定も細かく書き込みます。特に大切なのは「デザインの6割を決める」というテキスタイル。
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「テキスタイルメーカーがこちらの依頼に合う生地を詰めたトランクを持って来て、そこからさらに絞り込んでいきます。クロッキーを基にバイヤーが展示会で生地を買い付けることもありますが、メインはイタリアの生地メーカーに依頼したオリジナルを使用しています」

使う生地はすべて最上のものばかり。もちろんその取り扱いにも高度な技術が要求されます。
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「これはウィスカースというオリジナルのジャカード生地を使っています。緯糸を曲線にハンドカットすることで羽のような柄を立体的に表現するという、とても手間がかかるもの。スカートはフレアーに仕立てているので、動くと広がる様子がなんともエレガントです」

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「そしてこのスカートはマトラッセ(ふくれ織り)という二重織で、凹凸がある風合いが特徴。ささやかな光沢感が、なんとも上質なムードをまといます」

「システム化された工場ではなかなか扱えないでしょうね。だからうちでお願いしている工場は一流ですし、縫製においても手作業でしかできない部分が3割を占めています。熟練のアトリエチームが頑張ってくれているから、納得する服づくりができているのです。その生地を仮縫いするのは、パターンを作る前の重要な作業。ですから、すべての服の仮縫いを自分で行なっています」

イメージを固め、デザインし、テキスタイルを選び、仮縫いする。ディレクターにしかできない仕事の多さとストイックな姿勢には、想像を超えるものがありました。

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「私自身は、洋服はみんなでつくっていると常に考えています。なぜならば、洋服はコミュニケーションのクリエイションですから。チームのメンバーが同じ気持ちで、同じ目標を持っていないと、良い服は作れません。クリエイティブに関して深くディスカッションする関係であるということもまた、クチュールレベルの服づくりなのです」

〈DRAWER〉の原点を思い出させるBoudoirコレクション。

2024年AWのテーマは「Boudoir(ブドワール)」。17〜18世紀にあった貴族の女性専用の私室のことで、最先端のファッションで装った婦人たちが集まって、お酒を飲んだり、おしゃべりをしたり、優雅な時間を過ごすためのサロンのような空間でした。

「デザインに取り掛かった1年前は、〝クワイエットラグジュアリー〟とか〝ミニマリズム〟が強調されていた時期。それではちょっと面白くないな、と感じていたんです。お客さまは〈DRAWER〉の服を、〝自分がどうありたいか〟を考えて選んでいるのだから、もう少し個性を主張するメッセージが欲しい。着ることが、幸せな自分へと導いてくれるように。そこで、女性が日常から離れて至福の時間を過ごしていたという〝Boudoir〟で、現代の女性たちはどんな服を着るのかな、という想像からコレクションが生まれました」

このコレクションを代表する4タイプのコーディネートを、解説していただきました。
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「例えばこのボウカラーのワンピースは、ランダムプリーツを邪魔しないよう、ウエストをインサイドアウトでデザインしています。紐でウエストを調整できるので、きゅっと締めてハイウエストにし、ソックスとヒールを合わせると今っぽくなるし、紐を緩めてローウエストにすればフルレングスのリラックスしたムードになります。全体的に柔らかい表情なので、ヘリンボーンのジャケットを合わせました。15mm幅のレザーベルトでウエストマークしてマニッシュさをプラスすると、バランスがよくなりますね。これはポール・ポワレ(ベル・エポック時代の伝説的なクチュリエ)の時代のニュールックと言われるテクニックです」(LOOK左上)

なかでも生地へのこだわりが伝わってくるのは、ブラックのセットアップ。繊細な風合いの生地と、袖やボディのコクーンシルエットに気品が漂います。(LOOK右上)

大人の女性がバランスよく着こなせる服が多く見つかるのも、〈DRAWER〉が人気の理由。着姿が美しいと評判のパンツも頼れるアイテムです。

「身体にフィットしすぎず、ほどよくゆとりのある絶妙なシルエットも大切にしています。着ていて動きづらかったり、緊張してしまったりすることがないように、服と体の距離を計算して仮縫いしているのです。こちらは13.3オンスのデニムでワイドレッグに仕立てたパンツに、ケヌキのノーカラーコートを合わせて。このフラットなビッグポケットも今シーズンの特徴ですね」(LOOK左下)

いっぽう、ラメの効いたブリティッシュチェックのスカートには、ウールシルクのダブルフェイスのジャケットを合わせて。端正な仕立てに、タイムレスな魅力が溢れています。

「ジャケットはダブルのPコート要素を取り入れたデザインで、フォックスファーのポケットがポイントです。スカートのウエストはタイトに、太もものあたりから広がるフォルムです」(LOOK右下)
パーソナルなインタビューやアトリエでの取材は基本的にNGとしているMatsushimaさん。そこには、「洋服に余計な色をつけたくない」「伝えたいことはすべて服で表現している」という想いがありました。今回、特別に受けてくださった取材から伝わってきたのは、マーケティングや価格競争とは別の次元にある覚悟のようなもの。Matsushimaさんは繰り返し話します。
「自分たちが納得するものをきっちり作り続けていれば、お客さまには伝わるはず。それが本質であり、ラグジュアリーということなのです」

PROFILE

Masaki Matsushima

Masaki Matsushima

1985年、熊谷登喜夫氏のアシスタントとして「TOKIO KUMAGAI」入社後、クリエイティブ ディレクターに就任。1992年に独立し、東京、パリに会社設立。翌年Paris Collection デビュー。同時にParfum発表、World Sales開始。2015年より「Drawer」ブランドのアーティスティックディレクターに就任。ヨーロッパを主にPrêt-à-Porter、Haute Couture Collection、ライセンス契約、ブランドディレクション、アート、建築、内装、舞台衣装、企業ユニフォームなど、多岐にわたりクリエイティブ ディレクターを務める。

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