シテンの視点 #29(最終回)
WOMEN / MEN / シテンの視点
2023.03.10
シテンの視点・#29(最終回)
文:百々 徹
ル・コルビュジェとココ・シャネルのマイライフ。
人類の歴史上で最も重要な建築家のひとりにル・コルビュジェがいる。あらゆる造形の美しさを極めた人で、建築としての3D、絵としての2Dその両方に稀な才能を表現した人と言える。そのコルビュジェの着ていた服にスポットがあたったことはあまりありませんが、写真集などをよく見てみると、これがとてもおしゃれな人なのだ。
美意識の強い人で自身が創作する建築と絵と同様、人は見た目の重要性があるということを自ら服を着る行為としての服で実践し、そしてメガネ、ハットなど、その人となりを表現するのに充分な印象をもたらしていた、当時としては、かなりモダンで最先端なファッションが見て取れて、現在の着こなしに、重要なインスピレーションを与えてくれます。
デザインや建築などにこだわる人は服やそのスタイルにも常に神経を使っていることが多いようで、その逆、服やスタイルにこだわる人は内装やデザイン、建築にも興味を持つということも言えなくありません。男性・女性を問わずです。
そういう意味での「マイ・ライフ」コルビュジェは晩年に母親に「小さな家」を絶景の場所にプレゼントした。とても素敵な小さな家です。そして自分自身も建築家らしくないほどの小さな、身の丈ほどの住宅に住んでいた。それは小さいとか大きい、あるいは高いとか安いという価値感からの自分の開放を意味していたのではないか?そう思えてならないのであって、それらのことは今の時代にとても新鮮に写る、その暮らし方、考え方、小さくとも、自分の好きなもの、環境含めて、囲まれて暮らすこと、それがほんとうの豊かな「マイ・ライフ」と言えまいか?と思う世の、今日この頃の日々が過ぎて行っている。
「マイ・ライフ」 自分のあり方が大事であるということであるのだが、オリジナルのルーツの価値観を解放することも自分にとっての一つの人生、「マイライフ」なのでは。
コルビュジェはココ・シャネルとほぼ同時期を生きて(コルビュジェ1887年、シャネル1883年の生まれ)亡くなっている、どちらもモダニズムを極めた人といえる、コルビュジェはモダニズムの草創期に画期的な建築手法を考案した。シャネルはこの21年代に香水「No.5」を発表し成功への足がかりとした。コルビュジェにおいては旧来の建築手法からの開放、シャネルにおいては「わたしはジャージーを発明して、女のからだを自由にした」「レースやコルセットや下着詰め物で着飾って、汗をかいていたからだを自由にしてやったのよ」という女性ファッションの解放を宣言した、当時としては独創的な考えをもった二人と言える。古い価値観からの開放を提唱し、やがてそれが社会に受け入れられることになる。コルブは晩年に住んでいた、別荘というか小屋、本人はかなりここを気に入っていたようだ。結局その家の下にある海で亡くなっている。小さな家には機能的な、そして絵画的な、また地球の自然に溶け込んだ設計がされている。
シャネルも同様に、戦時中の必然としての素材不足により、下着として使われていたジャージ素材で婦人服をこしらえるという、当時としては考えられないような、服の作り方をして、却ってその素材により出来る、ドレープやシルエットが新鮮に映り女性の美しさを際立たせたという、固定概念からの開放や「どんなものの中からもモードやモダニズムを見つける」ということを実践して見せたのでした。私はこの辺りに、シテンの視点があるように思えてならない。次世代の人たちには是非 ル・コルビュジェ、ココ・シャネルというクラッシックというモダニズムを学んでいただきたいと思うのですが、どうでしょう。私が注目したのはこの人の服のセンスである、若い頃から晩年まで一貫してセンスがいいと思う。服の着方で影響を受けたのは一にこの人、二にはアニエス・ベーさんである。建築を、洋服を、アートにした唯一の人たちだと思っている。
5年前にクリスマスの、出張でない個人旅行で訪れたパリ。その目玉のサヴォワ邸、もう90年以上も経つとは到底思えないモダニズム邸である。
20世紀の住宅の最高傑作、世界遺産である。
パリからしばらくの郊外電車で行った。足の便は悪いがそれもまたよかった。想い出深いものになった。いろんな影響をもらったのだ。
その美しさはさすがである。ここにシテンの視点がある。
既に100年近い、どういう視点を持つかにある。
家にこういう階段は欲しいと思う。
ロンシャンの丘の写真集、これもすごいね。売っていた。
なんとも、まぁ、である。
ものには色んな視点、諸説があると思います。多様な角度からの視点で見ていますことをお含みおきくださいませ。
百々 徹:横浜MWL STORE店主。コラムニスト。
参考と引用:LE CORBUSIER LE GRAND/PHAIDON
写真の撮影 全ての写真:百々 徹