連載コラム【音楽のある風景】 Vol.84
2019.04.30 NEW
グリーンレーベル リラクシング のBGMを選曲されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。
どうぞお楽しみください!
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4月の選曲は、あの素晴らしい音楽愛をもう一度と胸に刻みながら。
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平成から令和へ。
僕はちょうど25年前の春、初めてFree SoulのコンピレイションCDを作った頃のことを思いだしながら、ゴールデン・ウィークをすごしています。
まさに平成と共に歩んだFree Soul、各年の思い出と結びついたグルーヴィー&メロウな名作を31曲集めたニュー・コンピ『Heisei Free Soul(平成フリー・ソウル)』も現在制作中ですが、今回はその1994年4月21日にリリースされた『Free Soul Impressions』にまつわる話を。
1994年はオリジナル・ラヴが『風の歌を聴け』を、小沢健二が『LIFE』を大ヒットさせ、山下達郎や大貫妙子が在籍した伝説のグループ、シュガー・ベイブの『SONGS』がCD復刻された年、と言えば当時の渋谷の街の音楽的な雰囲気が伝わるでしょうか。
"話に疲れた頃には、誰かが歌い始める♪"――そんなメロディーをくちずさみながら、僕はその春に始めたばかりのDJパーティー「Free Soul Underground」へと、公園通りの坂道を上がっていったのでした。
そう、強すぎる風が今は心地よい(by オリジナル・ラヴ)、そんな気分で。
僕自身も人生の夏を迎えようとしていた時期、『Free Soul Impressions』には素敵なことが始まる予感が満ちていました。
あの頃のことを思いだすと、Free Soulをめぐる青春群像は映画にできる(いや、すべき)ような気がしてきます。
インターネットもSNSもなかったあの時代、DJブースを取り囲んだオーディエンスの良い音楽を求める表情、良い音楽にオープン・マインドで身も心も揺らす姿が、目に焼きついて離れませんでした。
音楽の神様が天から降りてきたような、そんな至福にあふれた瞬間が確かにあったことさえ、いつの間にか遠い記憶になってしまいそうな今でも、『Free Soul Impressions』を聴けば、そこにはとてもいい風が流れてきて、当時の瑞々しい空気感がよみがえってきます。
初々しさも気負いも、歳を重ねてしまった今の僕には照れくさいくらいの眩しさと輝かしさもありますが、ポジティヴィティーこそFree Soulの本質だったんだな、と感じることができるのです。
あれから25年、ポジティヴな気持ちを抱き続けるのは大変なことも、十分すぎるほど知ってしまいましたが、僕は今でもこのCDを流せばすぐにあの頃に還れることをとても幸運に思いながら、新しい時代を迎えます。
もう戻ることのない想いや届かない願いもたくさんあるけれど、ただただセンスを共有できる人が増えたらいいなあ、と素朴に他愛なく信じていた、あの素晴らしい音楽愛をもう一度、と胸に刻みながら。
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4月の選盤
シリーズ通算120作以上を数え累計セールス120万枚以上を誇る、今年で25周年を迎える人気コンピ"Free Soul"のファースト・リリースとしてグルーヴィー&メロウな70年代ソウル周辺の名作群が収録された、今なお洋楽旧譜の編集盤としては異例のロングセラーを続けている橋本徹さんが1994年春に選曲した『Free Soul Impressions』
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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは340枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/