シテンの視点 #18
WOMEN / MEN / シテンの視点
2022.04.08
シテンの視点・#18「かもめのジョナサン・完成版の視点」
文:百々 徹
原作は世界で4000万部を超える大ベストセラー小説。それを発行から40年経った2014年に物語に一節を加えて、Part Fourを付け加えて「完成版」として刊行されたもの。
オリジナルはその時代の背景からの影響も大きくあるが、発行して数年後から爆発的に読まれ始めた伝説の作品でもある 「かもめのジョナサン」。飛ぶことの歓びを追求したために、仲間から追放された一羽のカモメが、やがて・・・・という物語。この本の元は、アメリカ西海岸のヒッピーたちがひそかに回し読みしていて、それが何年かのうちに少しずつ広がってゆき、やがて一般に読まれるようになったという言い伝えがあり、つまりその時代のヒッピーたちの伝説のブックだった側面すらあった。
―ジョナサンにとっては、食うことよりも飛ぶことの方が大切なのである。それだけではない。飛ぶことの意味を知り、さらにそれを超えることすら彼の求めるところとなるのである。そして、さまざまな苦しい困難を自己と外界との闘いの末に、彼は完全な自由を吾がものとした光り輝くカモメとなって暗黒の大空へ飛び去っていく・・・・そんな大したカモメに、ただただ感心して、ひとつおれも食うことにあくせくするのは今日限りでよして、生きることの本当の意味を探る旅へ出発しよう、などと素直に反応するほど現代の私たちは単純ではない。しかし、最初のそういう抵抗感も、最後まで読み通してみると何となく気にならなくなってしまうところが、この物語の巧妙さなのだろう。―
(五木寛之さんのあとがきより)
コロナの時代、プーチンの戦争の時代、の背景を思いおこし、この本にある何かの視点を求めて、改めて読んでみました。否応なく飛び込んでくる映像やその数字に思うところも多い時代を生きている、少なくとも50年近く、あまり感じたことのない、ざらついた時代感が続く。自分はただのカモメであり、ただ飛ぶのが好きなんだ、たぶん・・・・
きみの目が教えてくれることを信じてはいかんぞ。目に見えるものには、みんな限りがある。きみの心の目で見るのだ。すでに自分が知っているものを探すのだ。そうすればいかに飛ぶかが発見できるだろう。本文中にはいろんな視点に置き換えることもできるように感じる言葉もならんでいる。
不思議なストーリーであります。
読者がそれぞれに自由な想像力の飛翔をたのしまれんことを。
ものには色んな視点、諸説があると思います。多様な角度からの視点で見ていますことをお含みおきくださいませ。
およそ月に一度のペースでコラムを担当させていただいています。
【百々 徹】
家具インテリアで15年、ファッションで22年、横浜・石川町の小さな雑貨店の店主として7年目、コラムニスト。
参考:かもめのジョナサン・五木寛之 創訳 1974年版のあとがきよりの引用を含む