モノ
2023.10.18
テクノロジーを駆使して、在庫リスクゼロを実現。「ZOZO」と目指す、ファッション業界の晴れやかな未来とは。
企業として、地球環境に配慮したサステナブルな取り組みが求められている今、ユナイテッドアローズは、それらの活動を「SARROWS」と名づけて、さまざまなアクションをおこなっています。アパレル業界が抱える大量生産、大量消費、また余剰在庫などの課題は、どうすれば解決に向かうのでしょうか。そのアプローチのひとつが「ファッション業界を、『在庫リスクゼロ』へ。」を目指す〈ZOZO〉のプロジェクト〈Made by ZOZO〉です。その驚きの内容とは? 気になる商品ラインナップは? 株式会社ZOZO(以下、ZOZO)のブランド営業本部 生産企画部 ブロック長の中西祥(あきら)さんと、株式会社ユナイテッドアローズ(以下、UA)メンズ商品本部 BY部 部長の尾澤聡さんに、じっくりお話を伺います。
Photo:Masashi Ura
Text:Maho Honjo
デジタルを活用して、注文ごとに一着ずつ生産する。
尾澤:ある調査によると、2022年度の衣類国内供給量のうち約3割、点数にするとおよそ11億点もの商品が売れ残りとなっているようです。できるだけ安く、できるだけ多くのお客さまに商品を届けたいと考える企業が乱立することで、本来つくる必要のない商品が生まれやすいという土壌があるんですよね。そこで「SARROWS」として掲げているのが「大量生産、大量消費を前提とした売上拡大志向からの脱却」です。「限られた資源で最大限の企業価値を創出すること」、つまり「適正量の商品を適正に調達し、無駄なく販売すること」を目指しています。その具体的なアプローチを探していたとき、ZOZOさんから「受注生産プラットフォームのプレゼンをしたい」というお話があったのです。
−それこそが「Made by ZOZO」なのですね。いったいどのようなプロジェクトなのでしょうか。
中西:「Made by ZOZO」とは、お客さまの注文ごとに1着から生産を行い、受注してから最短10日で発送し、お客さまの手元に届けるというまったく新しいプラットフォームです。これまで手作業でおこなっていた工場の作業をデジタル化して、異なるデザインの商品を同時進行で生産可能にするシステムを開発しました。生地の在庫はZOZOが持ち、お客さまの注文を受けてから生産に入るため、UAさんの在庫リスクはゼロ。これまで難しかったことですが、これが実現できたのは、ZOZOがテクノロジー企業である側面も大きいと思います。これまでのノウハウを注ぎ込んで、徹底したデジタル化により、この生産支援プラットフォームをつくり上げました。
中西: ZOZOはその昔、プライベートブランドに挑戦したことがあります。2017年に話題になったZOZOSUITを覚えている方もいらっしゃると思います。その際は何百、何千ものサイズ展開を目指していたため、生産システムにデジタル技術を投入することが必要不可欠でした。そのときに得た知見をいかせないかと考え、ならば中国にあるそのパートナー工場にて、受注生産を行うのはどうかという話になり、「Made by ZOZO」が立ち上がったのです。
−「Made by ZOZO」の第一弾は、UAなのですよね。数あるファッション企業から、UAを選ばれた理由を教えてください。
中西:「ZOZOTOWN」がここまで大きくなったのは、各ブランド様のご協力があってこそです。なかでもUAさんの出店が成長の起爆剤となったのは間違いありません。ならばまず最初にお話をさせていただきたいと考えたのです。上層部同士が話をしたのは2021年の年末。私が商品部の皆さまとお会いしたのは、2022年の年が明けてすぐのことだったと思います。さらにそこから先は、尾澤さんの存在なしにこのプロジェクトの実現はあり得なかったと思っているんです。
尾澤:生産から販売まで、商品の流れが既存のルートとまったく違うため、発注書作成のタイミングや、検品の基準、傷物品発生の可能性まで、かなり細かいところまで詰める必要がありました。財務部門や法務部門の協力を仰ぎ、どうにかスキームを完成させた形です。かなり大変な案件ではありましたが、私自身がこのプロジェクトに大きな可能性を感じていました。だからシステムはもちろん、クオリティ面も妥協することなく、ここまで運ぶことができたのです。
余剰在庫を抱えずに、サイズ、色、デザインを展開。
尾澤:私たちが「Made by ZOZO」にて展開している〈info.BEAUTY&YOUTH〉というレーベルがあるのですが、その売り上げが約4,000点に及びました。たとえばそれを既存のスキームに乗せて展開した場合、本来は一定の在庫を想定した数量をつくらないといけないのですが、「Made by ZOZO」では定価販売比率100%で、かつ在庫リスクがゼロ。要は、余分な在庫をつくらずに済んだのです。これは「SARROWS」が掲げる「限られた資源で最大限の企業価値を創出すること」をまさに体現したもの。素晴らしい取り組みができていると感じています。
−「Made by ZOZO」ならではの、アイテムの特徴はありますか?
中西:「在庫リスクゼロ」というメリットだけでなく、デジタルで管理しているからこそ、サイズを幅広く提案できるというのも、優れた特徴のひとつだと思います。たとえば、普段はつくっていないXSやXXLも受注可能。サイズがないことによるお客さまの購入機会ロスもなくなりますし、逆に珍しいサイズの余剰在庫を抱えることもありません。
−サイズが自在という特長を生かしてつくられた魅力的な商品があると聞いたのですが、詳細について教えてください。
尾澤: 〈グリーンレーベル リラクシング〉のシャツとパンツですね。シャツは袖丈が3バリエーション、パンツも裾丈が3バリエーションから選べるようになっています。さらに着丈が選べる〈info.BEAUTY&YOUTH〉のシャツもつくりました。プレーンな着こなしができる通常丈と、シャツコートのようなスタイリングが楽しめる少し長め丈をご用意しています。
〈グリーンレーベル リラクシング〉袖丈が3バリエーション、裾丈が3バリエーション
着丈が選べる〈info.BEAUTY&YOUTH〉のシャツ
尾澤:実はサイズだけではありません。カラーバリエーションも豊富に用意しています。商品展開を考えるとき、つい今までの癖で色を絞り込んでしまっていたのですが、よく考えるとその必要がないと気がついたのです。シンプルなホワイトやネイビーに加えて、ライムグリーンやライトピンクなど、繊細なカラートーンのシャツもそろえています。
尾澤:基本的にシャツ、ブラウス、パンツをつくる縫製工場であり、数多ある品番を効率よく生産していく工場さまでつくっているので、複雑な工程を反映できないなど、まだ課題はあるようです。ただ私たちが思い込みを外して知恵を絞れば、アイテムの幅が広がるとわかりました。それが〈info.BEAUTY&YOUTH〉のジャケットとパンツです。Gジャンライクなジャケットは、シャツ縫製をベースにつくったもの。ボトムスは、パンツ縫製をベースにトラウザータイプのデニムパンツに仕上げました。同じデザインでコーデュロイ素材も展開しています。
尾澤:さらに〈グリーンレーベル リラクシング〉で用意しているのが、ベーシックなテーラードジャケットやイージーパンツ。ジャケットをVゾーンの深いオープンカラーシャツと捉えて製作したもので、軽やかな着心地が楽しめます。
1億枚の服ではなく、1億人のために服をつくる。
尾澤:この「Made by ZOZO」は、私たちつくる側が既成概念を外して、感性をアップデートすることで進化できると感じています。そうすることでさらにアイテムバリエーションを広げ、お客様にお買い物の楽しさとサステナブルアクションの両方を提供していきたい。個人的には、コロナ禍でスタートした案件なので、ぜひ現地の工場に伺いたいなと。デジタル縫製で、どのように一着ができあがるのかを、この目で確かめたいですね。
中西:ZOZOサイドとしては、「よりクオリティを高く、より早く、より安く」を実現したいですね。まだ対応できるのがシンプルな仕様に限られているところがあるので、改善を図りつつ、よりクオリティを上げていきたい。また最短10日という発送までの日数をもっと縮めたいですし、効率を上げることで価格面にも反映させたいと思っています。そして長期的目標に掲げているのは「1億枚の服をつくるのではなく、1億人のために服をつくる」ということ。一人ひとりの思いに応えながら、ファッション業界の課題も解決していく。そのためのブラッシュアップを重ねていきます。
PROFILE
中西 祥
株式会社ZOZO ブランド営業本部 生産企画部 ブロック長
2012年、株式会社ZOZO入社。入社以来、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」やプライベートブランド等、新規事業の立ち上げに携わり、現在は、生産支援プラットフォーム 「Made by ZOZO」の営業を担当する生産企画部でブロック長を務める。
尾澤 聡
株式会社ユナイテッドアローズ メンズ商品本部 BY部 部長
2002年旧ブルーレーベル生産担当者として入社。その後生産責任者を経て2018年にメンズ生産課課長、2020年にメンズ商品部BY課課長に就任後、2021年から現職。