
モノ
2021.06.17 THU.
「ニューバランス」のモノづくりから学ぶ、サステナビリティのいまとこれから。
サステナビリティという概念が、ファッション業界においても、ここ数年で大きく浸透してきました。そんな折、〈ユナイテッドアローズ〉でも人気のブランド〈ニューバランス〉から、リサイクル素材やクロムフリースウェードなど、環境に配慮した生地を使用したスニーカーがリリースされました。「これを特別なことではなく、当たり前のことにしたい」と語るのはブランドのPRを担当する小澤 真琴さん。今回、シューズのバイイングを担当した浅子 智美さんとともに、ファッション業界におけるサステナビリティのいまとこれからについて語ってもらいました。
Photo:Wataru Kakuta
Text:Yuichiro Tsuji
地球環境にやさしいものをなるべく選びたい。
ーまずはじめに、〈ニューバランス〉で環境に配慮したサステナブルな素材を使ったスニーカーをリリースするに至った経緯や、目的を教えてください。
小澤:昨今、サステナビリティという概念が社会的にも大きな関心事になっていますよね。〈ニューバランス〉でも未来へ目を向けたときに、どういったことができるかを具体的に考えているんです。2030年までにCO2の排出量を削減したり、廃棄物を減らして、商品開発の際に環境にやさしい素材を使用するなど、企業として本格的な取り組みをスタートしたことが背景にあります。
浅子:ここ2年くらいでファッション業界でもようやく“サステナビリティ”という言葉が浸透してきて、洋服ではオーガニックコットンやリサイクル素材が使用されることが格段と増えてきましたよね。でもスニーカーは一足の中で使われているパーツが多いので、そうしたサステナブルな素材を採用しにくいとよく言われているんです。そんな中、わたしたち〈ユナイテッドアローズ〉にとって大変身近な存在である〈ニューバランス〉さんからそうしたスニーカーが出るということで、迷わずオーダーさせていただきました。
ー具体的にどういった素材が使われているのでしょうか?
小澤:いくつか種類があります。ひとつは「5740」のアッパーに使用したスウェードはクロムフリーで、化学薬品を使用せずに革をなめしていますね。そしてメッシュ素材は100%再生ポリエステルで作られています。
また、「992」のスウェットのような生地は、「スピンネックス」と呼ばれる素材です。繊維屑を再利用して作られていて、生地の30%以上はそうしたリサイクル素材が含まれています。
アウトソールに使われるガムラバーですが、白い斑点のようなものは不要になった素材を粉砕して盛り込んでいます。
「5740」のアッパーのスウェードはクロムフリーで、化学薬品を使用せずなめした革を使用。
「992」のサイドパーツには、「スピンネックス」と呼ばれるリサイクル素材を使用している。
不要になった素材を盛り込んだ、アウトソールのガムラバー。
ーこうしたリサイクル素材の開発は、やはり簡単なことではないのでしょうか?
小澤:単発でリサイクル素材を作ることは、そこまで難しいことではないと思うんですが、重要なのはそれを継続的にできるかどうかです。そうなると、やはり簡単にはいかなくなりますね。コラボレーションモデルや、注力モデルだけにそうした環境に配慮した素材を使うのではなく、定番的に展開しているモデルにも使うようにブランドとしても長期的な意識を持って商品開発をしています。
ー浅子さんは商品のバイイングをする際に、そうしたサステナブルな目線でアイテムを選ぶこともあるんですか?
浅子:お店に並んだときにお客さまに気に入っていただけるような、素敵な商品を選ぶということが前提ではありますが、地球環境にやさしいものをなるべく選びたいという気持ちがやはりあります。環境や社会問題にどう取り組んでいくか、きちんと考えていらっしゃるブランドやデザイナーさんが最近は増えてきました。とはいえ、小規模で展開しているブランドですと「やりたいけどできない」というお声もあるんです。そういうときは別注商品でサステナブルな素材に変えるなど、わたしたちも一緒になってアイデアを出しながら、環境にやさしい取り組みを進められるような提案を積極的にしています。
夏の着こなしに映えるカラーリングが魅力。
ーいくら環境に配慮しているとはいえ、履かれないと意味がない。そういう意味で、今回のシューズは色使いがとても魅力的だと思いました。
小澤:ナチュラルなイメージを持ちつつ、普段使いしやすいようにバランスを見てデザインしています。すごく可愛いカラーリングですよね。
浅子:弊社のお客さまはシンプルなスタイルを好まれる方も多いので、そうしたコーディネートに今回のアイテムのようなベージュ系の彩りが加わるとすごく華やかになりますよね。これからの季節にすごく映えるアイテムだと思います。〈ニューバランス〉といえばグレーが象徴的なカラーですけど、ベージュ系はそれに次ぐキーカラーですよね。
小澤:そうなんです。合わせやすくて、人気の高いカラーですね。
ーそれぞれのモデルについて、その特徴を知りたいのですが、まずはじめに「1400」から教えてください。
小澤:こちらはアメリカで作られているモデルです。1000番台のシューズは、〈ニューバランス〉のフラッグシップモデルの中でも最上位にランクします。1990年代に登場したのですが、当時はランニング用として開発されて、履き心地がすごくいいんです。「ENCAP」という構造を用いていて、安定性とクッション性が両立しているので、長時間履いていても疲れにくいのが特徴。こちらには「スピンネックス」がライニングに使用されています。
「992」と「1400」のインソールには天然素材のコルクソールを採用。自然な足馴染みが特徴。
ーでは続いて「992」の特徴もお願いします。
小澤:こちらもアメリカの工場で生産されているモデルで、こちらも「スピンネックス」がベースのレイヤーとして使われています。1982年に「1000点満点で、990点」という意味を持つ「990」というモデルが登場して、そのシリーズの9代目が「992」になるんです。2006年に〈ニューバランス〉がちょうど100周年を迎えたときに発売されたモデルで、昨年はじめて復刻をして再び注目を浴びました。なので、すごく人気のあるモデルですね。
ー3足目の「57/40(フィフティセブン/フォーティ)」の特徴を教えてください。
小澤:こちらは今年リリースされた新しいモデルになります。スウェードがクロムフリー素材で、メッシュはリサイクル100%のポリエステル素材、シューレースも同様にリサイクル素材です。
もともと80年代にトレイルランニング用に誕生した500番台のシリーズがありまして、そこから生まれた「574」というモデルがあるのですが、これはそのシューズをベースにデザインされています。90年代によく見られた流線型のデザインを現代的にアレンジして取り入れました。
ー浅子さんから見て、これらのシューズのおすすめのポイントはどんなところですか?
浅子:「1400」と「992」に関しては、アメリカ製ということもあって、すごくスペシャルな2足だと思います。この「57/40」はデザインの完成度が高くて、カラーリングも可愛いらしいですし、個人的にも推しの一足です。
サステナブルな流れを「特別」ではなく、当たり前にしていく。
ーちなみに、おふたりが日常でサステナビリティを意識して取り組んでいることはありますか?
小澤:レジ袋をもらわないようにエコバッグを普段から持ち歩いたり、食材も捨てるのはもったいないので、無駄にならないように使うことを意識しています。あとはペットボトルのゴミが増えるのがイヤだったので、ソーダストリームを購入して炭酸水を自分の家で作るようにしていますね。
浅子:わたしはサーフィンをやっていて、海のゴミやプラスチックの問題は以前から気に掛けていました。なので、なるべくプラスチック製品を買わないようにして、マイボトルを持ち歩いています。あとは最近コンポストをはじめて、生ゴミで堆肥を作っていますね。個人レベルでできることはなるべくしたいと思っていて、例えば買い物をするときも、安いペットボトル容器の食材を手に取るのではなく、高いけど資源リサイクル率の高い瓶入りのものを買うようにしたりと、ひとつひとつの選択をきちんと考えてするようにしています。買い物はいますぐできる意思表示だと思うので。
ー〈ユナイテッドアローズ〉のお客さまも、そうしたサステナブルな思考をお持ちの方は増えていらっしゃるんですか?
浅子:ここ2年ほどで増えてきた感覚があります。以前は店頭でこうした商品を提案すると、「いいですね」とおっしゃっていただいて受動的に購入されるケースがほとんどでした。でも、コロナ禍においてお客さまもご自身の身のまわりのものがどのような背景で作られているか、能動的に興味を持たれる方が増えてきた印象があります。
ーファッション業界でもサステナブルな流れが顕著になってきたというお話が先ほどありましたが、具体的にどういった取り組みをされているブランドが増えてきているのでしょうか?
浅子:今回の〈ニューバランス〉のアイテムのようにリサイクル素材や環境にやさしい生地を使うという王道的な取り組みをされているところがあれば、1年で着なくなる服を作るのはサステナブルではないから、長く着てもらうことを前提に将来ヴィンテージになるようなベーシックでクオリティの高い服を作るブランドも増えています。あとは、商品の売り上げの一部を、環境保全や人権を守る活動をしている団体に寄付するといった取り組みをされているところもありますね。いままでは素材でそれを実現するところが多かったのですが、その方法に多様性が出てきた印象です。
SDGsって「サステナブル・デベロップメント・ゴールズ」という言葉で、環境の持続性だけではなくて社会的な発展という意味もそこには含まれるので、より広くそうした概念が広まるといいなと思います。
ー〈ニューバランス〉も魅力的な商品を作るだけではなく、企業として社会貢献活動をされていますよね。
小澤:そうですね。アメリカの自社工場では街の人々の雇用を継続することを大切に考えていて、そこでは勤続30年以上の職人や、親子三代に渡って働いている方々もいます。あとは昨年パンデミックが起こったときに、シューズの製造をやめてマスクを作って医療従事者に配ったりもしました。わたしたちは世界中でシューズやアパレルを展開しているので、その中でできることを考えながら活動しています。
こうしたサステナブルな商品も特別なことではなくて、当たり前にしていこうという流れがブランドとして生まれています。先ほどもお話したように、単発で作るのではなくて継続することが大事だと考えていて、今後はより多くのモデルにこうしたサステナブルな素材が使われていく予定です。
浅子:〈ニューバランス〉ではシューズだけじゃなくて、ウェアでも再生ポリエステルを使用したアイテムを作っていますよね。
小澤:「グリーンリーフ」という基準を設けてサステナブルな商品を作っています。アメリカでは既に販売したものをリサイクルして次に活用する動きもスタートしていますね。やはり服をゴミとして捨ててしまうのは避けたいところです。
ーファッション業界のサステナブルな流れは今後どうなっていくと思いますか?
小澤:〈ニューバランス〉は2030年に向けて、工場や物流も含めて、使用するエネルギーを再生可能なものに徐々にシフトしはじめています。例えば工場にソーラーパネルを建てたりだとか、そういうこともサステナブルな活動のひとつだと思うんです。そうした取り組みをしながら、いろんな方面で少しずつ、変わっていこうと努力していますね。
浅子:いまはどのブランドや企業もその方法を模索している状況なのかと感じています。サステナビリティという言葉が大きく取り上げられて、それはとても嬉しいことなのですが、一方でトレンドとして消化されてしまうのはすごく悲しいことでもあって。
とはいえ、先ほどお話したように、いろいろなベクトルでサステナブルな取り組みをしているブランドも増えてきましたし、お客さまの意識が高まってきているのも感じているんです。そうして双方で少しずつ努力していくことで、社会的にもいい方向へ向かうのではないかと思います。日常のすべてをいますぐサステナブルにするというのはきっと難しいことだと思うので、自分たちでできることをコツコツとやりながら前に進めたらいいですね。
INFORMATION
PROFILE

小澤 真琴
ニューバランスジャパン マーケティング部PRシニアスペシャリスト。 大学卒業後ニューバランスに入社以来、マーケティング、PRに携わる。全カテゴリー、店舗、イベント、ブランドコミュニケーション、企業広報などニューバランス全般について幅広く担当。shop.newbalance.jp

浅子 智美
ユナイテッドアローズ ウィメンズ バイヤー 2006年、大学在学中に<ユナイテッドアローズ>にアルバイトとして入社。 ディストリクトやユナイテッドアローズ 原宿本店で販売職を経て、ファッションマーケティング部へ異動し、シーズンディレクションの企画等に携わる。2017年より現職。