シテンの視点 #27
WOMEN / MEN / シテンの視点
2023.01.05
シテンの視点・#27
文:百々 徹
工業デザイナー 柳宗理を"今一度"見るデザインの視点
「柳宗理」 今更、説明が不要なぐらいのデザイナーである。今なら、ちょっとしたセレクトショップの家庭用品のコーナー、雑貨店、ECのメガモールにおいても必ず品揃えがあり。若い人たちにおかれても、新しい生活を始めようか、という時にちょっと意識があり、生活には意図を持ちたいなと思うような人なら、柳作品を一つぐらいは選ぶはずと言えるような人である。つまり、日本の工芸デザインの近代化にとても寄与された方と言える。父は民藝運動の主導者、あるいは民藝運動の父と呼ばれる、知性の巨人「柳宗悦・むねよし」 である。
最近金沢を訪れたのであるが、その目的は金沢美術工芸大学が主催される「柳宗理記念デザイン研究所」をどうしても詳しく見たかったからだった。金沢はデザイン関係の優れた施設、特に美術館や工芸館に溢れている街であるのだが、この大学で、50年もの期間の教鞭を取られた人であるものの、個人の研究を一般に紹介しているケースは稀でもある。
かつて自分も柳宗理のデザインに傾倒し、その残された家庭用品の作品群の販売もしていたし、作品の多くを所有し、使ってもいた。なんとなくの理解の上に、なんとなく好きだったというような感覚で、柳デザインを買っていたというのが今思えば本音だったと言える。なんとなくいいデザイン、流行とかお洒落かな、というのに近い感覚かも知れない。そして最近はその存在も意識しなくなっていた。
だが、それは柳宗理の本質を知らなかったという言葉と同義語になる、今思えば。それが金沢にこの研究所がある存在を知り。大衆化したモダンデザインの本質の視点、を今一度確認しておきたいなという気持ちになったということ、つまり、高いデザイン性と使い勝手が良くて、買える価格にある、お洒落な生活用品であって、日本はもとより、台湾にまで深く浸透してきている事実があるからで、それは「シテンの視点」になり得ると思ったからだ。そう思うと、いてもたってもいられなくなり金沢へ飛んだわけである。こんな時代になり、宗理作品は、また時代に合い始めているなと感じたからだ。
正直、あまりにも柳宗悦、つまり父の存在やその偉業は大きすぎて、その息子である宗理の業績はまた違う次元にあると、勝手に思い込んでもいる自分がいたわけで、この研究所を拝見することによって、今思えばそれは違うこと、誤りだったと言えるように考えが改まったのだった。学校の言葉(なんと素敵な言葉だろう)
この展示資料室では、直にモノを見、触れてモノと対話して欲しいと考え、キャプション・説明文は一切用意しておりません。余計な知識や先入観なしに、無心にモノと向き合って自らの眼で素直に美を感じ取っていただくことを大切にしています。この展示資料・空間を通して、柳宗理のデザインにおける考え・姿勢を知って頂けたら幸いです。
柳宗理は戦後日本を代表するデザイナーである。工業デザインにフォルムの美しさを実現し、量産品のあるべき姿を導こうとし、今も多くの人々をひきつけている。ここでは柳宗理のデザインが伝える日常生活に息づくデザイン製品が見てとれて、今に生きる柳デザインの真髄が改めて存分に味わえる場所であると言える。
柳の残した、今も刺さる優れた叡智の集大成的な言葉
父の宗悦の言葉と違う、時代感がある、それは大衆と量産を意識している言葉が端々に見られて、民藝と工業との違い、つまり時代の違いとも言える。
柳宗理 「デザイン考」
〇デザインの創造とは、表面上のアピアランスの変化ではない。
〇創意工夫を持って内部機構を改革することである。
〇本当の美は生まれるもので、つくり出すものではない。
〇デザインの構想は、デザインする行為によって触発される。
〇デザインは一人でするものではない。
〇企業者は何よりもプロダクトマンシップを持っている人でなければならない。
〇よく売れるものは良いデザインであるとは必ずしも言えない。
また、良いデザインは必ずしもよく売れるとは限らない。
〇良いデザインは優れたデザイナーのみでは生まれ得ない。
〇本当のデザインは流行と戦うところにある。
〇伝統は創造のためにある、伝統と創造を持たないデザインはあり得ない。
〇デザインは社会問題である。
最近、深く調べることによって気づいたのは、宗理のデザインは北欧のなんとかとか、民藝のなんとかということとはまた違う世界にある。それらをも超えて、日本の工業(工芸)デザインの美しい産物、誰も真似せず、真似られない、そういう優れた体系の基に積み上げられた世界観があるように思えてならないのだった。ものには色んな視点、諸説があると思います。多様な角度からの視点で見ていますことをお含みおきくださいませ。
およそ月に一度のペースでコラムを担当させていただいています。
百々 徹:家具インテリアで15年、ファッションで22年、横浜・石川町の小さな雑貨店MWL STOREの店主として7年目、コラムニスト。
参考と引用:金沢美術工芸大学「柳宗理記念デザイン研究所」
撮影可の部分のみを撮影 全ての写真:百々 徹