
モノ
2018.10.18 THU.
お客様のリアルな声に徹底的に耳を傾ける「共創プロジェクト」。
時代やトレンドの移り変わりとともに常に新しくアップデートされるお客様のファッション観。〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉(以下、GLR)では、半年間、月に1度お客様に集まってもらい、率直な意見を伺い、そこから学び、ものづくりに生かす「共創プロジェクト」を行っています。プロジェクトはどのような学びの場なのか、実際の2018年のプロジェクト現場のレポートとともにお伝えします。
Photo_Ari Takagi
Text_Noriko Oba
お客様は、“今”どんな気分や視点で、何を求めているんだろう。
「お客様のリアルな声をもっと徹底的に聞こう」「その声を反映したアイテムづくりに改めて向き合おう」…そんな思いからスタートしたGLRの共創プロジェクト。「2010年にリブランディングの動きがあり、それがきっかけでこのプロジェクトが始まりました。これまでももちろんお客様の視点を大切にものづくりを行っていましたが、それでもまだまだ聞くべきことはあるんじゃないか、スピーディー変わっていく時代の中で働き方やライフスタイルも変化し、同時にお客様のファッション観も変化しているのだから、私たちは常に“今”の声に耳を傾けなくてはなりません。それは、その先の新たな提案をするためにも重要なことで、お客様が何を考えているかを知ってこそ、新しいものづくりができると思ったのです。そこで、お客様は何をポイントに、どんな視点で、ものを選んでいるかを改めて考える機会をもちたいと考えました」と語るのは、GLRの林三博さん。
お客様の声をリアルに聞き、学ぶ場。共創プロジェクトが始まり、お客様に集まってもらう場が設けられると、そこにはMD、デザイン、パターン、生産、販促、EC等の各パートからスタッフが集結。その場で聞いた意見は、すぐに自分の部署にフィードバックされ、共有されます。
「こういった取り組みは一度で把握できるものではないので、最初から継続的に長い期間をかけて行っていくつもりでした。そんな中、2012年からはお客様と一緒にアイテムをつくるという試みが始まりました」
お客様の声にとことん向き合った結果、大ヒットアイテムも誕生。
プロジェクトのメインはあくまでお客様の声を聞くこと、学ぶ事ですが、それに並行してアイテムづくりも始まったのです。半年間、プロジェクトメンバーに決まったお客様に毎月集まっていただき、ひとつのアイテムを完成させていきます。
ものづくりの現場で聞くお客様の声は、より具体的になり、ライフスタイルに密接した臨場感あふれるもの。最初は1アイテムを完成させるところから始まりましたが、少しずつアイテム数も増え、2016年からはメンズもスタート。とことんお客様のニーズに寄り添ったアイテムは、数々のヒットを生み出しました。
特に2015年、2017年に共創プロジェクトで制作したコートは、全社の中でナンバーワンの売り上げを記録。「結果が伴ったことはとてもありがたく、嬉しいことですが、貴重なお客様の声は1つの商品の精度をあげることで終わらせたくない。ものづくりに関わる全スタッフの意識に変化を起こし、全ての商品の精度をあげることを目的に続けました」。プロジェクトで得た意見を確実に商品に反映していく姿勢。GLRウィメンズが好調に進んでいる理由のひとつかもしれません。
臨場感たっぷり! お客様の声とともにアイテムづくりが進んでいく。
さて、今年も共創プロジェクトは行われています。その様子を見てみたいと会議室にお邪魔すると「おつかれさま〜」「久しぶり〜!」と、お客様同士、お客様とスタッフ同士も声を掛け合い、和気あいあいとしたムードが漂っています。毎月の集まりで回数を重ねていることもあり、メンバーは親しくなっているよう。「率直な意見をいただくため、第1回の集まりのあとは、スタッフとお客様みんなで食事会を開催したんですよ」と林さん。現在は、2019年の秋冬に売り出すウールのコート1型、ダウンコート1型、ジャケットとパンツ、ジャケットとスカートのセットアップ1型ずつの制作中。
この日はセットアップについてのディテール決め。まずはお仕事ファッションについてのリサーチが行われます。「みなさんジャケットって週に何回着ていますか?」「会社でのカジュアル服は、どこまでOKですか?」などのスタッフからの質問に対して、「ジャケットは週に2回くらい。社外の人に会う予定がない日は、カジュアルな感じです。デニムで行くこともあるかな」「うちは会社的にデニムNGです」など、ざっくばらんに普段の通勤服について語り、シチュエーションによってどんな風に使い分けているか、着崩し方、会社での服装の決まりについても聞きます。
その後は前回までに決まったことを踏まえて試作したデザインを見ながら、さらに詳しく意見を聞いていきます。「セットアップのパンツにポケットって必要ですか」「センタープレスはやはりあったほうがいい?」「この袖の丈感はどうでしょう?」などスタッフの質問に対して、しっかりと自分の意見、ファッション観を語る女性たち。「ポケットは便利です」「丈感はもう少し短い方が好みです」など、白熱した意見が飛び交います。「そうなんですか! 想定してたことと違った!」「勉強になる」と、そのひとつひとつを真剣にメモするスタッフたち。笑い声が絶えず響く和やかな雰囲気でありながら、そこには緊張感もあって、ものづくりがお客様の声とともに進んでいるという臨場感がありました。
今回は新しい試みとして、単品を制作するだけでなく、完成したアイテムをどう店頭に並べたらより目を惹くか、その見せ方についてもリアルなお客様の声を聞きたいと、コーディネートされたマネキンを前にプロジェクトメンバーの意見を聞いていきます。「このふたつ、似ていて違いがわかりにくい」「シーンが想像できない」「日常的なファッションが店頭にあったほうが想像しやすくて目を惹く」「この組み合わせは小物も含めてかわいい!」など、ストレートな言葉がどんどん出てきます。最初の意見をいただくとそこからはスタッフからも怒濤の質問返し。またしても熱い意見の応酬で、約2時間があっという間に経過します。
「今は、店頭でもスタイリング力が求められますし、スタイリング力があるアイテムが売れる時代。ベーシックすぎるかと思い避けていたスタイリングが実はお客様には響くものだったり、イチオシのコーディネートがあれ…? という反応だったり(笑)、共創プロジェクトは参加する度に目から鱗の新しい発見がありますね」とプロジェクトメンバーのデザイナー。
プロジェクトに参加したお客様からも「これが好き、と感覚で言ったことが、必ず『それはなぜ』と聞かれるうち、自分がどういうものが好きなのか具体的にわかりました」「意見をどんどん取り入れて、次回までに商品に落とし込まれていくのがすごくおもしろかった」「ぼんやりとした意見がスタッフの方たちによって具体的な言葉になっていく過程がすごいと思った!」などの声が。今回の共創プロジェクトで集まった声は、ブランド全体に伝わっていきます。また、このプロジェクトを続けることで得たことは、お客様のリアルな声だけではありません。真剣にその声に耳を傾けるうちに、お客様が何を見て、何を求めているのかを洞察する力も大きく変化しました。今後は更に、スタッフ一人ひとりの中に“お客様の声”を根付かせ、自らの力でそのニーズを感じ取り、新たなものづくりに生かしていきます。